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新大統領令が表す外国人の入国管理に関するいくつかの「ファクト」

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今週月曜日、米大統領のトランプ氏は、1月末に発出した出入国管理に関する大統領令に代わる新大統領令を発出しました。

1月末の大統領令が出された後、日本でも出入国管理について様々な意見が飛び交い、「外国人の入国を認めるか否かは完全に国家の裁量の範疇である」とか、「どの外国人の入国を拒否しても国際法違反ではない」などといった見解も見られました。

ところがそのような見解は優しく言って「勉強不足」、厳しく言うと「オータナティヴ・ファクト」(つまりウソ)であることを新大統領令は如実に表しています。

その理由とロジックは米国だけでなく日本にも当てはまりますので、少し専門的になりますが国際法に基づいて丁寧に見てみましょう。

まず一般的な原則論としては、確かに主権国家(各国政府)にはどの外国人の入国を許可して誰を拒否するかを決める専権的権能があり、逆に外国人には「他国に入国する権利」は認められていません。

ところがこの原則には、代表的なものだけでも三つの重要な「例外」があり、国際法で定められているのです。

例外その1:永住者や長期滞在者の再入国許可


まず一つ目の例外として、外国人(今回の場合だと米国籍を持っていない人)でも、既に米国に合法的に長期に滞在している人の再入国は許可する義務があります。

この義務は、国際人権条約の中でも最も重要とされている「市民的政治的権利に関する国際規約」の第12条4項に定められていて、「何人も、自国に戻る権利を恣意的に奪われない」となっています。

この条文があえて「国籍国」ではなく「自国」となっているところがミソです。「自国」というのは自分が国籍を持っている国だけでなく、外国籍しか持っていない人(つまり一般的に言う「外国人」)が永住権を持っている国や長期に定住している国も含まれると解釈されるようになってきています(国連人権委員会勧告CCPR/C/21/Rev.1/Add.9のパラグラフ20を参照)。

米国政府はこの国際規約を1992年に批准していて、この条文には留保や解釈宣言を付していません。

従って、米国のグリーンカードを持っている人や米国を長期の居住国としている人々の再入国まで禁止した1月末の旧大統領令は、この国際法の条文に違反していたのです。

この点については、今回出された新大統領令のセクション3(b)や(c)で、永住権を持つ外国人、既に米国で長期に勤務や勉強している外国人、既に米国に合法的に永住・定住している家族を訪れる外国人などは、入国禁止の対象から除外される代表例として明記されるようになりました。

例外その2:難民と庇護申請者


二つ目の大きな例外は難民の追放・送還禁止です。

難民の地位に関する条約」という国際条約の第33条の1項は、「難民を迫害のおそれがある国にいかなる方法によっても追放・送還してはならない」、という国際法上非常に重要とされている国家の義務(ノン・ルフルマン原則)を規定しています。

ここで言う「難民」とは、きちんとした難民認定手続きを経て「難民ではない」と最終的に確認された人以外(つまり難民である可能性が少しでもある人全員)を意味します。

よって、その国の管轄圏内(例えばJFK空港や成田空港など)に既に辿り着いた人々のうち、難民である可能性がある人の上陸を拒否して迫害されるおそれのある国に送還するのは、この第33条1項の規定に反するのです。

もちろん、米国(や日本)に辿り着いて庇護申請した人を迫害されるおそれのある国に追放・送還せず、空港内などで拘束・勾留しておくという方法も理論上は考えられるでしょう。

しかし、もしそのような人が合法的に到着して庇護申請した場合には移動の自由を制限してはならないという規定が、難民条約第26条にあります。

しかも、もしそのような難民(や庇護申請者)が不法に(つまり偽造パスポートを使ったり「なりすまし」で)入国した場合でも、不法入国や不法滞在を理由に刑罰を科したり、必要な制限以外の移動の制限を課してはならないという規定が、難民条約の第31条にあります。

この「必要な制限」がどれくらいかというのは議論の余地がありますが、今回の大統領令のように合理的な根拠がない中で、万が一長期に身体拘禁・拘束しておくようなことがあれば、「例外その1」で触れた国際人権規約の第9条(身体の自由、恣意的な抑留の禁止)に反することになるでしょう。

さらに、1948年に採択された「世界人権宣言」は第14条1項で「すべての者は、迫害からの庇護を求め、かつこれを他国で享受する権利を有する。」と定めています。

米国は1968年に「難民の地位に関する議定書」に加入し、それと同時に難民条約の締約国になりました。

しかも上で触れた条文には留保や解釈宣言をしていないので、それらを遵守する国際法上の義務を自ら負っています。

今回改訂された新大統領令のセクション3(b)のviにおいて、難民は入国禁止の対象外であることを明記し、さらにセクション12(e)で「この大統領令は個々人が庇護申請する権利を制限するものではない」とはっきりと書き加えられた背景には、この「難民条約」や「世界人権宣言」で定められた大原則があるのです。

例外その3:拷問を受けるおそれへの送還禁止


さらに、国際法には「拷問等禁止条約」という条約があり、その第3条で、締約国は拷問されるおそれがある国に誰も追放したり送還したり引き渡してはならない、と規定されています。

この条約は、本来は締約国が拷問とか非人道的な扱いや刑罰を行うことを禁止したものですが、第3条で定められているように、間接的にでも自国民や外国人を拷問に晒すような扱いも禁止しているのです。

米国は1994年に拷問等禁止条約を批准し、その際に様々な「解釈宣言」を行っていますが、この第3条の趣旨には基本的に合意しています。1月の旧大統領令ではこの「拷問等禁止条約」には一切の言及がありませんでした。

しかし今回の新大統領令ではセクション3(b)の(vi)やセクション12(e)で、「拷問等禁止条約」に明示的に触れ、その条約に従って保護されるべき外国人は入国禁止の対象外であると明記しているのは大いに注目すべきでしょう。

もちろん、各国政府にはどの国際条約を締結するかについては完全な裁量権がありますし、難民条約や拷問等禁止条約から離脱することも理論上は考えられます。

しかし、「例外その1」の「市民的政治的権利に関する国際規約」には離脱規定がなく、その第7条には「拷問または残虐な刑の禁止」という条項があります。

国家が本来持っている裁量権に基づいてそれらの条約の締約国になったからには、それらの条約内の規定を守る国際法上の義務を負うことになるのです。

言い換えると、それぞれの国が持っていた裁量権は既に放棄したことになります。

また確かに米国政府は得てして国際法を遵守しない傾向が強く、国際法よりも国内法あるいは「現実政治(リアルポリティーク)」を優先する姿勢が強い国の一つです。

しかしそのような米国でさえ新大統領令のセクション6(c)で、「その個人の米国への入国を認めることが、既存の国際的合意や国際的取り決め事項に則った行為を米国が行うことに繋がる場合」には、その難民の入国を認めるべく検討すると明記したことは、特筆に値します。

ちなみに日本も、このブログで触れた3つの国際条約の締約国で、上で触れた条文については留保や解釈宣言をしていないので、上で解説した通りの国際法上の義務があります。

繰り返しになりますが、「外国人の入国を認めるか否かは完全に国家の裁量の範疇である」とか「どの外国人に対する入国拒否も国際法違反ではない」というのは、優しく言えば勉強不足、厳しく言えばウソです。

このブログで見てきた通り、出入国管理に関する国際法や国家の権利・義務はややこしいところもありますが、何がファクトで何が「オータナティヴ・ファクト」(つまりウソ)なのか、冷静に見極める努力は続けたいものです。