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サルの「石器」が投げかける疑問

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ブラジルに生息するオマキザルの一種には石を打ち割る習性があり、その結果生じる石の破片は、旧石器時代の人類が作った剥片石器によく似ていることが報告された。これは、考古学における石器の解釈にまさに一石を投じる発見かもしれない。

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石を打ち割って得られた剥片を、さらに別の石に打ちつけて石英の粉末を得るヒゲオマキザル。 M.Haslam

2016年1月、オックスフォード大学(英国)の考古学者Tomos Proffittは、同僚のMichael Haslamが持ち帰った珪岩(主に石英からなる岩石)の加工片を調べていた。そのいくつかは、アフリカ東部で発見された、300万~200万年前に人類が作製したとされる縁の鋭い石器「剥片石器」によく似ていた。

ところがHaslamによると、それらの加工片はこの2年ほどの間にブラジルのヒゲオマキザル(別名クロスジオマキザル;Sapajus libidinosus)によって作られたものだという。「あまりの衝撃に言葉を失いました」とProffitt。「私はヒト族の石器の研究で博士号を取得しました。石器の作り方もよく知っています。そんな私が見ても、この石片はヒトが作った石器にしか見えなかったのです」。

サルも「石器」を作る? カピバラ山地国立公園(ブラジル)のヒゲオマキザルが石を打ち割っている様子。

ProffittとHaslamが率いる研究チームは、この大発見とそれに続く詳細な調査結果をNature 2016年11月3日号85ページに報告した(参考文献1)。

研究チームによれば、ヒゲオマキザルはこの「石器」を、道具として使おうとして作っているわけではないという。故意に石を打ち割ってはいるが、その結果生じた石片は意図したものではないらしいのだ。今回の発見で、これまで人類が作ったとされてきた石器の中にサルが作ったものが含まれている可能性が出てきたと、一部の科学者は指摘する。そうなれば、最近ケニアで出土した、現時点で最古となる330万年前の剥片石器も、疑惑の対象となるだろう。

オックスフォード大学の霊長類考古学者Susana Carvalhoは、今回の論文を画期的なものと評価する。「このオマキザルは、意図せずして、石器と呼ばれるべきものを作り出しているのです」。

サルと道具の関係


霊長類の中には、ごく簡単な道具を使うものもいる。霊長類学者のJane Goodallが、チンパンジーが棒を使って「シロアリ釣り」をすることを報告したときに、著名な古人類学者Louis Leakeyが「これはもう『道具』を定義し直すか、『ヒト』を定義し直すか、あるいはチンパンジーはヒトだと認めるしかないだろう」と返信したことは有名だ(参考文献2)。

オマキザルは最も日常的に道具を用いる動物の一群で、中でもブラジルのカピバラ山地国立公園に生息する野生のヒゲオマキザルは、石を複数の目的で利用する、今のところ唯一の非ヒト霊長類である。このサルは石を使って木の実を割るだけでなく、木の幹や岩に穴を開けたり地面に穴を掘るなどして餌を得たり、小石を砕いたり、また性的ディスプレイの一環として雌が雄に石を投げつけることが確認されている。

カピバラ山地国立公園のヒゲオマキザルが変わった石の使い方をしているのが初めて観察されたのは、2005年のことだった。サルたちが、侵食によって崩れかけている珪岩の崖の横で石を拾い、別の石に何度も叩きつけて、こぼれ落ちた粉を舐めている様子が確認されたのである。

Proffittは、石の粉を舐めるという行動の理由について、ミネラルを補うためや、腸の状態を改善するため、あるいは単に舌ざわりを楽しんでいるだけかもしれないと推測する。「でも本当の理由は分かりません」。

ヒゲオマキザルのこの特異な行動についての以前の研究でも、使われた石のサイズや形は調べられていた(参考文献3)。だが、それは割れたかけらの大きい方のみが対象で、Proffittによると、小さい方のかけらには誰も目を留めておらず、最初にこれらに注目して集めだしたのはHaslamだったという。

Proffittの目には、Haslamが集めてきた破片の多くが、打製石器の1つである剥片石器に似ているように見えた。

剥片石器は、Leakeyとその妻Maryによって、1930年代にオルドバイ峡谷(タンザニア)で初めて発見された。これらの石器は年代が約250万~170万年前で、手に持った叩き石(ハンマー)を台石に角度を付けて打ちつけ、薄く尖った石片を剥ぎ取ることにより作られた、と考えられてきた。

付近からは、刃物の痕跡が残った動物の骨も発見されたことから、この時代のヒト族が動物を解体するのに剥片石器を使っていたことが示唆される。

誰が作ったのか?


Proffittによると、ヒゲオマキザルが作った剥片の約半数に、オルドバイ遺跡で発見された「チョッパー(礫の片面の一部を打ち欠いて刃とした石器)」と同じ特徴が見られたという。中には、同じ叩き石から連続して打ち剥がされたように見える、一連の剥片群もあった。

「このような特徴は、これまでヒトとしか関連付けられたことがありません」とProffittは言う。それでも彼は、サルたちによる剥片の作製は意図的なものではない、と強調する。「サルが得られた剥片を使うことはありませんでした。彼らはあくまでも石を割りたいだけなのです」。

Proffittはまた、オルドワン石器(オルドバイ型石器)が人類によって作られたとするのは間違いではないと考えている。なぜならこれらは、ヒト族の遺骸や、ヒトとの関連を裏付けるその他の証拠と一緒に発見されているからだ。

けれども彼は、アフリカでより古い石器を探している際に剥片だけが見つかって、他の証拠が存在しない場合には、安易にそれを人工物だと結論付けてはならないと警鐘を鳴らす。ヒゲオマキザルと似た行動をする古代の類人猿やサルが作った可能性があるからだ。

ケニアのロメクウィ遺跡で最近発見された330万年前の剥片を含む石器群(参考文献4)は、世界最古の石器作製の証拠と考えられている。Proffittは、これも人類によるものだろうと考えているが、Carvalhoはやや懐疑的だ。「これらの石器群がヒト以外の動物によって作られた可能性はないでしょうか? 今回のヒゲオマキザルの例があるのですから、可能性はあるはずです」と彼女は言う。

ロメクウィ遺跡で石器を発見した研究チームのメンバーである、パリ西ナンテール・ラ・デファンス大学(フランス)の考古学者Hélène Rocheは、ロメクウィの石器の中には重さ15kgに達するものもあり、ヒゲオマキザルが作った小さな剥片と間違える余地はないと言う。

彼女はProffittらの研究について「非常に素晴らしく、重要なものだと思いますが、それはあくまでもヒゲオマキザルを理解する上でであって、初期人類の理解にはあまり関係がないと思います」と言う。

ジョージ・ワシントン大学(米国ワシントンD.C.)の考古人類学者Bernard Woodは、今回のヒゲオマキザルの道具がヒト族の石器によく似ていることは認めているものの、今回の知見が古人類学に関係してくるとまでは確信が持てないという。「これは一体何を意味するんだ? というのが今の率直な感想です」。

Nature ダイジェスト Vol. 13 No. 12 | doi : 10.1038/ndigest.2016.161204

原文: Nature (2016-10-19) | doi: 10.1038/nature.2016.20816 | Monkey 'tools' raise questions over human archaeological record

Ewen Callaway

参考文献
  1. Proffitt, T. et al. Nature (2016).
  2. Goodall, J. Science 282, 2184-2185 (1998).
  3. Falótico, T. & Ottoni, E. B. Behaviour 153, 421-442 (2016).
  4. Harmand, S. et al. Nature 521, 310-315 (2015).

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