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戦力の逐次投入とムービング・ゴールポスト:研究員の眼

2017年08月22日 16時27分 JST | 更新 2017年08月22日 16時27分 JST

戦力の逐次投入を愚策と評価するのは、古典から現代までの戦史を通じた鉄則の一つであると考えられる。巷間良く挙げられる代表例としては、太平洋戦争におけるガダルカナル島を巡る攻防がある。

一般的な理解では、日本軍が兵站を疎かにしたことなどから、やむを得ず戦力の逐次投入になったとされている。しかし、戦力の逐次投入は、現実的には、費用対効果を見極めつつ、限られた戦力の浪費を避けるために行われるファインチューニングの手法でもある。

すべての制約を無視して当初から圧倒的な能力を投入すべきだったというのは、後付けの批判である可能性が高い。後から批判される当事者も、ベストを尽くしていなかったとは認めないのではないか。与えられた状況において、最大限可能な範囲で取組んだ結果なのであろう。

日本銀行による金融緩和の取組みに関しても、白川前総裁時代の金融緩和の取組みは、戦力の逐次投入であるとして後から批難された。数度にわたって徐々に緩和が強化されたのであるから、戦力の逐次投入であったと見ることは可能である。

2013年4月4日の"量的・質的金融緩和"導入に際して、黒田総裁は記者会見において「以上の施策は、これまでとは次元の違う金融緩和です。まず、第1に、戦力の逐次投入をせずに、現時点で必要な政策を全て講じたということです。」と述べている。

しかし、目標の実現に向けて最大限の政策を全て講じたとしても、予定した通り目的が達成できなければ、その後は、追加的に政策を投入するのはやむを得ないことなのだろうか。

つまり、当初に投入した対策が期待通りの効果を実現出来ない場合、目標達成を諦めないのであれば、じっと何もせずに効果の発現を待ち続けるか、追加戦力の投入を実施せざるを得なくなるかの選択となる。

実際の企業経営等の局面において、何もせずに効果の発現を待ち続けることは、よほどの自信がない限り難しい。そのため、戦力の追加投入を数回にわたって行うことになる。

現在の日銀執行部も、2016年1月29日の"マイナス金利付き量的・質的金融緩和"を経て、金融緩和の包括的な検証から同年9月21日には"長短金利操作付き量的・質的金融緩和"を導入している。結局、批判した前任者と同じ轍を踏んでいるのではないか。

眼を海外に転じよう。日韓関係の慰安婦問題に関する交渉経緯を見ると、日本側からは1992年の宮沢首相による謝罪や翌年の河野官房長官による談話以降、数度にわたってお詫びや反省の意を表明し、近年では、2015年末の日韓外相会談において"不可逆的な最終合意"が成立している。しかし、その後就任した文大統領は選挙戦の過程から慰安婦問題の再交渉を主張している。

そもそも国際法の観点からは、1965年の日韓基本条約締結時に両国間における請求権が解決されたとされており、韓国の主張に表れるムービング・ゴールポストに対する日本側の反発は強い。

現在の金融政策の状況を見ると、どうだろうか。2013年4月の前述の黒田総裁会見において、"物価安定の目標"の達成時期は、明確に"2年程度"として公表された。その後、原油価格の下落等様々な要因があるものの、"物価安定の目標"の達成時期の見通しは何度も先送りにされている。

当初は目標が達成出来ない場合に責任を取るといった日銀執行部の表明があったものの、何時の間にか有耶無耶になっている。民間企業の経営計画の遂行に際して合理的な理由が存在する場合に、目標達成時期を先送りすることはあり得ないことではない。

しかし、まるで逃げ水のように、ゴールポストを何度も先に送られるのは、いかがなものか。一般の企業経営者なら、厳しく株主から追及されるだろうし、経営責任を問われるだろう。

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結局のところ、戦力の逐次投入もムービング・ゴールポストも、どっちもどっちであるというのが市場関係者の感覚だろう。

これは政策の立案・執行と目標の実現がいかに難しいかを示している一つの例であるが、随分と長い期間にわたる金融緩和のために預金にほとんど利息が付かないなど国民生活にも大きな影響が生じている。そろそろ、逐次投入ではない大胆な政策の見直しを検討してみる必要があるのではなかろうか。

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(2017年8月9日「研究員の眼」より転載)

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德島 勝幸