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IT屋が自動車産業に注目すべき8つの理由

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お世話になっております。
ガリバーの直人です。

私は去年までGREEというIT系企業にいて、今は自動車流通の企業で事業開発を担当しています。

元同僚やネット界隈の知人からは、「なんでITから自動車なの!?」という質問をされることが多いのですが、今、自動車周りすごくおもしろい時期だと思うんですよね。

そういうわけで、IT屋、特にインターネット屋、WEB屋がなんで自動車産業に注目した方がいいのか、ってところをまとめてみました。

結論


まず結論なんですが、要するにこの2点です。

・クルマ×ITは成長分野
・全てのITメガトレンドは自動車に通ず (人工知能、ビッグデータ、IoT、etc)

以下、ポイントだと思うところを8つ挙げます。

理由その1. クルマ×ITは成長分野


North America connected car market by application, 2012 - 2022, (USD Billion)

出典:WhaTech (画像クリックで遷移)

抽象的な話なんでさらっと。IT業界から自動車に参入したDeNA、オートモーティブ部門トップの中島宏氏が語った参入理由に要点が詰まっているため引用します。

自動車関連のマーケットは圧倒的に大きくて、自動車販売で9兆円、中古車で2兆円、その他整トータルで50兆円以上あります。ネットで新規事業を検討する際、例えばマザーマーケットが5000億だから20%をネット化して1000億のマーケットでいかにシェアを獲っていくかという肌感覚なのですが、50兆円ですから2桁違うのです。

しかも、ここに来てGoogleやTeslaなど、まったく新しいプレイヤーが様々な切り口で参入し始め、動きが激しくなってきています。その動きをインターネットが加速している。自動車を中心にライフスタイルが大きく変わる第二次モータリゼーションが起こるとすると、やはりそれはネットの力をテコにして新たな価値を生み出すことだと思うのです。そこに私たちのチャンスがあると思っています。

ネットニュース記事より抜粋

グローバル推計でも IT×クルマ の分野は、エリアや調査主体によって差はあるものの、CAGR (年平均成長率) では概ね20%を超えており、多くは27-28%くらいと予測しています (Statistaとか)。

国内ITも、これまで「IT革命」「モバイル革命」「スマホ革命」など、大きなパラダイムシフトの中で成長してきた経緯がありますので、IT革命最後にして最大のインパクトと言われる自動車産業の変化にのっからない手はありません。

全てのITメガトレンドは自動車に通ず


IT系の人間は、テクノロジーの生まれるところ、新しくネットの繋がるところが大好きです。まさに今、IT・ネットとの融合が始まりつつある自動車産業は、おもしろいことの宝庫。見ているだけではもったいない。

IT屋・ネット屋の皆さんが、自動車産業を身近に感じてもらえるのではないかと思われるトピックを集めました。

理由その2. おまえらの大好きな Linux さんがいる


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「自動車とかいってどうせ組み込みOSとかリアルタイムOSでしょ?
おれらにかんけーねーしwwww」

という方、ご安心ください!

Linux Foundation が Automotive Grade Linux (AGL) を開発中です。

コネクテッド カー向けの共通 Linux ベース ソフトウェア スタックを開発しているオープン ソース共同開発プロジェクト Automotive Grade Linux (AGL) は、本日、自動車業界向けに開発された新しい AGL ユニファイド コード ベース (Unified Code Base: UCB) を発表しました。この新しい Linux ディストリビューションは、自動車専用アプリに対応できるようゼロから開発されたものです。

自動車特有の要件を満たすようにカスタマイズしたことで、この新しい AGL UCB ディストリビューションは自動車業界のデファクト スタンダードの位置を確保しており、開発者や自動車メーカーは共通の Linux ベース ソフトウェア スタックを利用して車載ソフトウェアを開発できます。自動車メーカーやサプライヤーは、AGL のグローバルな開発者コミュニティと直接協業し、コネクテッド カー アプリケーションのためのソフトウェアを進化させることができます。

2016/1/4 プレスリリースより抜粋

車載システムの標準化団体としては GENIVIアライアンス が有名ですが、日本での知名度はまだまだという感じがします。Linux という存在が、我々IT屋にとって、自動車をもっと身近に感じさせてくれるのではないでしょうか。

