「格差と貧困」の解消に向けて-「ベーシック・インカム」生み出す"AI資本"大国へ:研究員の眼

天然資源に乏しく、消費税アップも難しい日本の場合、AIを活用できないものか。

今月1日、厚生労働省が公表した「生活保護の被保護者調査(平成28年3月分概数)の結果」によると、被保護世帯数は1,635,393世帯と過去最多となった。

世帯類型別では、高齢者世帯が826,656世帯と過半数を超え、そのうち単身世帯は747,957世帯に上っている。高齢者世帯以外は減少傾向にあるが、特に単身高齢者世帯が増加しており、一人暮らし高齢者の貧困状況が深刻であることがわかる。

その背景には、年金受給要件の不備による無年金者や老後の生活を維持できるだけの受給額がない低年金者の増加がある。

高齢者の生活保護世帯をこれ以上増やさないためには、現在、国庫負担割合が2分の1になっている基礎年金部分を、すべての高齢者が保険料の納付状況に関わらず受給できる全額税方式の生活保障年金に改める必要があるのではないだろうか。

一方、若者を中心とした非正規雇用の増加などにより、国民年金保険料の未納率が高まっている。雇用形態に関わらない同一労働・同一賃金の実現が難航する中、非正規雇用者の年金保険料の支払いは厳しい。

現在の非正規雇用の増加は、将来の無年金・低年金者の増大につながる極めて重大な問題だ。また、若者の経済基盤の不安定化は少子化の主な要因にもなっているのだ。

ひとつの選択肢として、すべての人に無条件で現金給付するベーシック・インカム(*1)(BI:最低所得保障)の導入が考えられる。

BIの導入は中間層をはじめ国民全体の経済基盤を強化し、リスクのある起業にチャレンジする人を増やし、イノベーションを引き起こす可能性を高める。

若者の生活基盤の安定は、結婚・出産に踏み切る人を増やし、少子化対策にもなる。問題は財源をどう確保するかだ。

米国アラスカ州では、石油資源による公益ファンドの運用益から、年間一人当たり1000~2000ドルを全住民に給付している。天然資源に乏しく、消費税アップも難しい日本の場合、人工知能(AI)を活用できないものか。

例えば、雇用、医療、年金等の保険料の負担なく人間の労働を代替するAIやロボットの所有者には、"AI資本"課税を行い、ベーシック・インカムの原資とするのはどうだろう。

先週の本欄「AI(人工知能)とBI(ベーシック・インカム)-「仕事を奪われる」のか、「仕事から解放される」のか?」で、AIの進展が知的労働を含めた多くの仕事を代替する時代には、中間層の個人消費を維持するためにBI導入の検討が必要だと書いたが、それは日本が少子高齢化を乗り越える上でも真剣に議論すべきだ。

今後は資本所得の割合が一層大きくなり、格差と貧困が拡大すると思われる。

世界一の高齢先進国・日本の針路としては、"AI資本"を活かして「ベーシック・インカム」を生み出す"AI資本"大国を目指すのもひとつの方向ではないだろうか。

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(*1) スイスでは6月5日に「ベーシック・インカム」導入の是非を巡る国民投票が行われ、反対多数で否決された(日経新聞6月6日朝刊)。

(2016年6月7日「研究員の眼」より転載)

株式会社ニッセイ基礎研究所

社会研究部 主任研究員

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