超高齢化社会の"相続問題"‐相続人以外の貢献にどう報いるか-相続法改正中間試案シリーズ(4)(完):研究員の眼

超高齢化社会において特に問題となるのは「被相続人の療養看護」であろう。

相続法改正中間試案からトピックスを取り出して紹介するこのシリーズも本稿を持って一旦、完結としたい。本稿で取り上げるテーマは「相続人以外の者の貢献を考慮するための方策」である。

このテーマに取り掛かる前提として、「寄与分」制度の説明をしたい。

寄与分制度とは相続人のうちで特別な寄与を行い、被相続人の財産の維持または増加させた者がいる場合に、その寄与した財産分を相続財産から切り離して、その寄与を行った相続人に帰属させる制度である(民法第904条の2)。

手続としては相続人間の協議で寄与分を定めるが、協議が整わないときは寄与分を求める相続人の請求により家庭裁判所が定めることとなる。

特別な寄与の類型として法は、労務の提供、財産上の給付、被相続人の療養看護を挙げている。たとえば労務の提供としては、農家を継ぐ子が、ほぼ無報酬で農業の手伝いを行っていたようなケースが良く挙げられる。

超高齢化社会において特に問題となるのは「被相続人の療養看護」であろう(*1)。たとえば配偶者をなくした高齢者に介護が必要となって、遠方に住む子ではなく、近所に住む甥や姪が常時面倒を見ていたようなケースである(*2)。

この場合に相続が生じた場合でも姪や甥には遺産は分配されない。子がいる以上は、相続人である子がすべてを相続する。寄与分の制度はあくまでも「相続人間」での財産分配の制度であって、相続人でない甥・姪には適用がない。

そこで今回の案である。

【甲案】相続人でない二親等以内の親族が労務提供、財産上の給付、療養看護により、被相続人の財産の維持又は増加について特別の寄与をしたときは、その者は相続人に対し、金銭の支払を請求することが出来るとする。

【乙案】被相続人に対して無償で療養看護その他の労務提供を行ったことにより、被相続人の財産の維持又は増加について特別の寄与をしたときは、その者は相続人に対し、金銭の支払を請求することが出来るものとする。

甲案は、いわば現在の寄与分制度を相続人ではない二親等以内の親族にも認めるものである(*3)。二親等といえば、被保険者の、孫、兄弟姉妹、祖父母が該当する。

これは療養看護にあたり、近しい親族間では正式な看護契約を結ぶのが事実上困難であるということを踏まえ提案されている(*4)。ただ、上述の例の甥・姪は三親等になるため、本提案によっては何も受け取ることは出来ない(*5)。

乙案は、療養看護等の労務提供のみについては、相続人以外の誰に関しても寄与分的取扱いを認めるものである。療養看護等の労務提供に限定しているのは、このようなケースでの不公平感が特に強いという指摘にそったものである(*6)。

一方で、このような限定がないと相続人以外の者からさまざまな請求がなされるおそれがあり、紛争が無用に長期化・複雑化し、あるいは濫用的に利用されるおそれが強まる(*7)。

議論の出発点、つまり療養看護等の尽力への配慮ということであれば乙案ということになろうが、皆さんはどのように思われるであろうか。

最後であるが、今回の中間試案では説明してきた提案の他にも、自筆証書遺言制度の見直しなどの遺言制度に関する提案や、遺留分制度に関する見直し提案が入っており、それぞれ重要な変更ではあるが、一般的な影響度合いという観点から省略をした。

(*1) たとえば内閣府の平成28年版高齢社会白書によれば、介護保険で要介護または要支援と認定された人は約570万人(平成25年度末)である。

(*2) そのほか、子の配偶者、たとえば被相続人の子の妻が療養看護に尽力したような場合も考えうる(民法(相続関係)等の改正に関する中間試案の補足説明(補足説明)p80)。子の配偶者は相続人ではない。

(*3) 相続人でないため、相続人に金銭の支払を求めることが出来るだけとなっている。乙案も同じ。

(*4) 補足説明p83参照。

(*5) したがって甥・姪が療養看護を行なうにあたって、後日貢献分の報酬を確保したいときは看護契約を締結すべきことになる。子の配偶者も同様である。

(*6) 補足説明p85参照。

(*7) 民法(相続関係)部会 資料10 p16参照。

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(2016年7月25日「研究員の眼」より転載)

株式会社ニッセイ基礎研究所

生活研究部 部長

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