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冥王星のクジラ模様は、衛星形成時のジャイアント・インパクトの痕跡だった

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かつては太陽系の第9惑星とされた準惑星「冥王星」。2015年、米国航空宇宙局(NASA)の探査機ニューホライズンズが冥王星に最接近した際に撮影した、表面の褐色のクジラ模様と白いハート模様の鮮明な画像は、世界の研究者を驚かせた。

冥王星の表面に氷の火山や氷河だけでなく、多様な物質や地形の存在が確認されたからだ。この褐色のクジラ模様は、どうしてできたのか。

東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻准教授、関根康人さんと、東京工業大学地球生命研究所特任准教授の玄田英典さんらは、巨大な天体が冥王星に衝突する「ジャイアント・インパクト」(巨大天体衝突)によって衛星「カロン」が形成された時の痕跡であることを突き止めた。

ジャイアント・インパクトが改めて惑星、衛星の形成に重要な役割を示す成果で、Nature Astronomy 2月号に掲載された。

2人に研究のきっかけ、苦労した点、成果の意義、今後の研究の方向性などについて聞いた。
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玄田さん(右)と関根さん

―― 研究のきっかけは何ですか?

関根氏: 2015年7月中旬、ニューホライズンズが冥王星に最接近し、送ってきた画像を見てコメントが欲しいとあるテレビ局のディレクターから頼まれました。

目を皿のようにして何かないか画像を見ていると、多様な物質、地形が確認できました。中でも目を引いたのは、クジラ模様(クトゥルフ領域)と白いハート模様(トンボー領域)で、とりわけクジラ模様に興味を引かれました。

白いハート模様は厚い氷で覆われている可能性が高いと考えられましたが、褐色のクジラ模様についてはなぜできたのか明確な答えはなく、注目されていたからです。

これは、赤道域で起きた巨大な物理・化学現象が考えられ、冥王星から約2万km離れた衛星カロンが形成される際の「ジャイアント・インパクトによって加熱された」と考え、指摘したのですが、あえなく番組ディレクターに却下されました。

そのディレクターは、東大地球惑星科学専攻の私の1つ上の先輩でした。でも私は納得できず、同じく東大の2年先輩である玄田さんにソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)のLINEで連絡を取りました。

それが共同研究の始まりです。

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図1:NASAの探査機ニューホライズンズによって撮影された冥王星(右)と衛星カロン(左)
冥王星の表面に赤茶けたクジラ模様と白いハート模様がくっきりと映っている。
画像提供:NASA/JHUAPL/SwRI

玄田氏: 冥王星には、直径約2400kmという冥王星の半分程度の巨大衛星カロンがあります。

冥王星の月であるカロンはジャイアント・インパクトでできたのではないかといわれていましたが、誰も証明できていませんでした。

クジラ模様のクトゥルフ領域は、赤道域で、カロンの軌道と同じ水平面にあり、ジャイアント・インパクトによる可能性は高いと思いました。

というのは、それまで私は、水星、金星、地球、火星の岩石惑星は、20個以上の原始惑星の度重なるジャイアント・インパクトで形成された可能性が高いことをコンピューターシミュレーションで確認し、同じことがいえると思ったからです。

そこで共同研究を進め、惑星科学会や米国地球物理学会で発表しようと即答しました。結果が出ていないうちの学会エントリーで、少しギャンブル的でしたが、結果的にはうまくいきました。

―― その学会発表が今回の成果の基本ですね。

関根氏: そうです。まず取り組んだのは、クジラ模様のクトゥルフ領域で何が起きたか、どのくらいの温度になったのかの解明です。この領域は、冥王星の赤道領域を中心に幅約300km、長さおよそ3000kmに広がっています。

ニューホライズンズが送ってきた分光データからは、氷水と褐色の高分子有機物物質でできていることがわかっています。これだけ大きな領域だけが褐色になっているのは、大規模な物理・化学的な現象が、この部分で起きたと考えるのが自然です。

ジャイアント・インパクトだとすると、冥王星表面の衝突地点一帯では氷が加熱されて溶け出し、巨大な温水の海ができた後、冥王星表面にある物質が温水によって重合反応を起こし、褐色の高分子有機物質になったのではないかと考えました。

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図2:ニューホライズンズが撮影した冥王星表面の画像を基に作成されたメルカトル図法による冥王星地図
点線は、クジラ模様の褐色の領域「クトゥルフ領域」を示す。
NASA/JHUAPL/SwRIの画像を基に関根准教授が加工

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図3:NASAの探査機「ニューホライズンズ」
画像提供:NASA/JHUAPL/SwRI

―― それを実験で確かめたのですね。

関根氏: 太陽系の海王星より遠いところには、「カイパーベルト」と呼ばれる大小の氷天体が円盤状に密集した領域があります。

このエリアの天体は氷と岩石の混合物から構成され、多くの彗星(すいせい)がここから発生しているといわれています。カイパーベルトの天体の成分にはホルムアルデヒドやアンモニアなどの単純な分子が含まれていることがわかっています。

