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Google Car、Uber、Tesla と国内企業はどう戦うべきか?自動車ジャーナリスト桃田健史氏インタビュー

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Google Car、Tesla、Uber。この1年、IT系メディアで自動車関連のニュースを聞かない日はないといってもいいだろう。その多くは米国発のニュースであるが、足元の日本やおとなり中国の状況はどのようになっているのだろうか。長く日本の自動車産業を見つめ、最近では「IoTで激変するクルマの未来」「アップル、グーグルが自動車産業を乗っとる日」といった刺激的なタイトルの書籍で自動車業界に警鐘を鳴らす著名な自動車ジャーナリストの桃田健史氏を迎え、グローバルな目線から各国CarTechの取り組みについて聞いた。

聞き手は自動車の個人間売買や車のサブスクリプションサービスなど革新的なサービスを投入することで近年注目を浴びる株式会社IDOM (旧ガリバーインターナショナル) 新規事業開発室 許 直人

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(株式会社IDOM 許 直人、以下 "直人")
この数ヶ月、自動運転、ライドシェアの分野だけ絞ってもCarTech周りでは色々な動きがありましたね。桃田さんはどのニュースに注目しましたか。

(桃田 健史氏、以下 "桃田")
そうですね。8月だと、Googleの自動運転車プロジェクトで長年CTOを務めたクリス・アームソンが退任したニュースは注目されていました。もっとも、昨年あたりからも技術者が多く抜けていますけどね。

 (直人) 経営陣との確執も報じられていますが、開発が順調ではない、ということでしょうか。

(桃田) いや、技術からサービスのフェーズに移ったということだと思います。私はむしろ開発は順調なんだろうと感じました。

Google はかねてから莫大な資金を自動運転に投じてきました。今年に入ってから、現場のチームにはそれをどうやって回収するかのプランと遂行が求められるようになったという話が聞こえてきていました。

エンジニアの中には商業化を強く推し進めることを好かない向きがあったかもしれませんが、ホールディングスである Alphabet の目線でみれば事業フェーズにフィットしないCTOは必要ない、という判断なのでしょう。

(直人) CTOの前には主要エンジニアと Google Map のトップらがスピンアウト、自動運転トラックの新会社「Otto」を立ち上げました。中心となるエンジニアがより具体的なビジネスモデルを掲げた会社を立ち上げるあたり、自動運転技術の商用化も現実味を帯びてきますね。

自動運転トラックといえばソフトバンクが自動運転を研究する "先進モビリティ" と立ち上げたSBドライブもトラックやバスを使ったサービスから入ると言っています。

7月には DeNA 子会社のロボットタクシーも、千葉で自動運転バスの試験運用を始めると報道されました。

(桃田) そうですね。SBドライブやロボットタクシーのような会社が言っているのは、要するに、「やれることだけやる、やれるところまでやる」ということ。理想は追わない方針。だから2020年までに走るところまではやるのだろうと見ています。

2020年というのはオリンピックの年でもありますが、日本政府が日本再興戦略の中で自動走行を実用化すると言っている時期ですね。そのためのレギュレーション作りも着々と進めてられています

ただ一方で具体的な目標はない。現在は競争相手が少なく、先行者利益が大きい。注目されており人もお金も集まりやすい時期なので、IT系からの参入タイミングとしてはありだと思っています。

(直人) 確かに国内だけを見ると競争相手は少ないですね。自動車メーカーは参入してこないのでしょうか。

(桃田) 国内IT系からの新規参入組は、自動車メーカーが完全自動運転に事業やサービスとして参入することは当面ないと踏んでいるようです。実証実験止まりでしょうね。海外ではBMW、Ford、Volvo のように2番手3番手の企業は積極的に自動運転技術のサービス化に取り組んでいる。これは生き残りをかけてやっているという側面もあるのでしょうが、変革のチャンスをものにしてのし上がろうという野心でもあります。VWは自ブランドだと角が立つのでAudiを使っていますね。

(直人) 日系自動車メーカーも実証実験は積極的に行っているようですが、なぜ事業としては参入してこないのでしょうか。

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(桃田) これに関しては一言で説明するのが難しいのですが、ひとつは文化ですね。日本企業は、2番手3番手がリスクを取って下克上を目指すというよりは、最大手がやるからそれにならうという文化だと思います。車だけじゃなくどの業界でも多かれ少なかれそういう風土じゃないでしょうか。

ただ、国内自動車メーカーも、アグレッシブな国内IT系がサービス化に向けて邁進するのをだまって見ているだけというわけではなく、水面下では連携を模索するような向きも色々とあるようですが……。アプローチの違いというか。ちょっと記事にはできないですね (苦笑)

(直人) 桃田さんは、2014年に「アップル、グーグルが自動車産業を乗っとる日」という非常に挑発的なタイトルで書籍を出していらっしゃいます。自動車産業の変革が唱えられたのは最近のことではないと思うのですが、自動車メーカーはチャンスや危機感を感じていないのでしょうか。

(桃田) 危機感は感じていると思います。現に、私がその本を出したあと全ての自動車メーカーから呼びだされましたから。今後どうなるのか意見を聞かせて欲しい、と。あの頃はまだ Apple CarPlay (※1) と Android Auto (※2) くらいだったのでぼんやりとしたものではありましたが、最近では自動車メーカーだけでなく Tier1 やディーラーまで、役員レベルには危機意識は浸透していると思います。

ですが、現場からはそういう声があがらない。結果、会社全体として、いつ何がどのように起こるかという共通の認識、ビジョンができていない。「和」を持って働く文化ですから、一部の人間のビジョンや危機感だけではなかなか組織を動かせないという部分もあるのかもしれません。

 ※1 ※2 それぞれ Apple と Google が開発を進めるOSの自動車向けディストリビューション

 

(直人) なるほど、日本の自動車産業はそれに対してどういうアプローチで仕掛けてくるのでしょうか。

(桃田) 自動車メーカーは、自動ブレーキやクルーズコントロールのようなADAS (※3) とよばれるドライブアシスト系の技術から漸進的に発展して自動運転、という流れに持って行きたいと考えているでしょうね。イノベーションのジレンマが示すお約束の通りですが、完全自動運転は当分無理だろうという考えが暗黙的にあると感じます。

※3 Advanced Driver Assistance System の略。詳細はこちら

 (直人) それはなぜですか?

