少子化の中で存在感を増し始めた外国人居住者の住宅需要~東京都では増加世帯数の3割を占める:研究員の眼

住宅需要に直結する世帯数については、日本人の世帯も増加を続けていますが、増加数に占める外国人世帯の比率が拡大しています。

2002年に発行され、大ヒットしたエッセイ漫画「ダーリンは外国人」には、外国人は漫画家とともに、居住できる住宅(賃貸住宅)を探すのに非常に苦労するという記述があります(*1)。

そうした状況を改善するため、政府・地方自治体も、高齢者や障がい者、子育て世代とともに、「あんしん賃貸支援事業」を通じて、外国人による住宅の賃借を支援する施策を行ってきました(*2)。

現在では、大手の賃貸住宅サイトにはほぼ必ず外国人向けの特設ページがあり、外国人向けの賃貸に注力する不動産会社も登場するなど環境は変化し始めています。

その背景には、日本人人口が減少する中で、外国人人口が増加していることがあると思われます。2015年10月から2016年10月までの一年間に日本人の人口は▲30万人減少しましたが、外国人は+14万人の増加でした。日本人の人口減少の半分を外国人の増加が補ったのです(図表1)。

住宅需要に直結する世帯数については、日本人の世帯も増加を続けていますが、増加数に占める外国人世帯の比率が拡大しています。

2015年の一年間に全国で増加した+54万世帯のうち、外国人のみの世帯及び複数国籍世帯(日本人と外国人の複数国籍世帯、以下同じ)は+10万世帯で、増加数の18%を占め、これは前年の11%から大幅な増加となりました。

こうした状況は、外国人の2割が居住する東京都でも同様です。東京都では2016年に増加した人口(+11万5千人の増加)のうち外国人が33%を占めています(*3)。

世帯数は2016年に全体で+10万世帯増加しましたが、外国人のみ及び複数国籍世帯は+2万9千世帯の増加で世帯増加数の約3割を占めました(図表2)。

区別にみると、全国で最も外国人人口の多い市区町村である新宿区では、世帯増加数の60%を外国人のみ及び複数国籍世帯が占め、豊島区ではこの比率が64%に達しています(*4)。

では、外国人はどのような住宅に居住しているのでしょう。

国勢調査によると、外国人のいる世帯の66%が賃貸住宅に居住しており(*5)、日本人を含む全体の賃貸住宅居住比率が37%であることと比べ、賃貸住宅への居住比率が高くなっています。

また、外国人の賃貸住宅というと、東京都心の広い高級賃貸マンションを思い浮かべる方がいるかもしれませんが、外国人は日本人を含めた全体と比べて狭い部屋に居住している比率がわずかながら高いのです(*6)。

2016年には国内の外国人労働者数が初めて100万人を超えました。2012年からの4年間で59%の増加となり、同期間に外国人留学生は48%の増加でした。

人手不足や政府による高度外国人人材の受け入れ方針、「留学生30万人計画(*7)」などもあり、各国からの外国人労働者や外国人留学生が急増しています。

その中でも、近年、特に人数が増加しているのがベトナムとネパールからの労働者と留学生で、在留外国人の国籍別にみてもベトナムとネパール国籍の増加が際立っています。

外国人人口が増加しているとはいえ、総人口に占める外国人の比率は、全国で1.5%(2016年10月時点)、東京都で3.6%(2017年1月時点)で、新宿区でも12.2%にすぎません。しかし、これまで見てきたように、外国人人口の増加は急速です。

外国人は若年層の人口が多いため、特に20歳代などで外国人比率の増加が顕著です。例えば新宿区では20~24歳人口の35%が外国人で、15~19歳や25~29歳も23%に達しており、その比率は毎年高まっています(*8)。

今後、日本人の人口減少と少子化の進展は人手不足をさらに深刻化させ、グローバル化による外国人人口や雇用の増加は、住宅需要(特に賃貸住宅)に占める外国人の比率をますます高めるのではないかと思われます。こうした動向は東京だけでなく、大都市を中心に各地に広がる可能性も高いと思われます。

不動産事業者や住宅オーナーにとっても、外国語対応をはじめとする外国人向けのサービスの充実を図り、増加する外国人需要を取り込むことが、これからの住宅事業での生き残りと事業拡大に貢献することになるかもしれません。

(*1) 小栗左多里「ダーリンは外国人」(2002年)、メディアファクトリー

(*2) あんしん賃貸支援事業は2010年度で終了し、現在は国土交通省のウェブサイト「外国人の民間賃貸住宅への円滑な入居について」で、ガイドラインや外国人向けのガイドブックを提供しています。

(*3) ちなみに、日本人の増加のうち、7万3千人は他県からの転入による社会増でした。東京では2012年以降、日本人は2015年を除き自然減となっています。2016年の日本人の自然増減は▲1,314の減少、外国人は2,488人の増加でした。なお、日本人の自然増と社会増の合計が全体の合計と一致しないのは、その他に、外国との出入国や国籍変更などがあるためです。

(*4) 東京都区部で2016年の世帯増加数に占める外国人のみの世帯及び日本人と外国人の複数国籍世帯の構成比が最も高いのが、豊島区の64%で、次いで新宿区(60%)、中野区(45%)でした。なお、2016年一年間の区別の増加人口に占める、外国人の増加人口の比率が高いのは、足立区(71%)、豊島区(69%)、新宿区(62%)、葛飾区(54%)でした。各区に住む外国人の国籍や年齢層・家族類型・収入などによって、1世帯あたりの人数や居室の広さなどにも相違があると思われます。

(*5) 2015年の主世帯総数に占める構成比。間借りや住宅以外にすむ一般世帯は除外して計算しています。言葉の定義等については国勢調査の用語解説を参照のこと。

(*6) 2010年の国勢調査によると、民営借家に居住する世帯のうち29㎡以下の部屋に居住する比率は、外国人のいる世帯では35%、日本人を含めた全体では33%となっています。49㎡以下では外国人のいる世帯では69%、全体では67%でした。

なお、2015年の国勢調査以降、居住している住宅の延べ面積の調査は実施されなくなっており、同様の比較をすることは出来なくなりました。少し前のレポートですが、東京の外国人居住者については、以下のレポートをご参照ください。竹内一雅「東京の外国人居住者」不動産投資レポート(2014.10.24)、ニッセイ基礎研究所。

(*7) 文部科学省「留学生30万人計画」を参照のこと。

(*8) 20~24歳人口に占める外国人比率が高いのは、新宿区の35%、豊島区の30%、荒川区と台東区の22%などで、米軍横田基地のある福生市の17%を上回っています。2016年1月の数値。

【関連レポート】

(2017年5月9日「研究員の眼」より転載)

株式会社ニッセイ基礎研究所

金融研究部 不動産市場調査室長

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