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日韓比較(9):非正規雇用-その3 非正規雇用労働者の増加要因―経済のグローバル化に対する企業の採用方針の変化といった需要要因が大きく影響:研究員の眼

2015年11月14日 01時46分 JST | 更新 2016年11月12日 19時12分 JST

今回は日韓における非正規雇用労働者の増加要因について説明したい。

(前回:非正規雇用-その2 非正規雇用労働者の内訳

非正規雇用労働者の増加要因は供給サイド(労働者)と需要サイド(企業)に区分することができる。まず、日本の方から供給サイドが非正規雇用を選択する理由を見てみよう。

厚生労働省(2010)の調査結果では、供給サイドの理由(正社員以外の労働者(出向社員を除く)が現在の就業形態を選んだ理由)として、「自分の都合のよい時間に働けるから」(38.8%)、「家計の補助、学費等を得たいから」(33.2%)、「通勤時間が短いから」(25.2%)、「家庭の事情(家事・育児・介護等)や他の活動(趣味・学習等)と両立しやすいから」(24.5%)などが挙げられた。

一方、韓国の供給サイドの理由としては「生活費等すぐ収入が必要であるから」が37.4%で最も高く、次は「労働時間等の労働条件に満足しているから」(24.6%)、「安定的な仕事であるから」(9.6%)、「希望する仕事がないから」(6.3%)、「育児・家事などと両立するため」(5.4%)の順であった(*1)。

両国の調査項目が異なるので、直接的な比較は難しいものの、日本では「自分の都合のよい時間に働けるから」が、韓国では「生活費等すぐ収入が必要であるから」が最も大きな理由として挙げられた。

この結果から、日本は韓国に比べて、労働者自らが個人の生活環境に合わせて非正規労働者という雇用形態を選択した可能性が高いと読み取れる。

その一つの背景としては韓国より充実した社会保障制度や所得に比べて高い購買力が考えられる。つまり、日本の場合は高齢者の年金受給率が高く(無年金者や低年金者が存在することを忘れてはならないが)、親の老後に対する子どもの経済的負担や責任感が韓国に比べると小さい。

むしろ、親から経済的支援を頂く若者(パラサイト・シングル等)の中には、雇用形態に拘らずより自由に仕事を選択している可能性もある。

一方、1988年に公的年金制度を導入した韓国の場合は、高齢者の年金受給率は低く、親の老後に対する子どもの経済的負担や責任感が日本より大きい。

日本の若者に比べて親に頼ることが難しいので、正規職であろうが、非正規職であろうが、生活をするためには仕事に就かざるを得ない。つまり雇用形態を選択する余裕がない。その結果、非正規職という雇用形態を選択した可能性が高い。

また、日本の場合、所得に比べて高い購買力も非正規職という雇用形態を自ら選択させるのに影響を与えたかも知れない。

例えば、毎年発表されるビッグマック指数(BMI)(*2)をみると、2015年における日本のビックマック指数は2.99ドルで、韓国の3.76ドルより低く、同じ非正規職でも日本の方が韓国に比べてより豊かな(?)生活ができることが分かる。

次は需要サイドが非正規雇用労働者を選択する理由を見てみたい。

まず、日本の場合、需要サイドの理由(正社員以外の労働者を活用している理由、複数回答)として、「賃金の節約のため」が43.8%で、最も高い割合を占め、次は「1日、週の中の仕事の繁閑に対応するため」(33.9%)、「賃金以外の労務コストの節約のため」(27.4%)の順であった(図1)。

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特に、「賃金以外の労務コストの節約のため」と答えた事業所の割合は2007年の21.1%から2010年には27.4%に増加し、増加幅が最も大きかった。これは社会保険の保険料率が同期間に引き上げられたことが原因かも知れない。

例えば、厚生年金の保険料率は2007年の14.996%から2010年には16.418%に、また同期間における介護保険や健康保険(協会けんぽ)の保険料率はそれぞれ1.23%や8.20%から1.50%や9.34%に引き上げられた(*3)。

他に2007年に比べて正社員以外の労働者の活用理由が大きく増加した項目としては、「正社員の育児・介護休業対策の代替のため」(2.6%から6.7%に)、「高年齢者の再雇用対策のため」(18.9%から22.9%に)が挙げられる。

こうした項目の回答割合が増加した背景としては、改正育児・介護休業法の施行による休業取得者数の増加、就業を希望する高年齢者の増加などが考えられる。

次は韓国労働研究院の「事業所パネルデータ」を用いて韓国の需要サイドが非正規雇用労働者を雇う理由を見てみよう。

韓国の需要サイドが、非正規雇用労働者を雇う最も大きな理由としては、「雇用の柔軟化のため」(2005年58.1%、2011年56.1%)が挙げられ、次は、「人件費の節約のため」(同23.6%、同22.4%)、「業務の性格のため」(同10.1%、同16.8%)、「雇用の柔軟性のため」(同1.9%、同3.1%)、「その他」(同6.2%、同1.5%)の順であった。2005年と2011年の調査における変化は、「業務の性格のため」の割合が少し高くなった代わりに、「その他」の割合が少し低くなった点程度である。

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本稿では日韓における非正規雇用労働者の増加要因を供給サイドと需要サイドに分けて比較しており、両国における社会的背景による違いは認められたものの、両国ともに非正規雇用労働者が増加傾向にあることについては大きな違いは見られない。

また、日韓ともに非正規雇用労働者の増加は供給サイドよりの要因よりも需要サイドの要因が大きい。

このシリーズですでに説明したように、日本では97 年に派遣労働の自由化を盛りこんだ規制緩和推進計画が閣議決定され、99 年には派遣が原則自由化された。

その結果、 非正規雇用労働者の増加に拍車がかかり、雇用形態の多様化がさらに進んでいる。

一方、韓国では97 年の IMF経済危機以降、非正規雇用労働者が増加することになった。その主な要因としては経済のグローバル化が進展するなかで、企業において人件費削減のプレッシャーが大きくなっていることが挙げられる。

つまり、企業は経済のグローバル化による市場での厳しい競争を乗り越える目的で正規職と比べて人件費などの負担が少ない非正規労働者の雇用をより選好することになったのである。

正規労働者の代わりに非正規雇用労働者を雇うことで企業の労務コストはなぜ、またどのように削減されているのだろうか。

その答えは正規労働者に比べて相対的に低い非正規雇用労働者の賃金や、公的社会保険制度の適用率から説明できる。

次回は日韓における雇用形態別賃金や公的社会保険制度の適用率などについて説明を行いたい。

日韓比較(10):非正規雇用-その4 なぜ雇用形態により人件費は異なるのか?

(*1) 韓国統計庁(2015)「2015年3月経済活動人口調査付加調査(勤労形態別)」。

(*2) ビッグマック指数 (Big Mac Index)とは、イギリスの経済誌The Economistが発表するもので、マクドナルドのビッグマックの価格によって各国の通貨の購買力を比較する指標である。http://www.economist.com/content/big-mac-index

(*3) 金明中(2015)「非正規雇用増加の要因としての社会保険料事業主負担の可能性」『日本労働研究雑誌』No.659 27-46Pから一部引用。

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(2015年11月12日「研究員の眼」より転載)

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株式会社ニッセイ基礎研究所

生活研究部 准主任研究員

金 明中