米大統領選で良かったただひとつのこと 政治王朝の足踏み。翻ってアジアは。そして日本は

今回の米国大統領選でひとつだけ良かったと思えるのは…

今回の米国大統領選でひとつだけ良かったと思えるのは、ヒラリー・クリントン氏もジェフ・ブッシュ氏も負けて、米国の政治王朝(Political Dynasty)がとりあえず広がらなかったことだ。世襲政治の跋扈はやはり民主主義とは相いれないと私は考える。

翻って日本を含むアジアを見渡せば、二世元首や三代目議員がうようよ生息する、というより、政治一族にルーツを持たないトップが例外とさえいえる状況が各国で広がっている。

中国の習近平主席は紅二代と呼ばれる二世。韓国の朴大統領は父娘で最高ポストについた。日本の安倍首相は祖父が元首相、父が元外相。金王朝の北朝鮮は三代目だ。台湾を除く東アジアは世襲政治に支配されているといって過言ではない。

東南アジアでは、シンガポールのリー首相とマレーシアのナジブ首相が父子2代にわたる首相。クーデターで軍事独裁となる前のタイのインラック首相(当時)は剛腕タクシン元首相の妹だ。インドネシアのジョコウィ大統領は政治一族の出ではないとして、その後ろ盾のメガワティ元大統領はスカルノ初代大統領の娘。ミャンマーの事実上のトップ、アウンサンスーチー国家顧問は、建国の父アウンサン将軍の娘だ。

新人大統領のフィリピンと、30年も同じ首相が権力を握り続けるカンボジアは違うようにみえる。ところがどっこい。ドゥテルテ大統領は前職のダバオ市長を娘に譲り、フンセン首相は息子を後継者にともくろんでいる。これから政治王朝を築こうとしているのだ。フィリピンでは近年、平均して上院議員の8割、下院議員の7割が政治家一族の出身とされる。

南アジアもしかり。インド、パキスタンは現在違うが、ガンジー家、ブット家と政界主流は政治一族が占め、バングラデシュなどは延々と二つの政治一家が争いを続けている。

グローバル化の進展に伴い格差が広がり、エスタブリッシュメント層に対する大衆の反発が世界的に強まっている。今回のトランプ氏の勝利やEU離脱を決めた英国の国民投票も同じ文脈で解釈することが可能だ。政治一族など、既得権を象徴するエスタブリッシュメント層の代表であろう。それなのになぜ彼らはアジアで当選し続けることができるのか。

これまでは貧困との関連を指摘する識者が多かった。貧しい地域ほど政治王朝の支配は広がる。貧困層は、その地域で「徳」を施すボスを頼る。その票で王朝ができる。絶対的な権力は必ず腐敗し、貧困も永続する・・・。

ところがアジアでは経済発展が続いている。地域差や波はあっても個人の生活レベルが向上しているため、世襲政治への不満が爆発する段階に至っていないという説もある。もちろん政権側が強権的に抑え込んでいる現実もある。

いまでこそ各国の大都市部が注目されるが、もともと農耕民族をルーツに持つ地域が広く、土地への執着が強いことや、富裕層にも大家族制が残り、一族がよりお互いを必要としている点を、政治一族支配が崩れない理由とする人もいる。

日本も衆議院議員の3割前後は世襲とされ、最近の首相10人のうち7人は世襲である。

日本ではこれがほとんど問題となっていないのはなぜだろう。経済成長は止まっても格差が米国などと比べるとまだ許容範囲ということか。

その米国でも4年後はミシェル・オバマ氏の登場を、という声があがっているらしい。

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