そこで冥王星にも、ホルムアルデヒドやアンモニアが含まれていると考え、これらの物質各1%が含まれる水溶液が、温度や反応時間を変えるとどう変化するかを室内の実験で調べました。衝突後の温水の海で起きた現象の再現というわけです。

その結果、約50℃の温度で4カ月間加熱すると、もともと無色透明だった水溶液が、クトゥルフ領域と同じ褐色に変化し、それ以降は変化しないことがわかりました。

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図4:ホルムアルデヒドやアンモニアを含む水溶液を50℃で加熱した時の反応時間と可視透過スペクトルのグラフ(左)と、水溶液の写真(右)
無色透明な液体が、さまざまな有機物の発生で、時間とともに褐色になっていくことがわかる。4カ月まで褐色化は進むが、それ以降は変化がない。

―― 意外と低温ですね。こうした温度になるのはどんな衝突なのですか?

玄田氏: ここからが私の出番です。そうした温度条件が、どんな形のジャイアント・インパクトで起こるのか、スーパーコンピューターを使った数値シミュレーションで確かめました。

衝突する天体の大きさ、衝突速度や角度をさまざまな条件を変えました。カロンのような大きさの衛星ができる衝突はいくつかありましたが、すべてのケースで、クトゥルフ領域と同じパターンの加熱領域ができることがわかったのです。

中でも、温度が50℃程度に抑えられるのは、衝突速度が秒速1kmと低速の場合です。また、衝突角度が60度だと深さ200kmまで温度分布が一定であることもわかりました。

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図5:冥王星に、質量半分の天体がジャイアント・インパクトした際にカロンが形成されるシミュレーションの計算結果の一例
秒速1kmで、角度は60度で衝突した時の時系列のスナップショット。くっついたり、離れたりしながら43.6時間後はくっきりと分かれた。小さな粒々は氷の塊。10万個に及ぶ氷と岩石の塊を考慮している。右は衝突後の冥王星の表面と深さ200kmの温度分布。クジラ模様に重なる冥王星の赤道域が広範囲にわたって50℃以上になり、同じ模様で深さ200kmまで温められている。
玄田氏提供

―― その衝突条件がカロン形成の最適解ということですね。

玄田氏: そうです。約45億年前の、誕生間もない冥王星に、その半分ほどの質量の天体が秒速1kmで、60度の角度で衝突した際にカロンが形成されたと考えられます。

―― シミュレーションは大変だったのではないですか?

玄田氏: 衝突のシミュレーションでは、冥王星と衝突天体を10万個の粒子(氷と岩石)に分割して、個々の温度上昇を精密に計算しました。

粒子の数を変えたシミュレーションも行ったのですが、50℃以上の海ができる領域の大きさにはあまり影響がありませんでした。スパコンによる衝突シミュレーションの数も300を超えました。その中で、今回のような条件を見いだすことができました。

―― クジラ模様は変化しないのですか?

関根氏: クジラ模様の深さは200kmにも達します。表面が冷やされても、熱源は深くまであり、変化しないと思います。

―― 白いハート模様は何でしょう?

関根氏: 表面はクレーターがなく、滑らかです。窒素などを成分とする氷の平原とみられます。地下には液体の海があり、へこんだ領域の上に窒素の氷の平原ができたという研究もあります。

―― 今回の成果からいえることはどんなことですか?

関根氏: 先ほど玄田さんが言われたように、冥王星―カロン系が、地球―月と同様にジャイアント・インパクトでできたことを示すものです。

衝突速度や角度など条件を変えると、衝突領域が加熱されたり、加熱されなかったりすることもあります。衝突が速いと、冥王星級の準惑星のマケマケ、セドナのような全球的に赤茶けた色になるのです。

一方でエリスのように白い準惑星もあります。これらを含むカイパーベルト天体の表面の多様な形成は、こうしたジャイアント・インパクトで説明できる可能性を今回の成果は示したといえます。

―― 地球もジャイアント・インパクトで形成されたということですが、その痕跡はあるのでしょうか?

玄田氏: 月が形成される際にジャイアント・インパクトが起こりましたが、深さ数千kmにわたって全球の岩石が、5000度近くに達し溶けてしまったため、その痕跡は残っていません。

先ほども触れましたが、火星より太陽に近い岩石惑星は20個以上の原始惑星同士が数十回ジャイアント・インパクトを繰り返し、今の4つの惑星ができたと考えられています。

最新の太陽系形成理論では、これらジャイアント・インパクトの引き金になったのが木星や土星というガス惑星の形成と移動です。こうしたガス惑星の挙動によって、カイパーベルトの多くの天体でジャイアント・インパクトが起こりえます。

―― お二人の共同研究はこれが初めてですか?

