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柴田直治 Headshot

セブ英語学校体験入学記 フィリピン人は英語がうまい。なのにはなぜこの国は貧しいままなのか?

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QQイングリッシュシーフロント校からの海辺の眺め

日本で最近、フィリピンのイメージがずいぶん変わってきたという。

かつての貧困、じゃぱゆき、日本人がらみの犯罪といったステレオタイプなキーワードが、ビーチリゾートやコールセンターなどの横文字に置き換わり、マニラ行きの飛行機では中高年男性と接客業のフィリピーナのカップルより、若者や日本観光のフィリピン人の家族連れが目立つようになった。好調な経済を背景に日系企業の進出や駐在員も増えている。

イメージ好転の理由はいくつか考えられるが、「英語」が大きく貢献しているのではないかと思う。

グローバル化する社会に英語は必須だという認識が、コストパフォーマンスの良いフィリピンへの英語留学やオンライン英会話に日本人を駆り立てている。大学生や成人に限らず、小中学校でもフィリピンとつなぐオンライン学習を取り入れる学校が増え、なかには学校単位で留学するところも出てきた。

そこで私は英語留学のメッカ・セブの日系最大手の学校QQイングリッシュに体験入学してみた。わずか5日間だが、還暦過ぎのおやじの英語に果たして改善余地はあるかを試してみた。

私は日本の中学、高校の教育以上の特別な英語教育は受けたことがない。留学経験もなし。23歳で新聞社に入社した後も大阪を中心にマルドメ(まるでドメスティック)なサツ回り、調査報道などを担当していた。それが38歳にして何の準備もなく、特派員をやれと命じられた。赴任先がマニラだった。

フィリピンでは英語で苦労した。当時、所属していた外報部で私の英語は最低レベルと揶揄されていた。毎日届く10以上の英字紙と格闘し、つたない語学力で多くの人と面談し、記者会見に臨んだ。レコーダーや助手の助けを借りながらもその場その場を凌いでなんとか2年半の勤務を終えた。

その後、東京や大阪でデスクをやったり管理職をやらされたりした後、50歳を手前にして再びバンコクで特派員生活を送り、定年までほぼ国際報道畑で勤務した。数多くのアジアの指導者や有識者にも英語でインタビューを重ねた。それでも英語がたいして上達した実感はない。相変わらず発音は悪いし、年とともに新しい単語は覚えられなくなる。さてそんな私が短期間とはいえ、英語漬けの生活を送ってみた。1日8~10時間の授業である。

■■■ マンツーマン授業が続くタフな一日


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QQイングリッシュの先生たちの朝礼風景

体験入学することになったのは、かつて取材でお世話になったQQイングリッシュの藤岡頼光理事長から「記事を書いて終わりではなく、実際に試してみては」と誘われたからだ。

同校はセブ中心部にあるITパークと、ビーチで有名なマクタンにそれぞれ校舎を持つ。私はリゾートホテルを改装したマクタンのシーフロント校舎で学んだ。選んだのはスタンダードコース。 

日課を紹介すると、午前9時から午後1時までに50分ずつの授業が4コマ。うち3つはマンツーマンで1コマはグループだが、生徒は2、3人。昼食1時間を挟み、午後2時から6時までまた4コマ。こちらも同様の構成なので1日でマンツーマンが6コマ、グループ授業は2コマ。6時からの夕食後、自由参加(無料)のナイトレッスンも2コマあり、そのうち英作文の授業にも顔を出した。

正直、きつかった。50分間、マンツーマンだとほぼしゃべりづめ。教師は21歳から30歳ぐらいまでの女性。夜のクラスだけはバクラ(ゲイ)君だった。狭い空間にミニスカ教師と膝をつきあわせているわけで、決して不快ではないが、しゃべりすぎで喉は乾くし、睡魔にも時に襲われる。

先生たちに日本人受講者の印象を聞くと。おしなべて礼儀正しくシャイだという。初心者でも臆することなくガンガンしゃべるロシア人、台湾人や韓国人の果敢さに比べて、確かにおとなしい。

外国に出ると、日本人は日本人同士で固まる同調圧力がより強くなるようにみえる。そうした日本人の特性を考えると、セブ留学は日本人の初心者に合ってると思う。ほとんどの授業がマンツーマンなのでシャイであっても英語を使わざるを得ない。英米豪に留学し、ESLなどで10人以上の授業を受けても、おとなしい日本人が発言する機会は限られるだろう。実際、米加豪に留学する前にここで学ぶ若者も多いという。 

