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農業分野での「外国人労働者」受け入れに5つの質問

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自民党は農業分野での「外国人労働者」の受け入れ検討をいよいよ本格化すると言う。労働力が足りている間は「外国人労働者」は必要無いが、農業従事者の減少と高齢化が全く止まらない現状では、極めて現実的な対応だろう。食糧自給力は市民の生活に不可欠であり、安全保障の観点からも最低限の食糧自給率は死守する必要がある。

恐らく来年の通常国会に向けて既に様々な検討が与党・政府内で進んでいると思うが、具体的方針が決定・公表される前にいくつか質問したい。


1. 在留期間の長さは?

当初の在留期間は3か月か、1年、3年、5年認めるのか、また「定住者」「永住者」への変更も可能なのか。更新制とするのか、一旦帰国を条件とするのか。

欧米諸国では、移民の出身国政府と2国間協定を結び、「最長8か月(又は11か月)」などの1年未満の上限を設けて農業に従事する季節労働者を受け入れている国も多い。8か月という期間は、農業には季節による繁忙期と休閑期があることと、滞在期間が長くなると受け入れ国の制度によっては社会保障上の一定の権利が生じる等の事情による。

但し「8か月以内」に合法的に帰国すれば、来年も同じ者を受け入れることができるため「循環移住制度」とも呼ばれている。

またEUでは、5年間同一国内に合法的に在留したEU域外出身者には永住申請権が発生することになっており、「5年」という期間は国際的に一定の法的意味合いを持ち始めている。


2. 社会保障は?

健康保険や年金制度への加入は任意なのか、義務付けるのか。人間なのだから当然病気やケガの可能性もあるが、国民健康保険に加入していなかったため高額の医療費を払えなくなってしまった日系ブラジル人・ペルー人等の例は多い。

本人の健康にとって重大なだけでなく、公衆衛生上の脅威にもなりうる。また、「(研修)技能実習生制度」において問題の多かった労災への対応も事前に十分検討しておく必要がある。

更に上で述べた在留期間にもよるが、最終的に「農家の後継者」として日本に永住する可能性もあるなら年金制度への加入も妥当だろうし、むしろそれは危機的状態の日本の年金制度にとって非常に有難い貢献となる。一方で、年金受給期間が始まる前の帰国が絶対であり、且つ日本の年金制度と互換性があるような制度が出身国に存在しない場合、「掛け捨て」を強要すべきではない。


3. 日本語能力や事前研修は?

一定の日本語能力があることを入国の要件とするのか、それとも入国後に働きながら日本語を学ぶのか。在留期間の更新・変更と日本語能力をリンクさせるのか、させないのか。日本語研修の費用は誰が持つのか、「外国人労働者」自身か、国か、農協か、あるいは受け入れ農家なのか。

農業は一般的に「単純労働」と見做されることが多いが、職場でも居住地域でも周囲の人々と意思疎通できることは不可欠である。日系ブラジル人・ペルー人に日本語能力が全く無いために、地域の日本人住民と様々な摩擦が生じてしまった例は枚挙に暇がない。

また来日前にどの程度の事前研修・説明会を行うのか。

上で述べた社会保障制度や所得税の源泉徴収制度などは、「外国人労働者」の出身国となるだろう中進国・途上国では存在しない場合が多く、毎月の給与から差し引かれた金額が何を意味するのか、しっかり母語で説明する必要がある。そうでないと天引きされた金額は「外国人労働者」にとっては制度的「搾取」と映りかねない。

更に制度だけでなく、日本社会に存在する様々な言外の社会的規範についても事前に十二分に説明する必要がある。1990年に始まった日系南米人の受け入れの背景には、「日本人の『血』が流れているから日本社会にスムーズになじめるだろう」という日本側の一方的期待もあったようだが、その期待は見事に裏切られた。

日本語もできず日本社会についても全く知らない「外国人労働者」に説明もなく日本社会の不文律について「察しろ」というのは、無理な期待でしかない。日本社会におけるあらゆる制度・文化・慣習・規範について母語や「やさしい日本語」で事前に丁寧に説明し、できれば研修なども積むことが重要である。


4. 家族呼び寄せは?

