「人生100年時代」の到来~長生きを「恩恵・特権」にしていくために:研究員の眼

先人達に比べれば、私たちは倍の人生を楽しめて、また多くのことを成し遂げられる期待を有している。

"人生100年"に関連する言葉を最近よく見聞きする。

昨年発刊されメディアからも注目された書籍「LIFE SHIFT(ライフシフト) ~100年時代の人生戦略(*1)」だったり、神奈川県の黒岩知事が進める「人生100歳時代の設計図策定プロジェクト」(*2)、また自民党内に設置された「人生100年時代の制度設計特命委員会」(小泉進次郎氏が事務局長)など、様々な場面で人生100年(歳)という文字を見る。

日本人の平均寿命が戦後から延び続けるなか(*3)、人生の長さを表す表現も「人生60年、70年、80年、90年」と移ろい変わってきたわけだが、ついに人生100年の時代まで来たかと改めて思うところがある。

確かに、現在でも女性の4人に1人は95歳まで生きられるという推計結果だったり(*4)、100歳以上の人口が2050年には約70万人になるという推計結果(*5)、また上記書籍「LIFE SHIFT」の中で紹介されている「2007年生まれの子どもの"半数"が到達する年齢(寿命)が、日本の場合は107歳」という推計結果などを踏まえると、もはや人生90年という表現では足りず、「人生100年」に更新することが適当なのであろう。

蛇足になるが、筆者も共同執筆している「東大がつくった高齢社会の教科書(改訂版)」(*6)においても、4年ぶりの改訂作業の中でこうしたことを踏まえながら「人生90年」と表現していた部分をすべて改訂後『人生100年』に洗い替えたところである。

表現の問題はさておき、考えるべき本質は「人生100年」という人生の長さ(可能性)及びこうした長寿化の実態を、改めて個人また社会(行政や企業等)がどのように受け止め、何を考えていくかということであろう。

戦後まもない頃の「人生60年時代」と「人生100年時代」を比べれば、人生の長さはほぼ倍、20歳を起点に大人としての人生の長さ(大人生活)で見れば、実に「倍」の長さがある。

先人達に比べれば、私たちは倍の人生を楽しめて、また多くのことを成し遂げられる期待を有している。いまを生きる私たちにもたらされた「恩恵・特権」と言えることである。

しかしながら、延長した高齢期の生活に不安を抱き、長生きが「厄介」なものとして受け止めてしまう人も中にはいるであろう。人生100年の長寿を「厄介」ではなく「恩恵・特権」として受け止められるようにしていくことが必要である。

そのために個人としては、特に延長した高齢期の生活について、100歳までのお金をどうするか、家をどうするか、親や配偶者の介護にどう備えるか、そして、日々何をするか(できるか)、考えるべきことは多い。

現実的な生活基盤をどのように構築していくか切実な問題である。ただ、そうしたことを考えるだけでは不安が高まり、何となく下を向いてしまうであろう。

不安を抱えながら日々漠然と過ごす生活ではなく、目標に向ってポジティブな人生をおくれるようにするためには、例えば、65歳からの『Wish List(願いごと・やりたいことリスト)』を作成してみてはどうだろうか。

すでに行っている人も少なくないと思われるが、「親を旅行に連れて行く」「初恋の人に会いに行く」「夫婦で海外のロングスティを楽しむ」「大学に入り直す」「英語をマスターする」「音楽(楽器演奏)を始める」など、50でも100でも書き上げて、それを満たしながら100歳まで到達できたら、とても素晴らしい人生にならないだろうか。

映画「最高の人生の見つけ方」(2007年アメリカ)でも、余命僅かと宣告された高齢男性2人(ジャック・ニコルソン、モーガン・フリーマン)が「やりたいことリスト」を作成し、それを実行しながら残された人生を前向きに過ごしていった姿が描き出されている。

人生はたった1回であり、その長さが延長したことを最大限「恩恵」として享受するためにも、些細なことではあるがWish Listの作成をお薦めしたい。

社会(行政、企業等)としても、そのWishに注目してみてはどうだろうか。個人が高齢期に何をしたいのか、何を叶えたいのかを聞くことは、地域の高齢化対策だったり、企業の高齢者向け商品サービス開発の原点になることである。その中には新たなビジネス・アイディアが埋もれている可能性もある。

この点、弊社を含む日本生命グループはこの3月に2020年までの中期経営計画を公表したが、「"人生100年時代"をリードする日本生命グループに成る」ことを大きなテーマとして掲げている。人生100年を前向きに生きていくための支援を行っていく方向にある。

このように個人が抱くWishを社会全体がサポートする流れを創っていければ、長生きを「恩恵・特権」と感じられる未来になると考える。そうした未来の実現を期待している。

(*1) リンダ ・グラットン/アンドリュー・スコット著、池村千秋(訳)、東洋経済新報社、2016年11月発刊

(*2) 2016年1月の年頭記者会見で発表。「人生100歳時代」を生涯現役で過ごすあり方を探っていくプロジェクトチーム(PT)を庁内に発足させ、現在その設計図の策定を進めている。

(*3) 1947年当時の日本人の平均寿命は、男性50.06年、女性53.96年であったものが、直近判明の2015年時点では、男性80.79年、女性87.05年まで実に約30年延長した(厚生労働省「完全生命表」「簡易生命表」より)

(*4) 厚生労働省「平成27年簡易生命表」における「特定年齢までの生存者割合」より

(*5) 国立社会保障・人口問題研究所「日本の将来推計人口(平成24年1月推計)」。2015年時点の100歳以上人口は約6万人

(*6) 東京大学高齢社会総合研究機構編/ニッセイ基礎研究所編集協力「東大がつくった高齢社会の教科書~長寿時代の人生設計と社会創造」(東京大学出版会、2017年3月発刊)。一般社団法人 高齢社会検定協会が実施する「高齢社会検定試験」の公式テキスト

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(2017年4月20日「研究員の眼」より転載)

株式会社ニッセイ基礎研究所

生活研究部 主任研究員

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