フィリピン人から英語を習うメリットについて藤岡氏は「フィリピン人は英語ネイティブではなく、学習して英語を話せるようになった人たち。世界ビジネス英語指数BEIで3年連続断トツのナンバーワンはフィリピン。言い換えれば世界で一番成功した英語の学習者だ。彼らは習うツボを心得ている」と話す。

費用は1人部屋1日8時間のレッスンで一週間85000円ほど(入学金やビザ費は別)。1か月なら約18万円。食事が3食で週約5000円。食事は日本人向けにしてあり、相当うまかった。

運動不足になるが、夕食後に無料のズンバレッスンに参加し、その後、同校自慢のプールに飛び込んで気分転換した。ちなみに校内、寮内では飲酒厳禁だ。

■■■ 韓国が先鞭。日系が続くフィリピン英語業界


フィリピンには300とも500ともいわれる外国人向けの英語学校がある。主流は2000年ごろから立地を始めた韓国系だ。学生も韓国人が主流で年10万人が訪れるという。

日本より人口(市場)規模が小さく、企業の海外展開がより重視される韓国では、実践的な英語教育の必要性が早くから認識されていた。フィリピンに対するマイナスイメージも強くないため、米豪などより経済的、効率的に英語が学べるという実利主義から当地でのビジネスモデルが確立された。

英語を習うならネイティブからという「ブランド志向」の強い日本では、フィリピン進出は遅れたが、2010年ごろからまずオンライン英会話レッスンが安さをウリに始まった。スカイプで結ぶ限り、日本人が気にする治安も衛生面も問題はないからだ。その後、韓国系の学校を買収するなどして日系校も徐々に増えてきた。留学フェアも東京などで盛んになり、最近では年間2万人の日本人が留学で訪れる。

学校の多くがセブに立地する理由は、リゾート地として知られ、マニラに比べてイメージが悪くないからだ。(セブの観光キャンペーンではかつて、パンフレットから「フィリピン」という字を消すとさえいわれた)。若い人たちがフィリピンに留学するというと、ほとんどの親は「大丈夫なの」と懸念を示すという。ところが留学生が増えたこともあり、日本とセブを結ぶ直行便もできた。

QQイングリッシュは日系ということもあり、受講者の半数以上は日本人。他にロシア、韓国、香港、台湾といったところからの生徒が多かった。やはり若者が多く、2月には立命館宇治中学の30人が学んだほか、高校、大学生の団体も多い。なかにはカナダの高校に入学する前に、と2か月滞在していた15歳の少女もいた。他方、定年後、日本が寒い時期に毎年来るという年配者や老夫婦にも会った。 

QQのウリは、留学(オフ)とともにオンラインもやっていることだ。オンラインで勉強し、一週間以上のまとまった時間が取れたらセブで入学する。帰国後も親しくなった先生を指名してオンラインで授業を続けることが可能だ。

2つの校舎で計500人ほどの受講者を受け入れることができ、700人を超える教師が在籍している。それでもまだ教師は足りないそうだ。特に日本の学校が休みとなる2月から3月にかけては繁忙期。オンラインではなかなか受講枠が取れず、留学生の数も制限せざるを得ないという。

■■■ 英語はうまい。が、物足りなさも


フィリピン人の英語はやはり侮れない。

夜間(午後7時~9時)に開講する自由参加のクラスで英作文を教えるバクラ君は22歳と若いが、例文をガンガンとボードに書いてゆくさまはなかなか堂に入っていた。彼の英語はもちろんきれいで聞き取りやすいのだが、受講者のロシア人と台湾人は発音がひどくて英語なのかどうかも判然としない。それでもバクラ君は彼らの言葉を逐一直して英語らしきものにしていく。はたで見ていて手際の良さに感心した。

フィリピン人は発音に癖がないところが、教師向きだとされる。フィリピンはコールセンターの売り上げでインドを抜いて世界1になったが、これにもきれいな発音が寄与している。

教師らの教え方は概して丁寧で、何度同じことを聞いても嫌な顔をしない。初心者や子供相手にはとても良いと感じる。他方、会話の中身を問われる中級以上への対応となるといささか頼りない面もあった。

教師の一人は新卒の21歳。大学ではマスコミ論を専攻していたとかで、担当科目はニュース英語だ。ある日のお題は「race」、テキストで取り上げられていたのはタイガー・ウッズだった。スキャンダル発覚の前はとやかく言わなかった彼の出自が、その後、メディアで関連付けて取り上げられるようになったという話だ。英単語などを教えてれるのだが、彼女は肝心のウッズのスキャンダルを知らなかった。私は記憶をたどり、うろ覚えの知識(セックス依存症とは何かとか)を総動員して教えたら、目を輝かせて聞いていた。