農業従事者は単身での受け入れなのか、それとも家族の帯同も可能なのか。その場合「家族」の定義・範囲はどこまでか。直系卑属(未婚の子)のみか、直系尊属(親など)も含まれるのか。また帯同してきた家族の活動資格はどこまで認めるのか。恐らく義務教育課程相当年齢の子どもについては地域の学校に通うこととなるだろうが、16歳以上の家族は就労できるのか。

上で述べたような数か月単位での「循環移住」の形態をとるのであれば家族の帯同は現実的ではない。しかし在留期間が3年・5年あるいは定住・永住まで想定されるのに、家族の帯同が一切認められないとすると、それは来日を希望する「外国人労働者」の数にかなりの影響を及ぼすだろう。

また家族の帯同を認めないのであれば、母国の家族への「仕送り」について何らかの支援を考える必要がある。母国への仕送りが手数料安く安全にできるかは「外国人労働者」にとっては最も重要な懸念事項の一つである。世界的に見て、移民による母国への海外送金の年間総額は、世界中の年間ODA総額の4倍以上となっており、移民の出身国の社会経済的発展に大きく影響する。

また(正確なデータ把握は困難だが)、安さ・早さを求めるあまり「地下組織」経由で行う海外送金が国際的犯罪組織の活動資金になっているのではないか、という懸念もある。


5. 転職の可能性は?

農業からの転職は可能なのか。あるいは在留資格にいう「特定活動」は農業分野に限るのか。またあくまでも末端の従業員としてのみの活動に限るのか、あるいは本当に困窮している地域や分野については経営者や後継者になる可能性も認めるのか。

日本人でも「外国人」でも、より給料の高い職種を目指すのが大多数の人間の性だろう。特に高度な日本語能力を身に着けた「外国人労働者」は日本人と同様、農業よりも給与水準の高い職種への転職を目指すようになる。

また「(研修)技能実習生」制度でも、後継者探しに悩む日本人雇用主から「研修生や技能実習生に後継ぎになってもらいたい」という声も聞こえる。既に述べた在留期間の問題と併せて、検討しておくべきであろう。

以上、既に内部では決着済みの点もあるかもしれないし、一つの方針が決まればドミノ方式に決まっていく他の疑問点もあるが、最後に、一般的な姿勢として二点指摘したい。

「外国人労働者」に「来させてやる」という姿勢では、確実に失敗する。高度人材の受け入れは既に随分前から世界的獲得競争が繰り広げられており、その競争において残念ながら日本は敗北を喫しているが、実はいわゆる「単純労働者」についてもにわかに国際競争がチラホラ始まっている。

そのような世界情勢をはっきりと認識し、「来させてやる」ではなく「来て頂く」という姿勢で迎えなければ、来日を希望する外国人農業従事者が「思ったより少ない」という結果になるだろう。そのことは、経済連携協定(EPA)の一環として一応門戸が開かれた看護師・介護士の人数からも明らかである。

また、この投稿で「外国人労働者」と括弧「」を使い続けたが、「外国人労働者」の受け入れとは「労働力」の輸入ではなく、一人の人間を受け入れることに他ならない。彼らは一定の労働を提供するロボットではなく、一人一人個性を持つ「生身の人間」である。家族もおり、病気にもなり、夢もある一人の人間を新たな地域住民として受け入れるのだ、ということを忘れてはならない。

これは単に「外国人労働者」の権利保障という意味だけでなく、新たな制度が日本の農業の存続・食糧自給率の維持に貢献するか、あるいは雇い主や地域住民との摩擦や双方の失望だけを生み出して終わるのか、その成否に直結する視点である。