Automotive Grade Linux、7月13〜14日にはサミットが東京で開催されます。ご興味のある方はぜひ公式ページからご参加ください (営業)。

理由その3. おまえらの大好きな IEEE がいる


自動車で使われている様々な電子機器、これらがどんなプロトコルで通信しているかご存知でしょうか。

例えば、 CAN(Controller Area Network)や、 LIN(Local Interconnect Network)MOST (Media Oriented Systems Transport) といった方式が利用されているのですが、ネット屋の多くはご存知ないのではないかと想像します。

これらのプロトコルは安全性、信頼性、コスト、電磁波等の外的要因への耐性といった自動車ならではの要求に応える形で発展してきたものですが、通信速度はCANで80kbps〜500kbps程度となっており、近年ニーズの高まっているドライブレコーダー等の映像機器、LIDAR等の高性能なセンサー等のデータ通信での利用には、限界が見え始めているようです。

そのような大規模・高速通信のニーズに応える形でIEEEが中心となり 車載用 Ethernet & IP の使用策定を始めています

自動車業界では新参者の私ですが、IEEEのイベントに参加した際、背広姿の先輩方がL2/4スイッチやWAFの説明を熱心に聴くのを見て自動車産業にインターネットがやって来たのだと実感しました。自動車内はノイズや熱の影響もあり、現在はOSI7階層モデルでいう物理層から見直しが始まっているようです。インターネットがそうであったように、インフラ基盤が整ったら、一気に車内IT環境とその市場が花開くかもしれません。

理由その4. おまえらの大好きな Deep Learning が大活躍


ディープラーニングでも人工知能でもコグニティブでもなんでもいいんですが、みなさんの大好きなその辺りのナニが、絶賛活躍するのが自動車産業です。

上記の動画は「トヨタ、ディープラーニングなど機械学習技術に強みを持つベンチャー企業に10億円」という記事で紹介されている Preferred Networks という日系企業が、ディープラーニングと強化学習を用いてロボットカーにゼロから動作を学習させるというデモです (解説記事はこちら)。強化学習の分野では、Google の DeepMind が有名ですが、日系企業の活躍にも期待したいですね。

他にも、車載カメラからの映像認識は Deep Learning の得意分野であり、自動車での活用が進んでいくものと考えられます。人口知能に興味のある方は注目すべきでしょう。

理由その5. おまえらの大好きな BigData さんがいる


人工知能に比べるとちょっと落ち着いた感のあるバズワード、「BigData」も自動車分野での活用がすでに始まっています。


※画像出典 : トヨタ自動車WEBサイト

例えば、トヨタのテレマティクス t-connect やホンダのインターナビは、それぞれすでに300万人を超える利用者がいるとのこと (独自調べ)。これらの自動車から収集される膨大なプローブ情報をナビゲーションの改善に利用したり、国土交通省や自治体に提供することにより交通インフラの改善に役立てたりしています。

自動車に乗る方は、「この信号が時差式だったら!」「ここに横断歩道必要じゃない?」等々、日々道作り(?)の不満を感じているのではないでしょうか。データを通じてこういった問題を自ら解決できるとしたら、非常にやりがいのある仕事ではないでしょうか。

理由その6. おまえらの大好きな IoT がある



※出典:東芝WEBサイトより。絵としてわかりやすいのでお借りしました。

IoTといってもいろいろありますが、M2MでもFPGAでもエッジコンピューティングでも、自動車業界ではだいたいなんでも議論されています。

わかりやすいところでいうと、IBM の IoT向け PaaS 環境、Bluemix では自動車向けの機能が提供され始めています。

Driver Behavior API
 プローブ情報のPOSTや線形でのGETができるらしい。

Context Mapping API
 地図やルート検索、行動履歴 (のようなもの) が取得可能。

通信回線がどうなるかについては、5Gを見据えて様々な議論がなされていますが、直近ネット屋が触りやすいものとして、我らが Soracom さんのSIMカードなんていかがでしょうか (営業)。アイデア次第で様々なビジネスが考えられます。

