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米国銃規制問題~オバマ大統領の涙の訴えにも盛り上がらない世論:研究員の眼

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1月5日にオバマ大統領は銃規制の強化に関する大統領令を公表した。銃規制強化の必要性を訴える演説では感極まって涙を流す場面もあったことから、日本でも多数のメディアでその姿が報道された。

米国では銃に関連して年間3万人超(うち自殺者は2万人)が死亡しており、15年には4人以上の死傷者を出す大量殺人事件が330件(*1) とほぼ毎日発生している。

とくに12月に発生し、35人の死傷者を出したカリフォルニア州サンバーナディーノ郡の事件では、犯人宅から大量の銃器が見つかったことから、銃規制問題が注目された。

米国では民間で保有される銃器の数が人口を超えているほか、人口比でみた銃器保有数は2位のイエメンの倍近くと、世界でも突出している。

さらに、04年に殺傷能力の高い半自動小銃の販売を禁止する時限立法が失効したため、殺傷能力の高い銃器が出回っている。

オバマ大統領は、このような状況を踏まえ事あるごとに議会に対して銃規制の強化を訴えてきた。

しかしながら、議会での議論は進んでいない。これには、従来から銃規制に反対する全米ライフル協会(NRA)の影響力が指摘されている。

NRAは、銃器のロビー団体だが、銃規制に対する各議員の姿勢を基に、独自の議員格付けを付与しているほか、献金を通じて強い政治力を持っており、共和党の保守系議員を中心に無視できない存在となっている。

このため、共和党が過半数を占める議会では銃規制の強化に消極的な議員が多い。

オバマ大統領は議会審議が進まないことに業を煮やし、大統領の権限が及ぶ範囲で銃規制を強化することを決断した。大統領令では、銃器を購入する際の身元調査を強化することを柱として、銃器の安全技術の向上等が盛り込まれた。

身元調査は現在も実施されているものの、全米各地で開催される銃器の展示販売会やインターネット通販では身元調査がなされておらず、重犯罪者や精神疾患者に銃器が渡る可能性が懸念されている。

大統領令では、販売場所を問わず、全ての銃器販売業者にライセンスを取得させ、身元調査を徹底することが示された。

銃規制強化に関する世論調査をみると、殺傷能力が高い半自動小銃の販売禁止については、共和党員と民主党員で賛成する割合に大きな開きがあるものの、身元調査の強化は党派を超えて支持されている(図表)。

このため、大統領はあえてこれらの販売規制などは盛り込まず、合意が形成され易い身元調査などに絞って銃規制強化を提案したとみられる。

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しかしながら、大統領の提案はあまり国民の支持を得ているとは言い難い。

1月8日に大手メディアのCNNはオバマ大統領を招いた市民集会の模様を中継したが、質問者からは大統領に対する強い批判が続いた。CNNはリベラルなイメージが強く、大統領令に対する賛同が多いと予想していただけに、番組内容は意外であった。

批判のポイントは、主に2点に集約される。1点目は、身元調査の限界に関するものだ。

大統領令では個人間の売買まで適用するのは難しいとみられており、大量殺人事件で使用された銃器の大半は違法に入手したか、友人や知人を通じて入手されたことを踏まえると、犯罪の抑止に繋がらないという指摘である。

そして2点目は、自己防衛のための銃器保有が制限されるとの懸念だ。

米国では合衆国憲法(修正第二条)で市民が銃器を保有する権利が明示されており、銃器保有は国民の権利であるとの思いが強い。実際、銃器の世帯保有率は4割程度と高い。

さらに、世界的なテロの多発もあり、自身の安全を守るために銃器が必要であるとの意識が強くなっている。

ピューリサーチセンターが実施した調査(*2)によると、銃器の保有目的は99年時点では狩猟が49%でトップとなっていたが、13年の調査では狩猟が32%に低下する一方、自身を守るためとの理由が48%とトップになった。

また、銃器保有の権利と保有規制のどちらが重要かとの質問に対して、90年代後半は保有の権利との回答が3割程度に留まっていたのに対し、現在では5割程度と両者は拮抗している。

市民集会で大統領は、今回の規制強化は本来銃器を保有すべきでない人が銃器を保有することを制限するもので、一般市民の保有を制限するものではないことを強調したが、既に大量の銃器が流通している中で、自身を守るための銃器保有が制限されるのではとの国民の危機感が強いことが示された。

今年は大統領選挙を控えており、候補者の討論会では銃規制問題についても議論されている。もっとも、政策優先課題に関する世論調査(*3)では、75%以上の国民が経済対策やテロ対策としているのに対し、銃規制は僅か37%に留まっており、優先順位は低い。

NRAの政治圧力だけでなく、国民も大統領の銃規制案を必ずしも支持していない状況に鑑みれば、銃器による死亡者数を減少させるための実効的な銃規制強化が実現する可能性は低いとみられる。

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(2016年1月29日「研究員の眼」より転載)
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窪谷 浩

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