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EU(欧州連合)にみる「共生社会」-中欧・ウィーンの街角から:研究員の眼

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先日、オーストリアのウィーンを訪れた。日本で急増する訪日外国人の中でも中国人観光客が目立っているが、ウィーンも同様だった。

今年9月には、オーストリア航空が1989年から27年間運航してきた成田・ウィーン間の直行便が廃止され、代わって香港・ウィーン線が就航した。

2015年にアジアからウィーンを訪れた旅行者の宿泊数は日本人が最多だったそうだが、オーストリア航空の日本路線は価格競争の激化などから将来性が見込めないため撤退することになったようだ。

日本とウィーンを結ぶ直行便がなくなり、ウィーンへはドイツやオランダなどのヨーロッパ内での乗り継ぎが必要だ。現在、ヨーロッパではシェンゲン協定(*1)により、最初のシェンゲン地域の国で入国手続きをすれば、原則として域内の移動の際のパスポート・チェックはない。

国境を超える際には日本国内の都道府県境を超えるような感じだ。しかし、実際には異なる法律や文化を有する主権国家間の移動であることから、EU(欧州連合)のガバナンスはきわめて複雑であることは想像に難くない。

現在28カ国が加盟するEUでは、原則として人・物・サービス・資本の移動が自由に行われる。そこでは民主主義や法の支配、人権の尊重といった価値観が共有されなくてはならない。

EUは市場統合と通貨統合を推進しながら経済的繁栄を通じた欧州全体の平和構築を目指しており、経済・金融政策にとどまらず、環境政策や外交・安全保障政策など幅広い政策分野にかかわる超国家的統治体となった。とりわけEUでは人権尊重や男女平等の規定がきわめて重視されている。

今回、ウィーンの街を歩いていると、見慣れない歩行者用信号機に遭遇した(*2)。

「青信号」は二人の人が手をつないで歩く緑色の姿、「赤信号」は二人の人が手をつないで立ち止まる赤色の姿だ。ネットで調べてみると、2015年5月に一時的に導入され、さまざまな議論ののちに本格的に設置されるようになった同性カップルを表現した歩行者用信号機だった。

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近年、日本でもLGBT(性的マイノリティ)の人権尊重が求められる時代だが、改めてEUが目指す多様性や寛容性を感じた。

前述のシェンゲン協定によりEUは域内の国境が事実上なくなり、一層厳密な域外との国境管理が必要だ。EUは基本的価値観を共有しているものの、シリアなどから押し寄せる難民に対して加盟国の対応には温度差がある。

今年6月にはイギリスがEU離脱を表明した。しかし、ウィーンの街角で見かけた歩行者用信号機からは、「多様性のなかの統一」を掲げるEUが、経済的果実だけではなく、なおも互いの多様性を認め合う「共生社会」を求めて苦闘する様子が窺えるのだった。

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(*1) イギリスやアイルランド等を除く22のEU加盟国と、スイスやノルウェー等を含む4つのEU非加盟国をあわせた26カ国が参加

(*2) 2016年9月15日、ウィーンの街角にて筆者撮影

(2016年10月4日「研究員の眼」より転載)

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社会研究部 主任研究員
土堤内 昭雄