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「武装難民」は射殺してもいいの?

条約から読み解く難民のこと

2017年09月26日 10時35分 JST | 更新 2017年09月27日 12時09分 JST

9月23日に日本の副総理が、朝鮮半島から大量の難民が日本に押し寄せる可能性に触れ、

武装難民かもしれない。警察で対応するのか。自衛隊、防衛出動か。射殺ですか。真剣に考えなければならない。

と発言したことが物議を醸しだしました。

この発言の表面上の乱暴さについてひとまず置いておくとして、北朝鮮難民がボートで漂着した際にどのような対応をすべきか具体的かつ真剣に考えておく必要があるという点は、的を得た発言と言えます。

そこで、日本政府が批准している国際条約に則るとどのような対応が適切なのか、少し丁寧に考えてみましょう。なお、北朝鮮有事の際に本当に「大量の難民」が日本に押し寄せる可能性があるのかについては、既に過去のブログに書いていますのでここでは割愛します。

1.武装していても難民は難民

今回の副総理の発言を受けて、あたかも「武装している難民は保護しなくてよい」かのような誤解が散見されますが、武器を保持していようがいまいが難民は難民です。一旦日本の領域や領海内に入ったら、彼らを人道的に保護する法的義務が日本政府に発生します。

難民の定義については既に過去のブログで説明していますので詳しくは繰り返しませんが、基本的に母国(北朝鮮)での迫害を逃れて他国(日本)に保護を求める人です。「武器を持っていたら難民ではない」などという条文はどこにもありません。

実際、自衛のために武器を所持せざるを得ない難民は世界中で大勢います。残念ながら、(潜在的)難民が母国にいる間に外国政府からビザを発給してもらえることは非常にまれなので、彼等の大多数は非合法な方法で他国に入らなければなりません。

その非合法入国を目指す上で暗躍しているのが密航業者や人身売買業者で、密航途中にそのような業者やギャング達に暴行されたり殺害されるケースが実際に頻発しています。

難民達は文字通り命からがら逃れてくるのであって、そのような業者やギャングから自分の身を守るために必要な自衛の策を講じるのは、人間として当たり前のことでしょう。

因みに、北朝鮮からの漂流民は(日本人の拉致被害者や北朝鮮帰還事業で北朝鮮に渡った方の子孫以外)ほぼ100%不法入国になるはずですが、不法入国を理由として難民を処罰してはならない、というルールも既に確立しています(難民条約第31条)。

北朝鮮出身者が不法に日本の領海や領域に入ったとしても、難民なのであれば適切に保護する法的責任が日本政府にあります。 

但し実際問題として、本当に日本に保護を求めてくる北朝鮮難民であれば、保護してほしい相手、つまり日本政府(海上保安庁、海上自衛隊、入管職員、警察など)を攻撃してくるというのは、矛盾する態度でしょう。

従って、それらの人々が日本の領海や領域内に入った段階で、朝鮮語で「こちらは日本政府である、武器を放棄せよ」と再三警告してもまだ攻撃してくるような態度を示した場合には、難民である可能性が低いかもしれない、と疑うことはできるかもしれません。

そのように、こちらが保護してあげる態度を明確に示したにも関わらず、いつまでも攻撃を仕掛けてくる漂着民については、一旦難民かどうかの判断を保留して、警察なり自衛隊なりが通常の手続き規則に則って武装解除して拘束すればよいのです。

軍事や公安専門家ではない私にでさえ、例えば威嚇攻撃や足元・手元の狙撃といった武装解除措置はすぐに思いつきます。日ごろから公務員としてきちんとした訓練や研修を受けている日本の自衛隊や治安当局の方々であれば、問題なく対応できるでしょう。

そのように粛々と武器を放棄させた上で、一定の宿泊所などに保護ないしは収容して、一人一人の身分事項を確認し、難民かどうか(つまり北朝鮮に送還したら迫害のおそれがあるかどうか)の判断を、時間をかけて落ち着いて行えばよいのです。その際、最初から丸腰で保護を求めたきた漂着民と、武装解除措置が必要だった漂着民を、念のため分けて保護するといったことも考えられるでしょう。

いずれにせよ、漂着民が武器を持って入域・入国したからといって、本当に難民なのかどうかの審査もせず「射殺する」などといった極端な措置をとる必要は一切ありません。そのような提案をすることは逆に、日本の領域・領海・国境を最前線で日々守って下さっている海上保安庁、自衛隊、入管職員、警察の方々のプロ意識と能力を過小評価し過ぎではないでしょうか。

また、難民かどうかの判断について難民条約(第1条F)は、母国で迫害のおそれがあっても国際法上「難民とは認められない人」も規定しています。簡単に言うと、(1)平和に対する罪、戦争犯罪、人道に反する罪を犯した人、(2)日本国外(主に母国)で重大な犯罪を犯した人(政治犯は除く)、(3)国連の目的や原則に反する行為を行った人です。

