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ロボット記者は私の仕事を奪わない

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「記者の仕事、無くしたいの?」

西日本新聞(2017年1月10日付)で「AI 記者になる」という記事を書いた。

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By MattHurst / CC Licence BY-SA 2.0

九州地方の天気予報記事を、AI(人工知能、ロボット記者)によって自動作成するという内容で、実際にロボ記者が作った「記事」も紙面に掲載した。

そして記事が載った後、記者の先輩から冒頭の言葉をかけられた。

近年はAIに関わるサービスが次々と発表され、「AIによって今後10~20年で仕事の約半数が置き換わる可能性がある」といった調査が大きく紹介されている。顔は笑っていたが、「どうして自分たちの仕事を奪うような企画をするの?」という意味かな、と受け止めた。

もし答えるとすれば、
ロボット記者は、(本質的な)記者の仕事は奪わないと思っている。

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記事作成の手順を紹介すると、米国の企業「オートメーテッド・インサイツ」のサービス「ワードスミス」を利用した。AP通信など大手通信社をはじめ、約20カ国の100社以上(報道以外も含む)が導入しているという。データの数字や文字のさまざまなパターンに対応した言葉を事前に設定しておく仕組み。今回は日本気象協会から本物の予報データを提供してもらい、データに応じて自動作成された原稿を新聞に掲載した。

   
 <ロボット記者が「書いた」記事>

 おはようございます。今日から新学期がスタートする学校が多いと思います。1月10日の九州北部(福岡県福岡地方)の天気予報は、晴れ時々くもりでしょう。降水確率は午前、午後ともに10%でしょう。傘は持たなくても大丈夫です。
 日中の最高気温は11度、最低気温は6度となる見込みです。前日より最高気温は1度低く、最低気温は4度低いでしょう。平年と比べて最低気温は2度上回り、最高気温は平年並みでしょう。
 風は北西の風後北の風、海上では後北西の風やや強くなるでしょう。日の出は午前7時23分。日の入りは午後5時29分です。
 今日のお出かけには、コートを着ないと寒いでしょう。今夜の夜空は、よく見れば星が現れるかもしれません。

■タイピング記者の代わりにはなる

コンピューターは大量の文章を一度につくれるし、人間のように数字の計算ミスはしない。実は記事掲載前に、数値の間違いに気づいたが、それは私(人間)の設定ミスだった。

ロボ記者の良いところは、単純な原稿を処理してくれることだ。私が知る新聞社の現場では、例えばイベントの告知記事など、パソコンの横に資料を置いて、定型文通りに「ヨコをタテにする」という作業がある。私もたまに経験する。

発表された事実や発言をタイピングするだけの記者なら、ロボットが代わりをしてくれる。

一方で、人間に会って質問し、相手の顔色を観察して、社会の事象も合わせて記事に落とし込むことはロボットには(少なくとも今は)できない。だから、私に言葉をかけた先輩は後者の仕事をしているだろうから、失業しない。(写真はロボ記者の設定画面)

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ロボ記者の可能性は、取材範囲の拡大にあると思う。AP通信はワードスミスで野球のマイナーリーグを取材することにした。日本でもプロ野球はテレビ・新聞が競って取材しているが、地域のマイナースポーツは取材しない。マイナーリーグよりも、もっと身近な大会をニュースにできないだろうか。

子育て中の女性たちがチームをつくって参加する地域のバレーボール大会や、朝のゲートボール大会には、新聞記者は行かない。

だけど、例えば「春日部バレークラブ(仮)が町大会で優勝!」「佐賀北キッズサッカークラブ(仮)が~年ぶり勝利」というニュースが配信されて、喜ぶ人がいるかもしれない。

■ロボ記者が、あなたの記事を書くか

プロスポーツでは私たちは観客だが、地域スポーツでは参加する読者(プレーヤー)が主人公だ。

自分たちが主人公の記事が増えると、新聞社をもっと身近に感じてもらえるかも、しれない。ロボット記者を地域情報の深掘りに使ってはどうかと思っている。

私が働く西日本新聞は今年140周年を迎えた。特集号制作のため、AI研究者で東京大大学院の松尾豊特任准教授を同僚がインタビューした。松尾氏は「英語の新聞記事やテレビ番組を日本語で同時通訳することが、10~15年後に可能になるだろう。日本の新聞はウォールストリート・ジャーナルやCNNと比べられる。グローバルで戦わないといけなくなったとき、付加価値をもう一度、考える必要がある」と指摘していた。「AIができない分野にリソースを集中し、AIと役割分担することになる」とも話していた。

AI、ロボット、ソフトウエア・・・。メディアの記事ではよく登場するけれど、私たち自身が使うことは驚くほど少ない。テクノロジーを「よき同僚」に、現場で実際に使っていくことが大切だと思っている。

※AIは「人間のような知能を目指す技術や研究」などとされるが、研究者によって定義はさまざまで人工知能学会にも「明確な定義はない」。今回の試みは近年のトレンドである機械学習は活用されていないため、ブログでは「ロボット記者」ともした。社内でも最初の記事掲載前に議論があった。