高齢者の交通事故、どう防ぐ-"被害者・加害者"にならない「街づくり」:研究員の眼

だれもが交通事故の加害者・被害者にならないための新たな安全・安心の街づくりを進めなければならない。

先週の本欄に『過去10年間の交通事故の発生状況をみると、発生件数、負傷者数、死者数のいずれも大幅に減少している』と書いた。

ただし、人口の高齢化に伴い、交通事故に遭う人に占める高齢者の割合は確実に高まっている。

高齢社会のなかで交通事故を継続的に減らすためには、被害者・加害者などの立場にかかわらず、高齢者の特性を踏まえた交通事故対策が必要だ。

「平成27年交通事故分析」(警察庁交通局)によると、交通事故の死者の状態別では「歩行中」が37.3%、ついで「自動車乗車中」が32.1%だ。

事故の類型別では「正面衝突等」が29.1%、ついで「横断中」が25.9%と多い。「正面衝突等」の場合は約8割が単路(交差点、交差点付近、踏切等以外の道路部分)で発生し、「横断中」では半数が交差点で起こっている。

2016年の交通死亡事故の死者3904人のうち、65歳以上の高齢者は2138人(54.8%)。人口10万人当たりでみると、全年齢層では3.07人だが、高齢者では6.39人と2倍以上にのぼっている。

高齢者が道路の「横断中」に死亡するケースでは、交差点、単路ともに左からの進行車両による事故が多い。道路横断時に左側から近づく車両との必要な安全距離の誤認が大きな要因と考えられる。

高齢運転者による死亡事故の特徴は、75歳未満では歩行者に衝突する「人対車両」事故が多いのに対して、75歳以上では「工作物衝突」や「路外逸脱」による「車両単独」事故が多い。その結果、運転者自身が第一当事者になるケースが少なくない。

主な事故発生要因は、75歳未満では「安全不確認」や居眠りなどの「前方不注意」、75歳以上ではハンドルやブレーキ・アクセル等の操作ミスとなっている。

「平成27年版運転免許統計」をみると、2016年末時点の運転免許保有者数は8215万人、全体の男女比は55:45だ。

事故発生確率が高くなる75歳以上の高齢ドライバーは478万人で、男性が4分の3を占めている。しかし、今後は免許保有者の多い60代女性が75歳以上の高齢ドライバーの仲間入りをし、女性の高齢運転免許保有者の増加が一層進むだろう。

多くの高齢者が交通事故に遭遇するのは、運転者・歩行者のいずれの場合でも、運動機能と認知機能の低下が深く関与している。

それらに対しては、自動車や道路自体の安全機能の強化、自動運転車の開発が有効だ。さらに高齢者の交通事故を防ぐには、高齢化時代に適した公共交通システムの充実と高齢者が車に依存しなくても暮らせるコンパクトな街づくりが必要だ。

だれもが交通事故の加害者・被害者にならないための新たな安全・安心の街づくりを進めなければならない。

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(2017年2月14日「研究員の眼」より転載)

株式会社ニッセイ基礎研究所

社会研究部 主任研究員

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