グループレッスンではディベートの時間があった。「酒を法律で禁止すべきか」というテーマで、私は反対派に指名された。米国の禁酒法時代を引き合いに反対論をぶったのだが、若い先生や他の受講者は禁酒法もアル・カポネも知らないのでちんぷんかんぷんだったようだ。フィリピン人は大卒でも概して歴史や政治、社会的な知識が豊かとは言えない。

英語はうまくても突っ込んだ話にならないところに受講者としては物足りなさも感じた。

ただ仕方ないことかもしれない。700人いる教師のほとんどは20歳代。マニラに行ったことがあるのは例外的で、採用されてやってきたセブが人生最大の大都会という若者がほとんどだ。日本の同世代でもモノを知らないという点では似たようなものだろう。逆に言えば、田舎で育っていても、英語は実にうまい。

■■■ 夢の職場、それでも将来は海外で


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教師はそれぞれ自分のブースを持っている
フィリピン英語産業の課題は、優良な教師の確保であろう。

ほとんどのフィリピン人は公用語である英語を程度の差はあれ理解し、しゃべる。だが外国人相手の教師として通用する人材が掃いて捨てるほどいるわけではない。

QQイングリッシュには700人の教師がいるが、事業を拡大するにはまだまだ不足という。セブだけでなく、周辺のレイテ島やボホール島でも採用試験を実施している。案内を出した地元大学の卒業予定者すべてが応募する例もあり、書類選考の末に面接にたどり着くだけでも100倍の狭き門という。逆に言うと、大学出でも適格者は100人に1人もいないということだ。日本でフィリピン英語学習の認知度が高まれば、各学校は人材確保にさらに苦労することになるだろう。教師候補が無限にいるわけではないのだ。

QQの初任給は約15000ペソ(1ペソ=2・3円)ほど。少し経験を積むと2万ペソを超える。全員正社員で昇給も寮も食事もある。この国では相当にいい待遇だ。やめるのは月に数人と定着率も高い。

ライバルは、近年のフィリピン経済を支えるBPOビジネス、なかでもコールセンターだ。こちらは初任給で3万ペソぐらいはもらえる。それでも経験者は「ストレスの塊になる」と口をそろえる。苦情処理が多く、怒鳴られることもしばしば。フィリピンで電話を受けていることをばれないように受け答えする必要があり、時間も不規則。それに比べれば、英語教師は外国人の生徒にリスペクトされ、ややこしい相手もぐっと少ない。コールセンターから転職してきた教師も相当いる。

QQは新卒にとって希望の職場だ。それでも私を担当してくれた教師10人に将来の夢を聞くと、全員が「海外で働くこと」と答えた。ただし条件はdecentな仕事であること。つまりフィリピン人海外出稼ぎの主流である家政婦、介護士、建設労働者ではない職で、例えばいまの仕事、教師として出国するのが「夢」なのだ。だが人気の高い英米豪加は英語ネイティブの国だから厳しい。日本で英語教師はできないかとたびたび聞かれたが、「なかなか難しいね」と答えるしかなかった。

QQは明治大学やダイワハウスグループと組んで教師の一部を日本に派遣してきた実績があるが、日本全体でフィリピン人教師を大々的に受け入れているわけではない。英語教師はネイティブでないと、という思い込みが日本人全体に強いからだろう。

■■■ 英語ができるがゆえに流失する頭脳、人材


セブで英語を習うのは主に日本人、韓国人、中国人だ。英語こそがグローバル時代の必須科目、ステップアップのカギと考えるからだろう。とすれば疑問が浮かぶ。なぜ東アジア人よりはるかに英語ができるフィリピン人が総体とすれば貧しいままなのか? ここでは有能な教師たちより生徒たちのほうがずっと金持ちなのだ。

語学の習得は、だれにとっても容易ではない。QQの教師の多くはセブ島を中心とする中部フィリピンの出身。母語はビサヤ語などの地方言語であり、マニラ首都圏を中心に話されるタガログ語ではない。家庭はビサヤ語、テレビや教科書はタガログ語。算数や理科などの教科は小学校から大体英語だ。3つの言葉を使える人が多いが、問題は、英語やタガログ語が不十分な子どもは、教育システムそのものから落ちこぼれることだ。

