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【インドネシア】ジョコ政権は「デノミ」を決められるか:研究員の眼

2015年04月10日 18時15分 JST | 更新 2015年06月09日 18時12分 JST

安いルピアの弊害

インドネシアは2014年の名目GDPが10,095兆ルピアと、ルピアベースでは遂に1京の大台を超えた。米国の名目GDPは17兆ドル、二桁大きい日本の名目GDPでさえ488兆円と先進国通貨では「兆」単位がほぼ最大であり、ゼロが16個並ぶインドネシアの「京」はあまりに大きな単位で違和感がある。

これはインドネシア・ルピアの安さが影響している。ルピアはアジア通貨危機(1997年)の前までは1ドル=2000ルピア台前半だったが、直近では約13,000ルピアとこれまで減価し続けてきた(図表1)

通貨の単位が大きすぎると、かなり不便な生活を強いられる。例えば日本円(1ドル=約120円)と比べてルピアは単位が約100倍のため、1杯250円のコーヒーはインドネシアでは25,000ルピアになる。

つまり、買い物の際に桁数を数えることに苦労するほか、最高額の10万ルピア札(約千円)を何枚も持ち歩く必要がある。また、取引の桁数が多いとレジ・計算機、金融システムなどに余計なコストも掛かる。最近では、こうした煩わしさから逃れるために金額表示を1000分の1にする業界もある。

さらには、この話は通貨の信用力にも関わる。通貨ルピアはASEAN主要国の中でもベトナム・ドンに次いで低く、インドネシアが歴史的に通貨の脆弱な国であることを暗に示しており、市場のボラティリティが高まる局面では反射的に通貨が売られやすい(図表2)

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デノミネーション

こうした弊害を解消するにはルピアの価値を引き上げる必要があるが、為替市場の取引に任せていては単位が100倍もしくは1000倍まで増価する見込みが薄いため、一般に通貨単位を変える「デノミネーション(*1)」という手法が取られる。

例えば、通貨の価値を1ドル=100円(旧円)から1ドル=1円(新円)となるよう、新しい通貨(新円)を流通させるといった具合である。最近では、北朝鮮(2009年)、ジンバブエ(2008年・2009年)、トルコ(2005年)などでデノミネーションが実施されている。

インドネシアにおいては、2010年頃からデノミが検討され、2013年6月にデノミ法案(ルピア単位を1000分の1に変更、移行期間6年の計画)の可決を目指していたが、2013年5月のバーナンキ・ショック(*2)を受けてルピアを含む経常赤字国の通貨が大きく下落し、デノミ計画は先送りされた。為替市場が大きく揺らいでいる中でデノミを実施すれば、通貨の信用が失われ、国民が物やサービスの購入を急ぐ結果、インフレ率が高騰する恐れがあるためだ。

そして現在、再びデノミを実施する好機が到来している。名目実効為替レートで見ると、ルピアは2014年頃から安定しており(図表3)、昨年からの原油価格の下落はエネルギー資源の純輸入国であるインドネシアの貿易収支を改善させている。

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さらに物価の面では、昨年の補助金付き燃料価格の値上げの影響が一巡する11月以降、インフレ率が中央銀行のインフレ目標(3-5%)の範囲内に収まるものと見込まれる。先行きは米国の利上げに対する懸念は残るものの、原油価格が低水準で続くなかでは、ルピアは比較的安定しやすい環境にある。

インドネシアの国会は昨年8月にデノミ計画の審議を再開している。デノミは進め方を誤れば経済的混乱を招く恐れがあるために慎重になりがちだが、ルピアが安定しているにも関わらず再び先送りともなれば上述の弊害が解消されないことは勿論、決められない政治が続くとの評価にも繋がりかねない。

逆に言えば、新政権が国会(野党が多数派)との調整を進めて法案を可決させ、デノミ計画をしっかりと進めていけば、投資家に「インドネシアの政治が変わる」とのイメージを植え付け、投資資金が流入しやすくなる。その結果、成長力が高まり、通貨が下支えられてインフレ圧力の後退も期待できる。

従って、新政権がデノミ計画を進められるかどうかは要注目と言えるだろう。

*1 デノミネーションとは、本来「通貨単位」を意味するが、日本では「通貨単位の変更」という意味で使われる。
*2 QEⅢ(量的金融緩和策第三弾)を見直すとの発言。

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(2015年3月31日「研究員の眼」より転載)

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