理由その7. おまえらの大好きな W3C & WEB-API がある


更にネット寄りの方面では、W3Cさんが頑張っています。

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W3C Automotive Working Group というものがありまして。車の情報とやり取りするためのインターフェース、Vehicle Information Access API の策定が進んでいます。最新のドラフトは2016年1月です。車両情報 (VIN、メーカー、モデル、年式等)、走行情報 (車速、エンジン回転数、ハンドル角度等)、メンテ情報、ドライバ情報等へのアクセスができるようになる見通しです。

同APIでは、OSに依存しないIVI (In-Vehicle infotainment) 情報へのアクセスを指向しており、JavaScript 含む HTML5 や Webkit 等、Web標準技術でのシステム開発を可能にします。

API リファレンスも公開されていますし、慶応義塾SFC研究所 芦村氏による概要説明スライドもありますのでご興味のある方はご参照いただければと思います。

で、ここからは残念なお話なんですが、せっかくこれを使って何か作ろうと思ってもデータソースがありません。KDDI総研主催の「Webとクルマのハッカソン」では、協賛企業からサンドボックス環境や走行データが提供されていたので、今後はこのような環境が恒常的に利用できるようになるといいですね。

理由その8. おれらの未来に直結する


先ほどDeNA中島氏のコメントの中に「国内50兆円の巨大市場」とありましたが、これは自動車が我が国GDPの10%に匹敵する文句なしの主力産業であることを示しています。

私が昨年まで所属していたゲーム産業、特にソーシャルゲームの市場規模は6000億〜8000億円くらいと言われます。2010年代に本格的に立ち上がり、現在は家庭用ゲーム機市場(3700億円くらい)を超える規模にまで成長したわけですが、産業構造は任天堂など家庭用ゲーム機メーカーが市場を引っ張る構造から、Google/Apple がグローバルなプラットフォームとして30%の手数料を取るモデルへ大きく様変わりしています。

国内の主力産業で同様のパラダイムシフトが起こったら、20年後、私達の生活は大きく様変わりしているかもしれません。

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ボストンコンサルティンググループのレポートでは、2035年新車販売数に占める自動運転車の割合は25%に上るとされており、これは遠い未来の話ではありません。実際に、「日本国内には高性能なガラケーがあるから普及が遅れる」とされていたスマホはMM総研等の予測より圧倒的に早いスピードで市場に受け入れられてきました。

「日本初世界へ」みたいな標語はあまり好きではないのですが、ぼちぼち自分らに関係のある話みたいですので、これはやっぱり注目しといた方がいいのかな、と。

終わりに


と、いうわけで、今IT屋・ネット屋が自動車に注目すべき理由、おこがましいとは思いながらもざっとかいつまんでお伝えしました。何分浅薄な知識で綴っておるもので、認識違いや考慮漏れ等お気づきの際はご一報いただけますと幸いです。

この自動車という巨大産業、ひとりひとりの個人や企業ではどうにもならないほど深く広いです。技術的な参入障壁も高いし、お金もとんでもなくかかる。ただ、どんなケースでも私達ネット屋が大好きなオープンなカルチャーやコラボレーションの仕組みは、特にソフトウェアの面では絶対に生かせるんじゃないかと。そういうリスク選好型IT屋のみなさんと、この新たなパラダイム・シフトでご一緒できたら、きっとエキサイティングだろうなー。と思ってこの記事を書きました。

私はITから自動車流通という異業種にやってきましたが、今所属しているガリバーインターナショナルだけ見てもDeNA、CyberAgent、アイレップ、NECなどネット系からの人材がどんどん集まっています。身内だけでなく、ディープラーニングにしろ、IoTにしろ、成長分野には優秀な人材が集まってくることをパートナー企業とのお付き合いで実感しています。超楽しいです。刺激と勉強が山盛りです。

少しでも「おもしろそうだな」と感じていただけた方、ご縁があれば一緒に何か仕掛けましょう!

長文・乱文に最後までお付き合いいただき誠にありがとうございます。

それでは、よろしくお願い致します。