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ゴールドバッハの予想-2より大きい全ての偶数は2つの素数の和として表せる:研究員の眼

「ゴールドバッハの予想」などと言われたら、どんなに難しい予想なんだろうと、一瞬身構えるかもしれない。

2017年12月21日 14時56分 JST | 更新 2017年12月21日 14時56分 JST

はじめに

皆さん、「ゴールドバッハの予想」などと言われたら、どんなに難しい予想なんだろうと、一瞬身構えるかもしれない。そもそも、ゴールドバッハという名前自体がいかにもドイツ風のいかつい雰囲気を醸し出す名前なので、そういう印象を受けるのだろう。

ただし、実際は、「ゴールドバッハの予想」は、誰しもがその内容を容易に理解できるものである。

今回は、この「ゴールドバッハの予想」について紹介したい。

ゴールドバッハの予想とは

「ゴールドバッハの予想(Goldbach's conjecture)」というのは、サブタイトルで示しているように、「2より大きい全ての偶数は2つの素数の和として表せる」というものである。ただし、「予想」と言われているように、その内容が正しいかどうかについては、未だ証明されていない。

予想が述べていること自体を理解することは易しくても、これを証明することは大変難しい。素人感覚からすると、予想自体は、一瞬本当だろうかと思われるかもしれない。

素数が無数にあることは良く知られているが、いくら何でもどんな偶数も2つの素数の和に分解できると言われれば、そんなことが本当に可能なのだろうかと思ってしまう人も多いだろう。

ところが、コンピューター等により、かなり大きな数(2012年4月時点で4×1018:日本の数字の単位で言えば、100京の水準)までは正しい、ことが証明されている。従って、一般的には、予想は正しいものと想定されている。 

なお、2つの素数は同じものでもよい。また、分解の方法は一通りとは限らず、複数の方法がありうる。

ところで、4=2+2であるが、6以上の偶数の2つの素数への分解においては偶数の2が使用されることはないことから、この予想は「4より大きい全ての偶数は2つの奇素数の和として表せる」と言い換えることもできる。

さらには、これは「5より大きい全ての自然数は3つの素数の和として表せる」と言い換えることもできる。

なぜならば、「ゴールドバッハの予想」が正しければ、素数の2や3を1つ使用することによって、残りの偶数を2つの素数の和として表すことができるからであり、また、逆に上記の予想が正しければ、6以上の偶数が3つの素数の和として表せることになるが、そのうちの素数の1つは必ず2になるからである(3つの和が偶数になるのは、奇数+奇数+偶数か、偶数+偶数+偶数、のパターンしかないが、偶数の素数は2しかない)。

具体的な例を見てみると

実際の数値例を見てみると、以下の通りとなっている。

4=2+2       6=3+3     8=3+5

10=3+7=5+5   12=5+7    14=3+11=7+7

もっと大きな数で見てみると、例えば

100=3+97=11+89=17+83=29+71=41+59=47+53       6通りの分解

1000=3+997=17+983=23+977=29+971=......... =491+509  28通りの分解

という具合になり、数字が大きくなれば、幾通りもの分解ができることになる。

弱いゴールドバッハの予想

なお、ゴールドバッハの予想に関連しては、「5より大きい全ての奇数は3つの素数の和して表せる」というものもあり、これは「弱いゴールドバッハの予想(Goldbach's weak conjecture)」と呼ばれている。

当然のことながら、元々の「ゴールドバッハの予想」が正しければ、「弱いゴールドバッハの予想」も正しいということになるが、逆は必ずしも言えない。

この「弱いゴールドバッハの予想」については、ペルーの数学者であるハラルド・ヘルフゴット(Harald Andrés Helfgott)氏が、2013年に証明したとする論文を発表しており、この証明は幅広く受け入れられているようである。

素数の分布

我々が最初にゴールドバッハの予想を本当だろうかと思ってしまうのは、素数が無数にあることはわかっていても、数字が大きくなればその分布の密度が低くなり、任意の偶数を2つの組み合わせで表す適当な素数がみつかるのだろうか、と思ってしまうからだろう。

ところが、素数は結構な密度で存在している。

1~10まで   2、3、5、7 の4個

1~100まで  2、3、5、7、11、13、17,19,23,29,31,37......... 83,89,97 の25個

1~1000まで   168個

であるが、

1~1018まで    24,739,954,287,740,860(=2.4739954287740860×1016)個

1~1019まで   234,057,667,276,344,607 (=2.34057667276344607×1017)個

となっており、1018~1019というような大きな数字の範囲においても2×1017個以上の素数が存在していることがわかる。

素数の分布については、数多くの研究が行われてきているが、未だ完全に解明されているわけではなく、解明されていないことも多い。

数字が大きくなれば、素数の分布の密度は低くなるが、一方で、数字が大きくなればなるほど、2つの数字で表す組み合わせの数が多くなるので、これらのうちに素数だけのパターンが少なくとも1つは存在していることはありうるのではないか、と考えられることになる。実際に先の具体的な例はそのようなことを示しているとも考えられる。

ゴールドバッハについて

ゴールドバッハの名前を冠せられているクリスティアン・ゴールドバッハ(Christian Goldbach:1690~1764)は、プロイセンの中心都市ケーニヒスベルク(現在のロシアのカリーニングラード)出身の数学者である。

同時代のレオンハルト・オイラー(Leonhard Euler)、ゴットフリート・ヴィルヘルム・ライプニッツ(Gottfried Wilhelm Leibniz)、ダニエル・ベルヌーイ(Daniel Bernoulli)といった著名な数学者と手紙を交わしており、特に、1742年のオイラーへの手紙が、後にゴールドバッハの予想と呼ばれる内容を記載していた。

数学の証明

先に述べたように、「ゴールドバッハの予想」はほぼ正しいものと考えられている。ただし、数学で正しいことを証明するためには、いくら大きな数まで正しいことを証明しても意味がない。

これについては有名な例がある。「フェルマーの定理」等で有名なフランスの数学者であるピエール・ド・フェルマー(Pierre de Fermat)は、「(今はフェルマー数とよばれる)

AOL
(nは自然数)(=Fnと記される)表される自然数は全て素数である。」と予想した。

F4=65537までは正しかったが、1732年に、オイラーがF5=4294967297(=641×6700417)は素数ではない(反例)ことを示し、この予想が正しくないことを証明した。

数学の世界では、任意の数で正しいことを証明しなければならないことから、そのために新たな発想や考え方が必要になってくる。

そもそも、「ゴールドバッハの予想」についても、コンピューターでは「2012年4月時点で4×1018までは正しいことが証明されている」と述べたが、この数字自体も無限を対象としている数学の世界においてはそんなに大きな数字ではない、といえるのかもしれない。

近い将来に「ゴールドバッハの予想」が解決されることを期待して、今後もこの問題やその背景となる素数の分布等に関する研究の動向には関心を持っていきたいと思っている。

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(2017年12月11日「研究員の眼」より転載)
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