関根氏: 実は2011年、NASAの探査機「カッシーニ」が撮影した画像データなどを基に、土星の第六惑星「タイタン」の大気である「窒素(N2)大気はどうしてできたのか」という研究を共同で行いました。

ガス惑星が形成される分子雲の中には、窒素、水素が大量にあり、紫外線などの影響でアンモニアが大量に形成されます。

タイタンにもこのアンモニアが大量にあったと思われますが、ここに大きな熱と数ギガパスカルという巨大な圧力がかかると分解され、窒素ができます。

このことを私が室内実験で確かめ、そうした現象が天体衝突で起こり得ることを玄田さんがシミュレーションで証明しました。

玄田氏: 今回の研究と同じような構図です。衝突は秒速10kmほどになることで熱と圧力が発生することがわかりました。

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図6:土星を観測するNASA探査機「カッシーニ」
画像提供:NASA/JPL-Calte

―― 今後の研究についてお聞かせください。

玄田氏: 関根さん以外の研究者ともさまざまな分野でコラボレーションしていますが、生命の起源、生命がどんな環境であれば生まれるのかということに興味があり、研究を進めています。

例えば、地球の海はなぜできたのか。多くの衝突の中で、水が形成されたとみられますが、地球上の海は質量で見ると地球全体の0.023%しかありません。ごはんのふりかけのようなものです。

でも海が今の3倍になったら、地球から陸は消えます。この微妙なバランスが生命誕生にどんな影響を及ぼしたかなどに興味があります。

関根氏: 私も生命の起源について興味があります。今回の研究でも単純な分子、ホルムアルデヒドやアンモニアが衝突によって重合される過程で、アミノ酸が形成されています。

生命に必要な必須アミノ酸4種類ができていました。こうしたアミノ酸が偶然にでき、生命が誕生していく可能性もあります。

カロン以外にも、土星の衛星のエンセラダスの表面を覆う分厚い氷の割れ目から地下の海水が噴き出しており、NASAの無人探査機カッシーニの画像データ分析結果を解釈する研究もしてきました。

室内実験から、エンセラダスの海底には、水温90℃以上の熱水が噴出している可能性が高いことを示しました。このような環境も生命発生につながる可能性はあります。ニューホライズンズも2018年1月に、直径20kmの小さな氷天体に最接近することになっています。

この天体は全球が赤茶けた色をしていることがわかっていますが、これもジャイアント・インパクトと関連していると思われます。こうした研究が進めば、衝突と惑星、衛星の形成さらには生命の起源解明の糸口になると思います。

―― 生命の起源に興味を持ったのはなぜですか?

玄田氏: 大学時代の師匠の影響はあるでしょう。関根さんは、惑星や生命の起源を探求する日本の第一人者、松井孝典(まついたかふみ)東大名誉教授に直接薫陶を受けました。私は松井先生の一番弟子であった阿部豊先生の研究室で学びました。我々の分野は、天文学分野はもちろん、生命、物理、化学、コンピューター科学が融合した分野です。阿部先生がよく言っていた、「広く、なるべく深く研究をやれ」という言葉がとても生きています。

―― ほぼ同じころにともに大学で研究をしていましたね。

玄田氏: 関根さんが大学院生のころ、「もっと広い視野を持って、グローバルなことをやれ」と説諭したことがありました。NASAの惑星探査の指導者で、わかりやすく天文学を解説した本を多く出版したカール・セーガンさん(1934-96)のような注目される研究者です。私などすっかり追い抜かれました。

関根氏: それは言い過ぎです(笑)。玄田さんは頼れるよき先輩です。

私は地球をはじめ太陽系の惑星や衛星から、玄田さんは太陽系のみならず系外の惑星も含めた宇宙から、異なる対象を通じて生命の起源解明に挑んでいますが、共同で研究できる分野は多々あります。今後も連携しながら成果を上げていきたいと思います。

―― ライバルでもあり、仲間でもあり、麗しき先輩後輩でもありますね。これからも共同研究の成果を楽しみにしています。今日はありがとございました。

Nature Astronomy 掲載論文

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Letter: カロンを形成した巨大衝突によってできた冥王星の暗い赤道領域
The Charon-forming giant impact as a source of Pluto's dark equatorial regions
Nature Astronomy 1 : 0031 doi:10.1038/s41550-016-0031 | Published online 30 January 2017

Author Profile

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玄田 英典(げんだ ひでのり)
東京工業大学地球生命研究所 特任准教授

2004年 東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻博士課程修了(博士(理学))
2004年 東京工業大学 日本学術振興会特別研究員PD
2007年 東京工業大学地球史研究センター 21世紀COEプログラム 研究員
2008年 東京工業大学地球史研究センター 21世紀COEプログラム 特任助教
2009年 東京大学 グローバルCOEプログラム 特任助教
2013年 東京工業大学地球生命研究所 特任准教授(現職)
「惑星の個々の特徴がいかにして誕生したのか」を解き明かすため、理論とコンピューターシミュレーションを駆使して研究をしている。

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関根 康人(せきね やすひと)
東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻 准教授

2006年 東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻博士課程修了(博士(理学))
2006年 東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻 特任助手
2007年 東京大学大学院新領域創成科学研究科複雑理工学専攻 助教
2011年 東京大学大学院新領域創成科学研究科複雑理工学専攻 講師
2014年 東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻 准教授(現職)
地球を含む、太陽系内の海や大気を持つ天体の形成・進化を、化学の側面から解き明かすことを目指して研究を行っている。