完全数とその魅力について-「博士の愛した数式」を観て、改めて数字の持つ奥深さに魅せられました:研究員の眼

小泉堯史監督の「博士の愛した数式」。この映画の中では、多くの数学用語が出てくる。その中から「完全数」について、紹介したい 。

はじめに

「博士の愛した数式」(小泉堯史監督)は、大学時代に数学を専攻して、曲がりなりにも、アクチュアリーという数学に関係する専門資格を有する私にとって、非常に興味深い映画であった。

小川洋子氏の小説を映画化したものであるが、交通事故による脳の損傷で記憶が80分しか持続しなくなってしまった元数学者である「博士」(寺尾聡)と、彼の新しい家政婦である「私」(深津絵里)とその息子「ルート」の心のふれあいを描いた作品で、映画鑑賞後に本当に心温まる気持ちにさせられた。

さて、この映画の中では、多くの数学用語が出てくる。今回は、その中から「完全数」について、紹介したい 。

完全数とは

「完全数(Perfect number)」と言われると、一体どんなに凄い数字なんだろうと、一瞬身構えてしまうかもしれないが、その定義は「その数字自身を除く約数の和がその数字自身に等しい自然数」ということになる。

例えば、6の約数は、1、2、3、6の4つで、6以外の約数の和が、1+2+3=6となるので、6は完全数である。28も完全数で、1+2+4+7+14=28 となっている。

「博士の愛した数式」では、これが阪神タイガースの江夏投手の背番号であるため、「博士」は江夏投手のファンだということで紹介されていた。

完全数は限られている

実は、完全数は、現時点で確認されているものは49個しかない(2016年末時点)。

小さい順に、

6、28、496、8128、33550336、8589869056、137438691328、2305843008139952128、

となっている。最近までは48個と言われていたが、2016年1月に49個目が発見されている。

完全数を巡る未解決問題

完全数については、「完全数が無数に存在するのか、有限なのか」、「奇数の完全数は存在するのか」、「1の位が6か8以外の完全数は存在するのか」といった問題は未解決のままである。

これらの問題自体はシンプルで、数学者でなくても理解できるが、その解答は極めて難しいということになる。こうしたことは往々にしてみられることである。

偶数の完全数とメルセンヌ素数

一方で、完全数については、「偶数の完全数は、全て2×(2-1)の形である」ことが知られている。

より、詳しくは、2-1が素数であるような正の整数nに対して、2×(2-1)は完全数となるが、逆に、偶数の完全数は2-1が素数であるような正の整数nを用いて、2×(2-1)という形で表される。

2-1という形の数を「メルセンヌ数」といい、素数のメルセンヌ数を「メルセンヌ素数」とよんでいる。従って、上記は、「メルセンヌ素数と偶数の完全数が1対1に対応している」ことを示している。この定理の後半は、オイラー(Euler)によって証明されている。

実際に、上記で示した完全数は、以下のように表現される。

n=2 6=2×(2-1) n=3 28=2×(2-1)

n=5 496=2× (2-1) n=7 8128=2×(2-1)

n=13 33550336=2×(2-1)

完全数の興味深い特徴

完全数はいくつかの興味深い特徴を有している。例を挙げると以下の通りである。

①6以外の完全数は、奇数の立法和で表される。

具体的には、以下の通りである。

28=1+3 496=1+3+5+7

8128=1+3+5+7+9+11+13+15

33550336=1+3+5+7+9+11+13+15+ ・・・・・ +123+125+127

②6以外の完全数は4の倍数となっている。

③完全数は、連続した自然数の和で示される(これは、映画の中でも紹介されていた)。

具体的には、以下の通りである。

6=1+2+3 28=1+2+3+4+5+6+7

496=1+2+3+ ・・・・・ +31 8128=1+2+3+ ・・・・・ +127

33550336=1+2+3+ ・・・・・ +8191

完全数の歴史

紀元前3世紀にユークリッド(Euclid)が、既に先に述べた「2-1が素数であるような正の整数nに対して、2×(2-1)は完全数となる」ことを証明し、最初の4つの完全数を発見したといわれている。従って、極めて古い歴史を有している。

なお、現在49個の完全数(メルセンヌ素数)があると述べたが、通常我々は、これは小さい順に発見されており、今後発見される新たな完全数は現存する最大のもの以上になるだろう、という感覚がある。

ところが、現実は47番目の完全数が見つかった後に、それよりも小さい45番目の完全数が発見されている。

2016年9月に、現在の45番目までのメルセンヌ素数より小さいものは存在しないことが確認されているが、46番目から、現時点で最大のメルセンヌ素数までの間に、新たなメルセンヌ素数がないことは未だ確認されておらず、新たなメルセンヌ素数が発見されるかもしれない、とのことである。

多くの方々は、数学のような世界では、もっとシステム的に秩序だって事実が解明されていくものだと認識していると思われるが、必ずしもそうとは限らないというところが、何とも不思議な話ではないだろうか。

完全数は、どんな意味を有しているのか

完全数の6は「神が世界を6日間で創造した」ことに関係していると言われている。

6といえば、先勝・友引・先負・仏滅・大安・赤口の6種の曜からなる「六曜」があるが、これは1ヶ月(≒30日)を5等分して6日を一定の周期とし(30÷5 = 6)、それぞれの日を星ごとに区別するための単位として使われたとのことであるが、これに完全数が関係しているのかは定かではない。

さらに、6という数字は各種の単位の基礎数字となっている。

例えば、12(=6×2)は、1年の月数であり、干支や星座の数でもある。24(=6×4)は1日の時間数であり、30(=6×5)は1ヶ月の日数である。60(=6×10)は1時間の分数であり、360(=6×60)は円の角度である、といった具合である。

28は「月の公転周期が28日である」ことに関係していると考えられている。

28といえば、成人の頭蓋骨は舌骨を除いて28個の骨からなっており、人間の歯の本数は、親知らずを含めなければ28本ある。

496は、古代ギリシャ人が「天地創造の神の数字」として崇めていた神秘的な数字と言われている。

NHKのドキュメンタリー番組「NHKスペシャル『神の数式』」(2013年9月放送)では、物理学者のジョン・シュワルツとマイケル・グリーンが「超弦理論」の数式分析の中で、496という数字が何度も現われて、これによって、相対性理論と素粒子が結びついた、との逸話が紹介されていた。

さらに、預言者ヨハネの福音書の第1章、1~18節は、496の完璧な音節からできていると言われている。

このように、完全数は、ミステリアスな要素を含み、いくつかの重要な場面で使用されている。

まとめ

数字はいろいろと面白い性格を有している。暇な時には、数字遊びをしてみるのも、頭の体操にはよいかもしれない。

今回は「博士の愛した数式」という映画から、思わず興味関心を拡大させてきたが、文化や芸術は、時に、あまり知られていない事実に人々を気付かせ、それをきっかけに新たな感覚を呼び起こさせてくれるものだと感じた次第である。

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(2017年2月13日「研究員の眼」より転載)

株式会社ニッセイ基礎研究所

取締役 保険研究部 研究理事

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