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レセプト情報・特定健診等情報データベース(NDB)の活用状況

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NDB(National Database)とは、医療機関を受診した際に、医療機関から保険者に対して発行されるレセプト(診療報酬明細書(*1))と、40歳以上を対象に行われている特定健診・保健指導の結果からなるデータベースである。

NDBに集積されている個人の健診結果や治療歴はセンシティブな情報であるが、健康増進や医療費の適正化のために有益な情報を含んでいることから、プライバシーを守った上で有効に活用する方法が検討されている。

本稿では、NDBの活用に向けた最近の動向として、2016年に公表されたNDBオープンデータと、2015年度から運用が開始されたNDBオンサイトリサーチセンターについて紹介する。

1――医療介護分野におけるICT化推進によってNDBの活用が進みつつある

NDBを分析すると、たとえば保険診療全体での医薬品の使用状況や診療内容等がわかる。時系列で分析をすると、診療行為等の動向や季節ごとの受診動向がわかる。

また、特定健診結果と疾病発生の関係がわかれば、健診をつかってその疾病の発生を事前に予測できる可能性がある。

現在、NDBは、全国や都道府県における医療費適正化計画の作成と実施のための分析に使われている。

それ以外の目的でも利用できるが、患者個人の病歴などセンシティブな情報を含むことから、国や行政機関、医療保険者の中央団体における分析や、有識者による審査を経た研究でしか使うことができない。

分析結果の公開には、厳格なルールが決められており、最小限のデータしか使用しないほか、個人が特定されやすい小さな集団における分析は行わないことになっている。

一方、国の成長戦略では、医療・介護分野でのICT化が進められている。具体的には、医療等IDの導入や、レセプト等医療・介護関連データベースの活用が進められているほか、活動量計等のウエアラブル端末や家庭血圧計のような家庭用計測器のデータを使った個別サービスの活用促進が検討されている。

2015年度からは「データヘルス計画」として、すべての国保、協会けんぽ、各健康保険組合といった保険者に対して、レセプトと健康診断結果を突合した分析を行い、疾病リスクの高い組合員に対して適正に健康指導を行うことを促している。

レセプトや健診データを分析することが一般的となってきたと言えるだろう。

こういった背景のもとで、NDBは、国民の医療動向を評価する上で有用な医療・介護関連データベースの1つとして、徐々に活用されはじめている。

たとえば、毎年厚生労働省で実施している「社会医療診療行為別調査(統計)(*2)」は、これまで全国の医療機関のサンプル調査の結果が使われていたが、2012年度以降、段階的にNDBを取り入れ、2016年度調査ではすべてがNDBの集計結果に置き換わっている。

また、患者個人のセンシティブな情報に立ち入らずにNDBを活用する方法についても検討が進んでいる。

2――NDBの活用状況の現状

1|NDBオープンデータ(NDB白書)の公表

NDBの民間企業での利用に関しては、2011年に医療費適正化計画策定以外でのNDBデータの利用が認められてから議論が続けられている。公益に資する研究は促進するが、営利目的で使用することについての反対意見が多いようだ。

一方で、すべての研究において詳細な個票データを必要とするわけではないほか、利用希望者の中には「全体を見たうえでどういう研究ができるか考えたい」という要望も出ていることから、まずは、汎用性が高く、様々なニーズに一定程度応えうる基礎的な集計表を一般に公表することが決まり、2016年10月に、第1回目のオープンデータが公表された(*3)。

公表されているのは、医科・歯科の診療報酬点数表項目、特定健診集計結果、薬剤データである。医科・歯科・薬剤データは2014年4月~2015年3月診療分、特定健診データは2013年度実施分である。いずれのデータも、性年齢別の算定回数と都道府県別の算定回数が公表されている。

製薬業界にとっては、処方された医薬品がわかるため、貴重な情報となったようだ。また、日本では、CTやMRI等の高額な画像診断装置の導入数が諸外国と比べてひと際多く、検査による被爆量や医療費への懸念が話題となることがある。

しかし、今回のデータによれば、撮影回数は諸外国と大きくは変わらないことがわかったほか、諸外国とCTとMRIの使い分けの違いが比較できるようになった(*4)。

2|オンサイトリサーチセンター設置

NDBデータの活用に向けて設置されたのが「NDBオンサイトリサーチセンター」である。

データの集計・分析については申し出た利用目的の範囲内で一定程度の自由が認められる。利用にあたっては、予め申出を行い、有識者会議分科会の審査を受ける。有識者会議分科会の審査で承認されれば、集計表を持ち出したり、公表することもできる。

セキュリティの観点から2015年末から東大と京大の2か所に設置され、試用運営を行っている。ただし、利用できるのは、現在のところ大学等の機関と国の助成をうけた研究を行う場合のみである。

3――疾病情報の一元管理と疾病分析に向けた新たなプラットフォームの構築

現在、公表されているオープンデータは、性年齢別や都道府県別での集計結果のみであるが、第2回オープンデータの公表も2017年度に予定されており、活用状況にあわせてより詳細な集計をオープンにする可能性もある。

NDBは上述のとおり、レセプトと特定健診・保健指導のデータがおよそ8年間分蓄積されており、非常に大きなデータベースである。より多くの研究に使われることを期待したい。

しかし、NDBは、疾病分析には不向きな点も多い。たとえば、レセプトは、本来、医療費の請求のために作成された明細書であるため、診療行為や使用した医薬品はわかるが、診療時の患者の病状や診療後の「死亡」「治癒」等といった転帰情報が含まれていない。

就職や退職、75歳になる等によって加入する健康保険が変われば、データも途絶えるため、長期にわたる分析ができない。

また、当初は、特定健診・保健指導の結果とレセプトによる受診記録を突合して分析することが期待されていたが、実際に健診結果とレセプトが突合できたのは2割程度であり、限られた範囲でしか突合分析はできない。

生まれてから死ぬまでの疾病状況・治療歴の集積としては、新しいプラットフォームとして「PeOPLe(Person centered Open PLatform for well-beingの略)」の構築が発表された。

この新しいプラットフォームは、マイナンバーシステムを使った医療等IDが使われる予定で、2020年度から運用見込みである。いずれNDBも統合される見通しである。

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(*1) 平成27年4月の時点で、医科・歯科・薬局あわせて全レセプトの98%以上が電子化され、73%がオンライン化されている。NDBには、レセプトが2016年4月時点でおよそ110億件(2009年度から集積)、特定健診・保健指導の結果が2014年度実施分まででおよそ1.7億件(2008年度から集積)のデータが含まれる。

(*2) 医療保険制度における医療の給付の受給者に係る診療行為の内容、傷病の状況、調剤行為の内容及び薬剤の使用状況等を集計したもの。NDBに変わったことで、名称も「社会医療診療行為別調査」から「社会医療診療行為別統計」に変更された。

(*3) 厚生労働省サイトに掲載されている(http://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000139390.html

(*4) 満武巨裕らによる研究によれば、OECD諸国で日本のCT、MRI導入数はダントツのトップであるが、撮影回数は、CT、MRIともに第2位だった。さらに、これを国民1人あたりに換算すると、撮影回数の多さの順位は下がる(社会保障旬報(2661)、2016年12月21日「(4)NDBオープンデータを研究利用に活用する : 医療技術(CT、MRI、PET)の利用に関する国際比較」より)

(2017年3月8日「研究員の眼」より転載)
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