技術的な問題もありますが、もう一つは法律も含めた制度の問題ですね。今の交通行政では自動運転は絶対に実現できないので。アメリカ運輸省が Google に向けて「人間ではない何かが自動車を運転することが可能ならば、運転しているモノ (この場合は自動運転ソフトウェアなど) をドライバーとして見なすのが適切だ」という見解を示しましたが、これはひとつのケースに対してのあくまで見解であり、制度化にあたってはまだまだ協議しなければならないことがたくさんあります。

事故が避けられない状況になった際、例えば自動運転ソフトウェアは乗客を犠牲にして事故を最小限にするか、通行人をはねてでも乗客を守るか等、倫理も含めた問題が突きつけられます。人間が暗黙的に、瞬間的に行ってきた問題でも、事前の実装という意味ではどうすべきか。「トロッコ問題」などと言われますがこれも答えを出すのが非常に難しい。

(直人) なるほど。倫理の問題は答えがないだけに時間がかかりそうですね。先ほどの日本再興戦略を掲げる日本を含め、自動運転を推進する各国それぞれの方針や考え方があると思いますが、最も積極的なのはどこでしょうか?

(桃田) 自動運転に最も積極的なのはアメリカだと思います。ITジャイアンツがロビー活動に熱心ですし、彼らがグローバルなデファクトスタンダードになれば結果的に国益にもつながります。

日本は欧州と連合していく流れです。国連の場で制度作りを進めながら、そこにアメリカを巻き込みたいと思っている。ただ、元々独自路線を貫いてきたアメリカはこの数ヶ月さらに加速しているように感じます。先日テスラの事故があってから、逆に現実の問題として急ピッチで規制やレギュレーション化を進めているようですね。

怖いのは中国で、ここは国が決めたら特定企業の優越や排除、不都合な事故のもみ消しまでなんでもやるところですから。数年以内には、恐らく電気自動車の分野ではトップになると思いますが、自動運転でもBATを始め非常に積極的に動いているようです。正直、この国の実態はなかなかつかめないのですが、外からみているとバイドゥとBMWは強力に連携してやっているようです。

(直人) 中国と言えば、中国国内のライドシェア最大手 Didi が、Uber の中国事業である Uber China を買収しましたね。

(桃田) そうですね。中国国内で言えば絶対数ではDidiが圧倒的だったのですが、都市部ではUberが普及する、というエリアでのすみ分けがありました。バイドゥの社員はみんなUberで出勤していたくらいですから(笑) 元々バイドゥは Uber と仲がよく、そのバイドゥは中国国内地図の覇者です。DidiもUber地図を使っていたくらいなのでこの連携は強力ですね。

日本では国土地理院が提供する地図を一定のマージンを支払えば誰でも使えますが、中国ではそこでも既得権益。4〜5社がその多くを寡占している状況です。

Didi、Grab、Lyft、ORA は反Uber同盟で連合していたのですが、ここにUberが入るとライドシェアはもうみんなつながってるじゃん!(笑) みたいな状況になっています。

(直人) グローバルでは着々とグループ分けが進んでいる印象ですね。日本国内にビジネスチャンスは残されているのでしょうか?

(桃田) まず、地図は難しいと思います。内閣府が主導で進めているSIP (戦略的イノベーション創造プログラム) に「ダイナミックマップ構想」というのがありますが、これは海外に非常にウケが悪い。デファクトスタンダードであるHERE地図に対して日本のガラパゴス仕様を策定する動きなのですが、「日本車輸出するんでしょ?オレオレ仕様やめてくれ」と、海外からはかなり迷惑がられています。

全体のトレンドとしては、自動運転の前に「所有→利用」、つまりシェアリングエコノミーの波が来ます。ライドシェアの領域では規制緩和と同時にどこが出てくるか、という部分があるのですが、地方ではリクルートの「あいあい自動車」のような取り組みはニーズがあると思います。ただ、タクシーや公共交通が成り立たない過疎地域で、事業会社が単独でビジネスを成立させるのは難しい。ここは地方行政がもっと頑張って欲しいと思っています。

一方で、人口集積率の高い都市部ではシェアのビジネスが成立しやすい。ライドシェア、カーシェアともに都市部で普及してから地方へ、という流れになるのではないかと思っています。

(直人) なるほど、もっと色々とお伺いしたいところですがお時間となってしまいました。国内では自動運転の前にシェアリングエコノミーの領域でビジネスチャンスがあるというお話でしたが、カーシェアリング市場全体としては不動産がボトルネックでそれほど順調に伸びていない。土地やガソリンなど、資源の乏しい国で価値のある何を共有し、逆に何を持たないのか。その辺りの目利きが重要になってきそうですね。

本日インタビューに応じていただいた桃田健史氏が登壇する、うごラボ勉強会#4が9月26日東京にて開催されます。ご興味のある方はぜひご確認ください。

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