一般のフィリピン人は概して算数や理科が苦手、地理や歴史の知識も極めて貧弱にみえる。人間の能力は国籍、民族にかかわらず、平均すれば大差はないはずだが、フィリピンの場合、教育制度の不十分さに加え、限られた時間、能力の中で語学習得に費やす労力が大きすぎるというのが私の観察だ。

この国では、国民のほとんどが、程度の差はあれ英語を話す。そのため海外暮らしの障壁が心理的にも環境的にも日本などに比べて格段に低い。これが国民の10分の1(1000万人超)が海外出稼ぎという事態につながる。国にとどまって社会、経済環境を改善するより、出国して先進国で暮らす方が手っ取り早いと考えがちだ。

政府も後押しする。マルコス独裁政権が奨励策を始め、歴代政権は出稼ぎ者を「国の英雄」と称えてきた。きちんとした経済政策がなくても、汚職の限りを尽くしても、国民が勝手に送金して経済全体を支えてくれるのだからやめられない麻薬のようなものだ。国民皆英語が、肉体輸出政策の背景にある。

古今東西、どこの国でも有能な人材が海外に活躍の場を求めることはある。この国の問題は、あらゆる階層、職業の上層部が出ていくことだ。教師が家政婦として、医師が看護師として出国する。国内は当然空洞化する。

フィリピン人は、日本人が想像できないほど家族思いの人たちだ。その彼らが出稼ぎに行き、家族と離れ離れで暮らす。出稼ぎの数だけ別離の涙があり、多くの家庭崩壊がある。

英語が多少できること、海外で働くことが、グローバル人材の定義ではない。それならフィリピン人は、ほとんどが当てはまることになる。日本人も同様だ。少しばかり英語を勉強しても、英語だけなら所詮ネイティブやフィリピン人、インド人にはかなわない。

フィリピン人は英語とタガログ語ができるが、タガログ語に経済的な価値は低い(例えば通訳、翻訳などの職は極めて限られる)ため、海外に出てもほかにスキルがなければ3K労働に就くしかない。その点、日本語は、腐ってもGDP3位の大国の言葉だ。日本語をきちんと操ることができれば(これは思うほど簡単ではない)英語が生きる。英語だけでは大きな価値は生まない。英語で語るべき内容がどこまであるのか、がポイントだ。

10年もたてば、ウエアラブルでビジネス使用に堪える通訳機ができるかもしれない。10年前にはスマホがこれほど普及するとは想像もできなかったのだから、あながち妄想とも言いきれない。英語を勉強する時間を他の知識やスキル習得に費やした人が勝つ時代が来るかもしれない。すると通訳は失職するか? 英語教育は、英語学校はどうなるだろう? フィリピン人の優位は崩れるだろうか?

■■■ それで英語は上達したか?


私は5日間のべ40時間近い授業を受けた。ほぼマンツーマンだ。QQイングリッシュのオーナー藤岡さんは、セブ留学の5日間は、駅前留学の160日分に相当する、と主張している。

さていろいろ御託を並べてきたが、受講の結果、肝心の英語力は向上したのか?

終了時にテストなどないが、結論からいえば、大きく改善したという手ごたえはなかった。

還暦を過ぎてもともと伸びしろが限られているうえ、私の場合は英語以前に、英語と、多少しゃべれるタガログ語が混在するタグリッシュの克服が必要だという特殊事情があったのだが、若いフィリピン人女性教師に囲まれる環境ではなかなか難しかったというのが正直なところだ。

それでもいくつか目から鱗と感じ入ったこともあった。恥ずかしながらCとSの発音を混同するとか、助動詞、前置詞、受動態などは理解していても英語で覚えていなかったとか。水金地火木土天海冥は、えーと VenusとMarsはどちらが金星だったっけ。JupiterやSaturnまではいえるけどあとは果たして何だったか。あるいは煮る、炒める、焼くなど、フィリピン人には常識である基本的な単語があやふやたったり。

ある年配の日本人受講者が「日本では口もきいてもらえないような年頃の娘さんと一緒のクラスで話したり、若い女の先生とマンツーマンだったり」と「若返り効果」を強調していた。

私の場合、わずか5日だったが、先生たちも食堂のおばちゃんらも口々に「戻っておいでよ」と別れを惜しんでくれた。このホスピタリティーこそが、フィリピンで過ごす醍醐味なのだ。

総括すると、「楽しかった」の一言に尽きる。

フィリピン人の平均年齢は23歳。日本の半分以下だ。アジアで最も若く、今後50年は人口ボーナス期が続くとされる。しかしボーナスを生かすには、教育と雇用の確保が前提となる。英語学校の隆盛、日本人の受講は、この国の問題解決に貢献する道でもある。