漂着した段階で、その北朝鮮出身者がこのような罪を犯した人である確固たる証拠を日本の公安側が持っている可能性がどれほどあるのか分かりませんが、例えば金正恩体制の幹部などは明らかに「難民」の定義にあてはまらないでしょう(その後の処遇については以前のブログを参照。)

 

更に難民条約は、戦争状態や緊急事態の場合には、最低限必要な期間のみ「暫定措置」を採ることを認めています(第9条)。具体的には、日本が戦争か緊急事態にあるため、丁寧に一人一人の漂着民が「難民かどうか」の審査をできない間だけ、拘束ないし収容するといった措置が想定されます。

但しその暫定措置は、難民性の判断ができない間、あるいはそのような暫定措置が必要かどうかを判断するために必要な期間だけに限られますし、措置は「暫定的」でないといけないので、「射殺」などといった最終的措置は含まれません。

2.難民の「射殺」は「人道に対する罪」または「戦争犯罪」

一言でいえば、難民を射殺することは殺人で犯罪です。特に殺人行為が、例えば副総理からの指示に基づいて国家の政策として組織的に執行された場合には、「人道に対する罪」という国際犯罪であることが、日本政府が2007年に加入した「国際刑事裁判所に関するローマ規程」の第7条(1項の(a))に定められています。

この場合、射殺された難民が「文民」であることが条件ですが、国際人道法上、単に武装しているだけでは「戦闘員とはみなされない」(つまり文民である)こと、そして文民かどうかわからない時には文民と見なすことが既に確立しています(ジュネーヴ条約第一追加議定書第50条)。

更に日本が北朝鮮と国際的武力紛争(つまり戦争)をしている間は、北朝鮮からの(文民である)難民を殺害することはもちろん、たとえその難民が漂着時に武装している「戦闘員」だったとしても、武器を放棄したにもかかわらず殺害したり負傷させることは、「戦争犯罪である」ことが、国際人道法と上記のローマ規程(第8条「戦争犯罪」2項(a)の(i) 、(b)の(i) と(vi))に定められています。

日本政府はこのローマ規程に加入した際に、その規定に沿った形で国内法を整備していますので、そのような「人道に対する罪」や「戦争犯罪」が犯された場合には国内法に則って犯罪者を起訴・処罰されることが期待されます。しかし、もし日本政府が捜査と起訴を真摯に行う意思や能力がないと判断される場合には、国際刑事裁判所の検察官が独自に捜査し起訴することも可能です(ローマ規程第13条・第17条)。

国際刑事裁判所は、第二次世界大戦後の極東国際軍事裁判とニュルンベルク裁判の反省に基づき、また1990年代に設立されたルワンダ国際戦犯法廷および旧ユーゴスラヴィア国際戦犯法廷の経験を踏まえて設立された常設の国際刑事法廷です。

日本外務省のウェブサイトによれば、

我が国は、ICC規程の起草時より、重大な犯罪行為の撲滅と予防、法の支配の徹底のためICCを一貫して支持

しているそうです。

日本の政治家が再度、国際犯罪の被告人として戦犯法廷に出るような不名誉な事態にならないよう、切に願いたいものです。

3.日本には既に多数の漂着民を保護した経験がある

実は日本は、主に1970年代後半から1990年代にかけて、1万3000人以上のインドシナ難民が自力で漂着ないしは海難救助されて日本に上陸した、という経験を有しています。その間、日本国内で2か所のレセプションと救援センターが設立・運営されていた時期もありました。

確かに、海難救助に始まり、一人一人の身元確認から、健康診断、日々の衣食住の手配などなど、少なくとも一定期間はそれら漂着民の全ての面倒を見なければならないのは大変なことです。

でもこれは世界中のどの国家も果たしている義務であり、残念ながら日本だけが逃れられる訳ではありません。

特に日本は、シリア難民を数百万人抱えている国々から、負担分担という意味でシリア難民を受け入れるという積極的な「痛み分け」をほとんどしてきていません(今のところ5年間で最大150人の留学生の受け入れ措置に留まっています)。

よって、「以前日本がうちの負担を分けてくれたから」、「今日本が大変なら昔のお礼として」といって日本にいる北朝鮮難民をわざわざ引き受けてくれる国はまず出てこないでしょう。これが国際政治の現実的「相互主義」というものです。

まとめると、武装している状態で漂着しても難民は難民ですし、そのような難民を文民か戦闘員かの判断をすることなく十把一絡げに射殺したら、「人道に対する罪」ないしは「戦争犯罪」として、場合によっては国際法廷で裁かれ処罰されます。

今すべきことはそのような犯罪を犯すかのような極端な発言をすることでなく、日本自身が持つ豊富な過去の経験を踏まえ、危機管理施策に基づく具体的なシミュレーションをしておくことではないでしょうか。