Huffpost Japan
ブログ

ハフポストの言論空間を作るブロガーより、新しい視点とリアルタイムの分析をお届けします

ネイチャー・ジャパン Headshot

渡り鳥を惑わす電磁ノイズ

投稿日: 更新:
印刷

人間が作り出す電磁放射がコマドリの磁気コンパスを狂わせる。

2016-04-19-1461030529-7732327-1.jpg
HENRIK MOURITSEN

我々が日常的に使っている電子機器やAMラジオ信号による干渉が、渡り鳥の磁気コンパスを狂わせている恐れがあるという研究結果が、Nature 2014年5月15日号353ページに報告された(参考文献1)。この知見は、都市の存在が鳥たちの渡りのパターンに重大な影響を及ぼしている可能性を示唆している。

数十年にわたる実験から、渡り鳥の体内には地球の磁場を感知するコンパスが備わっており、鳥たちはこれを使って定位を行い、渡りの経路をたどることが分かっている。けれどもこれまで、人間が作り出す電磁放射がこのプロセスに影響を及ぼしていることを裏付ける証拠はほとんど得られていなかった。

磁気受容の研究を行う生物学者の多くは、電磁ノイズであふれた都市部から遠く離れた田舎で野外研究を行っている。この論文の著者の1人であるHenrik Mouritsenも、かつてはそうした環境で研究を行っていたが、2002年にドイツの人口16万の都市にあるオルデンブルク大学に移り転機が訪れる。彼はそこで、磁気コンパスを使う動物がその情報を脳のどの領域で処理しているのかを特定する研究の一環として、渡り鳥のヨーロッパコマドリ(Erithacus rubecula)を大学構内にある木製の小屋の中で飛ばす実験を始めたのだ。

小屋の中で飛ばすのは、太陽や星を手掛かりにできないようにするためであり、磁気情報を利用した鳥の定位飛行の研究では標準的な手法である。ところが彼は、オルデンブルク大学構内での実験では、鳥たちが本来の渡りの方向を見失ってしまうことに気付く。

「思いつくかぎりのことを試しましたが、なかなかうまくいきませんでした」とMouritsenは言う。「それがある日、小屋をアルミニウム板で遮蔽した途端、鳥たちは方向感覚を取り戻したのです」。


迷いから覚める

Mouritsenらは、小屋をアルミニウム板で覆い、接地(アース)をして、AMラジオ放送に用いられる周波数帯域を含む50kHz~5MHzの電磁ノイズを遮断した。するとノイズの強さは約2桁小さくなり、この環境では鳥たちは無事に定位を行うことができた。

研究チームが接地を外してみたところ、アルミニウム板だけでは人工的な電磁ノイズを遮断することができず、鳥たちは再び方向感覚を失ってしまった。さらに、電磁ノイズの影響を確認するために市販の信号発生器を使って人工のノイズを再現したところ、鳥たちはやはり方向感覚を失った。

実は、この結果を発表する前に、研究チームは7年かけて二重盲検試験を行っていた。異なる世代の学生たちで同じ実験を繰り返し、結果を独立に再現したのだ。「この現象が実在すると報告してよいのか、確認したかったのです」とMouritsenは言う。


本当に影響はあるのか?

今回の知見は、渡り鳥の飛行が、人工的な電磁ノイズに感受性のある生物学的システムによって制御されていることを示唆しているが、その生物物理学的メカニズムは不明である。この論文に関する解説(参考文献2)を執筆したカリフォルニア工科大学(米国パサデナ)の地球生物学者Joseph Kirschvinkは、今回の研究がきっかけとなり、問題の帯域の電磁波の使用を中止すべきかどうかという論争が始まるかもしれないと指摘する。

一方、フランクフルト大学(ドイツ)で渡り鳥の研究をしているRoswitha Wiltschkoは、そのような影響を目にしたことはないという。「私たちの実験では遮蔽を用いたことはありませんが、鳥たちは問題なく定位ができていました。鳥たちの方向感覚を失わせるような強い電磁場があると聞いて、本当に驚きました」。

Wiltschkoは、電磁ノイズが全ての都市の渡り鳥に影響を及ぼすと安易に結論付けるべきではないと警告するが、実際にこうした現象を目にしたことがあるという研究者も複数いる。

ヴァージニア工科大学(米国ブラックスバーグ)の感覚生物学者John Phillipsは、「この効果は現実のものです」と断言する。彼は、マウスやイモリなどを使って動物の移動や空間記憶に関する行動研究を行っているが、電磁干渉は実験結果をねじ曲げるとして、実験では電磁ノイズの遮蔽を欠かさない。「閃光電球(瞬間的に強い光を発する電球)が不規則な間隔で光るところで視覚のメカニズムの研究をしようとは思わないでしょう?」と彼は言う。

Mouritsenは今後、ヨーロッパコマドリの磁気感覚の詳細な働きを解明するために、電磁ノイズの影響に関する研究をさらに進めたいと考えている。けれども彼は、電磁ノイズはすでに鳥たちにとって現実的な問題となっている可能性があると言う。「鳥たちが、これほど重要な磁気コンパスを都市部で使えないとすれば、彼らの生存の可能性はどうなってしまうのでしょう?」

Nature ダイジェスト Vol. 11 No. 7 | doi : 10.1038/ndigest.2014.140704

原文:Nature (2014-05-07) | doi: 10.1038/nature.2014.15176 | Electronics' noise disorients migratory birds

Jessica Morrison

参考文献
  1. Engels, S. et al. Nature http://dx.doi.org/10.1038/nature13290(2014).
  2. Kirschvink, J. L. Nature http://dx.doi.org/10.1038/nature13334(2014).

【関連記事】
犬のDNAからヒトの精神疾患の手掛かりを得る
Nature ダイジェスト Vol. 13 No. 4 | doi : 10.1038/ndigest.2016.1160418
老化細胞を除去したマウスは長生き
Nature ダイジェスト Vol. 13 No. 4 | doi : 10.1038/ndigest.2016.160406

Natureダイジェスト・オンラインマガジンを購読する

他のサイトの関連記事

渡り鳥(わたりどり)とは - コトバンク

渡り鳥飛来状況調査 - 環境省

環境省_渡り鳥関連情報