「真の青色」のキクが誕生!

真の青を実現するには「もう一工夫」が必要であった。

2種類の遺伝子を導入することで、本当に青い花色のキクが開発された。

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Naonobu Noda/NARO

青いキクは、意外なほどシンプルな手法で創出できた。

Naonobu Noda/NARO

科学者の手にかかれば、赤いバラもいつか真っ青になるかもしれない。青いキクを初めて実現させた遺伝子組換え技術を応用すれば、そんなことも不可能ではないだろう。

生花店の店先には、ピンク、黄、赤など、さまざまな花色のキクが並んでいる。

しかし、紫色でも青っぽい色でもない「真の青色」の発現に必要なのは、2種類の遺伝子を導入することだったと、農業・食品産業技術総合研究機構(農研機構・茨城県つくば市)の野田尚信らが、2017年7月26日、Science Advancesで発表した。

この研究は、青いバラの開発で知られるサントリーグローバルイノベーションセンターと共同で行われた。研究チームによると、今回の手法は、カーネーションやユリなど、他の商業的に重要な花卉にも応用できる可能性があるという。

「消費者は目新しいものが好きです」とニュージーランド植物・食物研究所(パーマストンノース)の植物生物学者Nick Albertは言う。「人々は青い花色の植物を庭に植えようと熱心に探し求めます」。

青みがかった花は多いが、自然界でも真の青色の花が見つかることは稀であると、植物育種学の研究者で論文の主執筆者である野田は言う。その上、商業的に重要な花には青い花を咲かせる近縁種が存在しないことが多い。

そのため、従来の交雑育種などの品種改良法ではうまく作出できなかった。野田をはじめとする科学者は、長年にわたって青い花を作り出そうと研究を続けてきたが、そうした取り組みで開発されたのは多くの場合、バラやカーネーションに代表されるような青紫色や青みがかった色の花だった。

真に青い花のほとんどは、デルフィニジン型アントシアニンという色素の合成に必須となる遺伝子を発現している。つまり、青い花を咲かせないキクを青くするには、この遺伝子をキクのゲノムに導入すればよいだろう。

そう考えた研究チームは2013年の研究で、青紫色のカンパニュラ(Campanula medium)由来の遺伝子をキク(Chrysanthemum morifolium)に導入した。すると、青みがかった紫色の花が得られた。目標には近づいたものの、真の青を実現するには「もう一工夫」が必要であった。

青いキクの誕生

青いキクの実現には、遺伝子をいくつも操作する必要がある、と研究チームは予想していた。ところが今回の研究で、意外にも、カンパニュラの遺伝子に加え、青い花を咲かせるチョウマメ(Clitoria ternatea)の遺伝子を1つ導入するだけで十分であることが分かった。

アントシアニンは、その構造に応じて花弁を赤色や紫~青色に発色させる。カンパニュラの遺伝子の導入によってキクのアントシアニンの分子構造がシアニジン型からデルフィニジン型に変化し、チョウマメの遺伝子の導入によってさらに3′位と5′位に糖が付加されたことが確認された。

この遺伝子の導入によって新たに合成されたアントシアニンは単独では青紫色に発色するが、キクが元来持っているフラボン配糖体と相互作用して、青色に発色したことを野田らは見いだした。研究チームは、キクの花色を吸収波長を測定するなどの方法で調べ、これが真の青色であることを確認した。

青色花の探求で得られた結果は、花卉市場に応用可能なだけではない。こうした色素が働く仕組みを研究することは、人工色素の持続可能な製造にもつながる可能性があると、マーブルベリー(色素によらず光の反射で濃青色に発色する)の分子構造を研究してきたケンブリッジ大学(英国)の物理学者Silvia Vignoliniは言う。

いずれにせよ、真に青い花色の実現は、「大きな成果であるとともに、『青色』の実現に必要な化学は複雑で、まだよく分かっていないことが多いという事実を示しています」とAlbertは言う。

Nature ダイジェスト Vol. 14 No. 10 | : 10.1038/ndigest.2017.171004

原文:Nature (2017-07-26) | : 10.1038/nature.2017.22365 | 'True blue' chrysanthemum flowers produced with genetic engineering

Rachael Lallensack

参考文献

  1. Noda, N. et al. Sci. Adv. 3, e1602785 (2017).
  2. Noda, N. et al. Plant Cell Physiol. 54, 1684–1695 (2013).

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Nature ダイジェスト Vol. 14 No. 9 | doi : 10.1038/ndigest.2017.170902

Nature ダイジェスト Vol. 14 No. 9 | doi : 10.1038/ndigest.2017.170908

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