「えひめ方式」未婚化への挑戦(2)-未婚化・少子化社会データ再考-「高卒後男女エリア外流出」の現実:研究員の眼

愛媛県では、高校生まではまだしも、その後はエリア内で一気に減少する若い男女の間でのマッチングを目指さなくてはならない状況となっている。

【はじめに】

先月のコラム「えひめ方式」未婚化への挑戦(1)-世界ランキングお年寄り大国第1位日本・少子化社会データ再考-地方を揺るがす「後継者問題」では、なぜ一般社団法人愛媛県法人会連合会(以下、法人会)が愛媛県における結婚支援に立ち上がったのかを「後継者問題」の観点から説明した。

小規模事業所が9割を超える愛媛県において、職場における自然な出会いが困難を極めること、未婚化は後継者難へ直結しやすく、後継者問題から経営に不安をもつ事業主が少なくないことを示した。

次に本稿では、愛媛県というエリアの現在の人口構造が持つ、未婚化(特に後継者問題)をさらに深刻化させているある要因に焦点をあてる。

今月発表したコラム2015年最新国勢調査結果・都道府県別生涯未婚率データが示す「2つのリスク」では、未婚化には2つのリスクがあり1つは「消滅可能性都市リスク」、もう1つは「社会不安リスク」であることを説明した。

えひめの結婚支援の中心となる法人会はこの2つのリスクのうち「消滅可能性都市リスク」に内包される後継者問題と戦っている。

そして、えひめの後継者問題の壁はさらにもう一つの理由から、非常に高い壁となっている。もはやえひめが一丸となって未婚化に立ち向かわなければ解決できない「ある状況」をわかりやすく可視化することで、えひめがいかに大きな未婚化の壁を眼前にしているかを示してみたい。

【21歳を境界にがらりと変わるえひめの人口構造】

図表1は最新の国勢調査の結果から、愛媛県の年齢別男女人口の男女数差異を算出し、図表化したものである。21歳を境界にして、それまでは男性超過構造である愛媛県が、一転、女性超過構造エリアに変化してゆく様子が明確に示されている。

成人式あたりまでは男性が女性よりも多いエリアであるものの(この理由の分析は本稿では行っていない)、成人式を過ぎたあたりからエリアにおける男性超過構造が女性超過構造に変化してゆく。

わかりやすくいうと、「愛媛県では21歳あたりで男女バランスに大きな変化が生じ、それはその後も解消されることがない」。

図表1は全年齢の男女人口差異の結果を可視化したものである。高年齢ゾーンは女性が男性より長生きであることから発生している男女数の差であるので、より見やすくするために、男性の流出が激しい年齢である21歳前後の15歳(高校生)から40歳まで、に焦点を絞り、再度見やすく男女人口差異を示したものが図表2である。

高校生から成人式の少し後の21歳までは男性が女性よりも明らかに多い。しかし21歳あたりで男女の人口構造に変化が起こっていることがわかる。

一体、この年齢あたりで何が起こっているのだろうか。

【若年層の人口構造の変化の原因】

なぜ愛媛県において、21歳あたりでそれまで男性超過だった男女の人口バランスが一気に変わるのだろうか。

地方において若い男性が同年齢女性を超える勢いであるエリアからいなくなる、もしくはエリアにおける女性比率が上がる理由として、一般的に思いつく議論の1つに「男性の方が他県の大学に進学するから」がある。

これに関して文部科学省の「平成27年学校基本調査」をみると、愛媛県の大学進学率は男性48.2%、女性56.0%であり、どこのエリアへ進学するかは別として、むしろ女性の方がより大学に進学しているといえる。

また大学進学と同時に他県に異動することが男女人口構造変化の主な理由であれば、ほぼ18歳あたりで変化するはずにも思える。よって他県への進学によって男女差が逆転していることが変化の一番の要因とは、以上のデータのみでは指摘しにくい。

そこで、別のデータである総務省の住民基本台帳によって、愛媛県と他のエリア間の人口の移動状況を確認してみよう。

愛媛県の男女の年齢別エリア人口流出入の差(県外から愛媛県に転居してきた人の数と県外に出て行った人の人数差)をグラフ化すると(図表3)、明らかに30歳までの若い世代で県外への激しい人口流出超過が起こっていることが見て取れる。ここをもう少し詳しく見てみることとする(図表4)。

図表3から、愛媛県において特に30歳までの若い男女の流出が激しいことがわかるため、次に、15歳から30歳の男女に絞って転出入の状況を見てみると(図表4)、高校卒業年齢の18歳で大量の男性の県外流出超過が起きていることが示されている。

確かに女性に関しても18歳(高卒後)から22歳(大卒後)における転出超過が生じているものの、男性の高卒直後の流出超過があまりに多いために国勢調査結果に見られる21歳における男女バランスの大きな変化(図表2)を招いているだろうことが示唆されている。

この高卒男子県外大量流出は、おそらくは愛媛県に高卒男子をより魅了するような進学先や産業が増加することによって解消されるであろうと予想されるが、本稿は愛媛県の教育・産業分析を目的としていないので省略したい。

若い世代に限らないが、愛媛県からの主な転出エリアは以下の通りとなっている。愛媛県からの人口の移動先エリアをみると、やはり進学のみならず就業目的でも転出したと考えられるエリアとなっているといえるのではないだろうか。

【エリア一丸となって探さなければ困難を極める「見えない」お相手探し】

以上から、愛媛県においては、小規模な事業所が大半であるという事情だけでなく、高校卒業後の若い男女の居住者数の県外転出による若者の激減も、より一層、適齢期の結婚相手探しを難しくしているだろうことが指摘出来る。

激減した後の若い男女がエリアに「点在」する状況において、そのマッチングを図らなければならない。

前回のコラムの後、筆者に寄せられたえひめの結婚支援者からの声にも「取引先の社長がお嬢さんのお相手探しに必死で、まずは取引の話よりも社長令嬢の結婚お相手探しの話で社長と懇意になれました」というものがあった。上記データに非常にマッチした話である。

愛媛県では、高校生まではまだしも、その後はエリア内で一気に減少する若い男女の間でのマッチングを目指さなくてはならない状況となっている。容易には身近に「見えない」若者同士のマッチング。自然な出会いを期待することは問題の解決を困難にするばかりである。

このような状況下、えひめ一丸となった結婚支援活動が、法人会を中心に独特な方法によって開発されてきた。このようなえひめの状況は実は全国的な地方部における共通課題ともいえるため、えひめの挑戦の詳細を次号以降で紹介したい。

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(2017年5月15日「研究員の眼」より転載)

株式会社ニッセイ基礎研究所

生活研究部 研究員

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