民泊の完全解禁と今後への懸念:研究員の眼

政府は5月19日に公表した「規制改革に関する第4次答申~終わりなき挑戦~」において、民泊の全面解禁の方針を明らかにしました。

政府は5月19日に公表した「規制改革に関する第4次答申~終わりなき挑戦~(*1)」において、民泊(*2)の全面解禁の方針を明らかにしました。

今月末の閣議決定を待ち、その後の法制度の整備が必要となりますが、今後は、マンションなどの空き部屋を届け出れば、旅館業法上の許可がなくても、インターネットを通じて「民泊」として自由に貸し出せるようになります。

民泊の全面解禁により、宿泊施設不足から空き部屋が見つからず、24時間営業のファミリーレストランやインターネット喫茶で夜を明かしたり、深夜バスを宿泊所代わりに利用しなくてもすむようになるかもしれません。

また、東京や大阪などの大都市では、ビジネスホテルが時期によっては一泊2万円以上に高騰していますが、民泊が解禁されれば、そうした時期でも、数分の一の料金で宿泊できる可能性があります。

さらに、地方活性化の観点からも、各地で増える空き家の宿泊施設としての活用にも大きく道を開くことになると考えられます。

その一方で、民泊のトラブルが増え続けていることから、全面解禁への懸念も高まっています。

まず問題になると思われるのが、周辺住民との騒音などのトラブルです。

国土交通省の「平成25年度マンション総合調査(*3)」によると、マンション居住者間のマナーに関するトラブルで最も多いのが生活音(34.3%)で、違法駐車(24.7%)やペット飼育(22.7%)を上回っています。

SUUMOによる「近隣トラブルに関する調査(*4)」でも、近隣住民への不満として第一にあげられているのが「騒音」で45.9%と突出しており、続いて挨拶(25.9%)、車や駐車場の使い方(21.5%)となっています。

このように、同じマンションに居住する近隣居住者同士にとっても、「騒音問題」は大きなストレスとなります。騒音トラブルから保育所開設への反対運動も起こっています。

まして、旅行で気持ちがハイになっている旅行者による夜間の騒音は、隣家の生活音や昼間の保育所の騒音よりも大きな騒音問題となりうることは容易に想像できます。

居住者以外の人が自由にマンション内に入ってくることに対しても危惧が広がっています。

現在、マンション内を居住者以外の知らない人が歩いている場合、「不審者」として警戒することもあるかと思いますが、民泊が解禁されたマンションでは非居住者がマンション内にいるのは通常のこととなり、オートロックの効果が低下すると感じる方もいるでしょう。

また、厚生労働省の「「民泊サービス」のあり方に関する検討会(*5)」で委員の方から報告がありましたが、新宿区では時間貸しの民泊も出始めているということです。つまり、マンションの隣室がラブホテルとして利用されている可能性もあるのです。

現在、民泊サイトを経由して運営されている民泊の多くが違法民泊、あるいは闇民泊と呼ばれるものです(*6)。

テロや犯罪者の利用など多くの危険性が指摘されていますが、それ以前に私には、居住と宿泊は、元来、親和性が低いのではないかと感じています。

だからこそ、これまで、都市計画法上、宿泊施設は住居専用地域には認められてこなかったのではないでしょうか。少なくともマンションの一室を継続的に民泊として活用するには、分譲・賃貸に関わらず、マンションの所有者や居住者の全体としての同意が必要ではないかと思えます。

2020年までに4千万人の訪日外国人旅行者数を目指すという政府の目標は非常に重要なものです。今後の日本にとって、観光はますます重要な産業になると思われます。

ただし、その目的のために、居住と宿泊施設(民泊)をマンション内に混在させるには、かなりの配慮がないと、居住者と宿泊者との間のトラブルが多発することになるのではないかと危惧します。

訪日外国人旅行者数の急増と今後の目標の高さや、違法民泊の急速な拡大の中で、民泊制度の早急かつ適切なルール整備が必要なのは確かです。

ただ、まだ、多くの人が「民泊って何?」という状況の中で、必ずしも議論が尽くされていないように感じます。

民泊の全面解禁においては、居住と宿泊の非親和性への十分な考慮と、リスクの一層の検証に加え、可能な限りトラブルが少なく、できるだけ多くの人が納得できる制度となるよう、さらに慎重かつ徹底的な議論を望みたいと思います (*78)。

関連レポート

(*1) 規制改革会議「規制改革に関する第4次答申~終わりなき挑戦~」を参照のこと。

(*2) 規制改革会議での「インターネットを通じ宿泊者を募集する一般住宅、別荘等を活用した宿泊サービス」。「「民泊サービス」のあり方に関する検討会」によると「「民泊サービス」とは住宅(戸建住宅、共同住宅等)の全部又は一部を活用して、宿泊サービスを提供するもの」(「「民泊サービス」のあり方について(中間整理)))とされています。なお、最近の規制緩和の対象として議論されてきた「民泊」の区分については竹内一雅「民泊トラブルの増加と規制の動き」(ニッセイ基礎研究所、2015.12.22)も参照のこと。

(*3) 国土交通省「マンション総合調査」を参照のこと。

(*4) SUUMO「近隣トラブルに関する調査」(2015.7.31~2015.8.3調査)を参照のこと。

(*5) 厚生労働省「「民泊サービス」のあり方に関する検討会」を参照のこと。

(*6) ただし、「イベント民泊」(大規模な祭りやコンサート開催の数日間のみ認められる民泊)と呼ばれる民泊など、インターネットを通じて宿泊予約ができる民泊にも、違法ではない民泊も存在します。イベント時以外に、民泊サイトを通じて不特定多数に継続的に宿泊客を募集している民泊の場合、外国人に日本文化を楽しんでもらいたいという「おもてなし」の気持ちで運営する民泊であったとしても、それは現時点では違法となります。所得税を納めたいと思い、確定申告をしようとすると、逆に違法民泊として検挙されてしまう可能性もあると思われます。

(*7) 「規制改革に関する第4次答申」等によると、民泊は届出のみで営業可能となり、また、民泊施設管理者が所有者に代わって届出手続きを代行できるようです。であれば、マンション等の空き家所有者は、全てを代行してくれる民泊管理業者への依頼だけで、毎月、一定の収入が入る可能性があります。もしそうしたシステムが広がれば、全国の居住可能な820万戸の空き家のうち何割が民泊として届出されることになるのでしょうか。現在、民泊の宿泊可能日数は180日を上限とする方向にありますが、かなりの空き家が登録される可能性があるように思われます。なお、みずほ総合研究所によると、訪日客数が1341万人(2014年)から2500万人へと約1千万人増加する場合に、新たに必要となる客室数は全国で4万1千室と推計しています。詳しくは大和香織「インバウンド観光と宿泊施設不足」(みずほ総合研究所、2015.8.10)を参照のこと。

(*8) 欧米では、民泊の方が賃貸住宅より稼げるということで、都心部の賃貸住宅が民泊へと転換が進んだため、賃貸住宅の数が減るという事例も出ているようです。Douglas Robertson " Berlin has banned people from renting flats on Airbnb - here's why", INDEPENDENT 2016.5.16 などを参照のこと。

(2016年5月26日「研究員の眼」より転載)

株式会社ニッセイ基礎研究所

金融研究部 不動産市場調査室長

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