"アクセシビリティ"という「おもてなし」-さらなる「バリアフリー社会」の推進を!:研究員の眼

「バリアフリー社会」の実現へ一歩でも近づくことを期待したい。

2020年東京五輪・パラリンピックまであと3年を切った。新国立競技場はじめ各競技施設の建設も急ピッチで進んでいる。先日、国際パラリンピック委員会(IPC)は、東京大会の22競技、537種目を決定し、参加選手は史上最多の4,400人になると発表した。

世界から五輪・パラリンピックに訪れるアスリートや観客の中には、車いすを利用する人も多く含まれるだろう。国、東京都、オリンピック・パラリンピック組織委員会では、東京など日本各地のバリアフリー化を積極的に推進している。

日本では平成6年に「ハートビル法」により建築物等のバリアフリー化が、平成12年に「交通バリアフリー法」により交通施設等のバリアフリー化が義務付けられ、平成18年には両法を統合した「バリアフリー法」が施行されている。その結果、多くの公共交通施設や建築物のバリアフリー化が進展した。

一方、今年2月に閣議決定された「ユニバーサルデザイン2020行動計画」では、政府が掲げる共生社会の推進や一億総活躍社会の実現に向けて、全国のバリアフリー水準の底上げが示されている。

6月には国土交通省が2020年東京五輪・パラリンピックを契機に「バリアフリー法及び関連施策の見直しの方向性」をまとめた。基本となる視点のひとつは、高齢者や障害者等の社会参画の拡大の推進を図ることだ。

2020年東京大会のレガシーとして共生社会と一億総活躍社会の実現が目指されており、3年後に高齢先進国・日本で開催される五輪・パラリンピックが、世界の人々に対して新たな共生社会のモデルを提示することができるかどうかが問われている。

今年7月、日本航空が「木製車いすを全国の空港に展開」というプレスリリースを出した。JALは2018年度までに250台を全国の空港に配備する計画だ。木製車いすの場合、従来の金属製車いすでは通過できなかった保安検査場をスムーズに通れるそうだ。白樺の木を使ったぬくもりあるデザインで、乗り心地もよく、快適に空港内を移動できそうだ。

また、パナソニックは衝突回避システムを搭載し、人ごみの中でも安全に走行できる「自動運転車いす」の実証実験を羽田空港で行っている。

アメリカでは砂浜に木道を設け、水際まで車いすで近づける海岸もある。東京五輪・パラリンピックを契機として、車いす利用者などが制約なく自由に空間を移動できる"アクセシビリティ"の向上は、2020年東京大会の重要な「おもてなし(Hospitality)」のひとつではないだろうか。

2020年東京五輪・パラリンピックを契機に、ハード・ソフト両面の「バリアフリー化」が一体となり、障害者権利条約(*1)の理念を具体化する「バリアフリー社会」の実現へ一歩でも近づくことを期待したい。

(*1) 障害者の権利の実現のための措置等を定める条約で、2006年に国連総会で採択され、2014年に日本は批准した。

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(2017年9月19日「研究員の眼」より転載)

株式会社ニッセイ基礎研究所

社会研究部 主任研究員

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