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移民政策における「ジャパニーズ・ソルーション(日本型解決法)」?

真の問題は労働力不足では全くありません。

2017年12月05日 14時05分 JST | 更新 2017年12月05日 14時05分 JST

私が所属している英国サセックス大学「移住問題研究所」では毎年11月末に国際シンポジウムを開催していて、今年の最終スピーカーは世界的に著名な人口学者ロナルド・スケルドン教授でした。

彼は西ヨーロッパ諸国がどれほど移民の労働力に頼っているのか、地元民の間での出生率は低いけれど移民(外国生まれの人)が生む子どもによって何とか人口バランスが保たれているのかを力説した上で、最後に、

さて、ヨーロッパ諸国はこの事実を正面から受け止められるか、あるいは「ジャパニーズ・ソルーション」つまりロボット依存型に陥るのか・・・

と苦笑いしながら話を締めくくりました。

実はスケルドン教授が日本の人口政策に警鐘を鳴らすのはこれが初めてではなく、2年前の学内セミナーでも、日本の人口ピラミッドがどれほど危機的なものか30分ほどかけて説明されました。

そのセミナーの様子は毛受敏弘氏の『限界国家:人口減少で日本が迫られる最終選択』(朝日新書)の冒頭部分にも引用して頂いているのですが、「本当にロボット開発で日本の人口危機が解決するのか」と教授が問われたのに対して、会場で唯一の日本人であった私が「短期的な労働力不足にはロボットで一定程度対応できるけれども、ロボットは税金も保険の掛け金も払わないので、遅かれ早かれ社会保障制度の破綻は避けられない」と発言したところ、「その通り!」と言われて議論が即刻終わってしまいました。

よく日本への移民を受け入れるか否かが議論される際に、「日本はそもそも人口過多だし、労働力不足はロボットやAI開発で対応できるので、外国人なんていらない」、という意見を目にします。

確かに、絶対数としての人口減少は環境問題に良い影響を与えるかもしれませんし、人間がやらなくてよい仕事はどんどんロボットにもAIにも頼ったら良いでしょう。

日本人は働き過ぎの傾向があるので、労働時間が短縮されて日本人の「生活の質」も高まるかもしれません。良いことです。

でも、真の問題は労働力不足では全くありません。

人口学では15歳から64歳のことを「労働力人口」とか「生産年齢人口」と呼び、彼等の数のことを議論するので、あたかも移民問題=労働力問題と勘違いする人がいます。

でも日本のように一定の社会保障制度の存在が前提となっている国で、15歳から64歳の人に期待されているのは、労働や出産・子育てだけでなく、収入を得ることで税金を納め、健康保険や年金などといった社会保障費を負担することもあるのです。

労働力だけで言うのであれば、日本の老人はみなお元気ですので、定年を引き上げて80歳まででも90歳まででも働きたい方にはご活躍頂けば良いでしょう。

本当の問題は、15歳から64歳の社会保障費の負担人口よりも65歳以上の社会保障の受益者人口の方がずっと多くなってしまい、その傾向に歯止めがかからなくなった時に、警鐘が鳴りやまなくなるのです。

そして日本は既に10年以上前からその警鐘の真っただ中にいます。

ものすごく話を単純化して年金制度で例えると、年金を支払う人よりも年金を受け取る人の方が多い傾向が長期間続く場合、自分が年金に支払う金額よりも、後々受け取りうる年金額が低くなることが明らかなので、年金に加入する魅力は消滅します。

そこで、一定の資金がある人は公的年金への義務的支払いを極力抑えた上で、投資と保険を兼ねた「個人年金」を始めますし、語学力と一定のスキルのある日本人は、自分の老後と子ども達に将来的にかかる過剰な負担を懸念して、既に海外移住し始めます。

日本からの頭脳流出です。

この傾向が更に進むとどうなるのか。

近年の若年層に見られる不安定な雇用形態の増加や頭脳流出により、少ない金額の税金や社会保障の掛け金しか払えない日本人が、多くの高齢者を支えなければならない状況が生まれます。

数年後には消費税が再度引き上げられるようですが、生産年齢人口の方々で健康保険支払額や年金支払額、介護保険料などの引き上げを感じ、高齢者の方々で年金受け取り額の減少を感じていらっしゃる方がいるとすれば、それは正に日本の人口政策・移民政策の失敗を肌で感じているのであり、近い将来の社会保障制度の破綻の予兆以外に他なりません。

繰り返しになりますが、日本における人口総数はあまり問題ではないのです。

日本がどのくらいの規模の国でありたいかはイデオロギーや価値観の問題で、正しい答えも間違った答えもありません。

そうではなく、最も重要かつ危機的で答えが白黒ハッキリしているのは、人口ピラミッドがどういう形を描いているのか、安定した末広がり型なのか、あるいは高齢者ばかりが多い頭でっかちの逆三角形型なのか。

15歳から64歳の生産年齢人口で、税金、健康保険、年金、介護保険などの掛け金を十分に負担できる人々の割合がどれくらいなのか、日本の社会保障制度が破綻するのか維持できるのか、なのです。

日本政府は2020年オリンピック・パラリンピックへ向けた短期的な施策に一生懸命です。

インバウンドの外国人観光客呼び込みも大いに結構です。ぜひ美しい日本の景観や素晴らしい日本の伝統や文化、美味しい日本食を外国人の方々に味わってもらいましょう。

私は子どもの頃から茶道を習っているのですが、茶道の素晴らしさ・奥深さを分かって下さる外国人が増えたら個人的にも嬉しいです。

でも、外国人観光客の増加は、日本社会が既に薄々感じ始めていて、かなり近い将来に直面する社会保障制度の破綻の回避には、残念ながらほとんど寄与しません。

また、短期的な視野での労働力不足の解消という観点から、技能実習制度の対象分野を従来の農林水産業だけでなく、建設さらには介護・家事労働にまで拡大していますが、最大5年の滞在が想定される技能実習生の増加では、中長期の滞在が前提となる年金制度を危機から救うことはできません。

その意味で、外国人留学生制度を充実させ、大学・大学院卒業後も定住や永住を前提に日本に残ってくれる若者を増やす政策は、ある意味で「筋が通った」政策と言えるでしょう。

しかし最近とても残念な統計を目にしました。今年10月にTimes Higher Educationが発表した調査によると、「世界の学生が留学したい国トップ20位」に日本は入らなかったそうなのです(ちなみに中国は9位、韓国は16位)。

この結果は、以前のブログでも書いた通り、法務省が平成24年から導入しているポイント制度で、日本に移住してくれる外国人高度人材者の数がいつまで経っても増えない、という現実とも軌を一にしていると言えます。

要するに、せっかく意を決して門戸を開いても、世界中どこからも引く手数多である優秀な留学生や高度人材は頼んでも日本には来てくれない状況が、もはや現実のものになってきているのかもしれません。

「既に手遅れなのかもしれない」という怖い声が聞こえてきそうですが、日本の社会保障制度を一刻も早く破綻への急降下から救い、日本人の頭脳流出を直ちに食い止めるために、どうやったら若くて優秀な外国人たちに日本に来てもらえるのか、本当の意味での「Yokoso! Japan」施策を真剣に考え可及的速やかに実施し始めるべきです。

今、考えるべき本当の問題は、「日本が移民を受け入れるかどうか」ではなく、「移民によって受け入れられる日本にどうなるか」なのではないでしょうか。