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シャコの「驚異の色覚」は幻想だった?

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動物界で最も複雑とされるシャコの眼が、実は色を感知するシステムとしては非常に単純であることが分かった。

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シャコは、単純だが素早く色を感知できるシステムを使っているらしい。
Credit: THINKSTOCK

甲殻類であるシャコは、どうやら我々ヒトと同じような仕組みでは色を見ていないようだ。シャコ類の眼には、ヒトよりもはるかに多くの種類の光受容細胞が存在するが、色を識別する能力は限られているとする報告が、Science 2014年1月24日号に掲載された(参考文献1)。

色を感じ取る光受容細胞の種類は、ヒトの眼には通常、赤、緑、青の光にそれぞれ反応する3種類しかないが、シャコの眼には12種類もある。そのためシャコは、ヒトが識別できない色でも見分けられるのではないかと考えられてきた。しかし今回の研究によって、シャコの色覚は、12種類の光受容細胞からの情報を組み合わせるのではなく、個々の光受容細胞からの情報を単独で処理する単純かつ効率的な機構に頼っていることが判明したのである。

この機構はこれまで知られていなかったもので、この発見により、シャコが驚異的な色覚を持つという予想は完全に覆されたと、論文の共著者であるクイーンズランド大学(オーストラリア・ブリスベーン)の海生動物神経学者Justin Marshallは話す。

3色型色覚のヒトが黄色の葉を見たとき、眼にある光受容細胞は、光刺激の相対的なレベルを知らせるシグナルを脳へ送る。つまり、赤色光に反応する細胞と緑色光に反応する細胞は共に強く活性化しているが、青色光に反応する細胞はほとんど活性化していない、という情報が脳に伝わるのだ。すると脳は、これらの光受容細胞から送られてきた情報を比較して、黄色だと判断する。このシステムによって、ヒトの眼は非常に多数の色を識別することができる。


虹色の幻

Marshallのチームは、12種類の光受容細胞を備えたシャコがヒトより多くの色を識別できるかどうかを、小型のシャコであるHaptosquilla trispinosaを用いて調べた。彼らはまず、このシャコに2つの色を見せて、正しい方を選べば餌(冷凍のエビかイガイ)を与えるという方法で訓練し、波長が400〜650nmの範囲にある10種類の色のうちの1色を覚えさせた。

この訓練をしたシャコで実験したところ、訓練を受けた波長の色と、それより50〜100nm波長が短い、もしくは波長が長い色とを区別することができた。ところが、訓練した色と試験用の色との波長の差が12〜25nmに狭まると、シャコはそれらを区別することができなかった。

もしシャコの眼が、ヒトの眼と同じように波長の近い色を相対方式のシステムで見分けているのであれば、波長の差が1〜5nm程度でも区別できるはずだ、とMarshallらは指摘する。しかし今回の結果は、シャコが実際にはそこまで多くの色を見分けられないことを示しており、シャコの眼にある12種類の光受容細胞は、それぞれが対応する特定の1色のみを感じ取っていると考えられる。

また、その感知の仕組みは、ヒトの眼よりも感度が低い代わりに、脳に負荷がかかる厳重な比較作業を必要としないようだ。これはおそらく、生きた動物を捕食するシャコがさまざまな色彩の獲物を素早く見分けるのに都合が良いのだろうと、カリフォルニア大学バークレー校(米国)の行動生態学者Roy Caldwellは説明する。

視覚の研究を行っているルンド大学(スウェーデン)の生物学者Michael Bokは、シャコの眼の驚くべき複雑さを解明する上で、この研究成果は重要な一歩になると話す。「次に取り組むべきは、これらの視覚シグナルが脳に何を伝えているのか、また脳がこれらのシグナルをどのように使っているのか、解き明かすことです」。

Nature ダイジェスト Vol. 11 No. 4 | doi : 10.1038/ndigest.2014.140404
原文:Nature (2014-01-23) | doi: 10.1038/nature.2014.14578 | Mantis shrimp's super colour vision debunked

Jessica Morrison

参考文献
  1. Thoen, H. H., How, M. J., Chiou, T.-H. & Marshall, J. Science 343, 411-413(2014).

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