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ポーランド紀行(その3)-あらたな「国民国家」の枠組み:研究員の眼

不安定な今、求められている社会の姿とは

2017年11月01日 15時42分 JST | 更新 2017年11月01日 15時42分 JST

ポーランドの古都・クラクフの西60キロに「アウシュヴィッツ絶滅収容所」はある。ヒトラー率いるナチス・ドイツは、何故あのような残虐なユダヤ人の大虐殺「ホロコースト」を行うことができたのか。

NHK教育テレビの『100分de名著』という番組が、9月にハンナ・アーレント著『全体主義の起原』(みすず書房、全3巻)を採り上げた。アーレントは第1巻で「反ユダヤ主義」、第2巻で「帝国主義」、第3巻で「全体主義」をテーマにし、「ホロコースト」につながった全体主義の起原を考察している。

19世紀ヨーロッパに広がった国民国家(Nation State)は「国民」の同質性を強く求めたが、もともと多様な言語、文化、宗教を持つ人々が混住するヨーロッパでは、アイデンティティを共有する「国民」の居住地域と「国家」の領域を一致させることは困難だった。

当時、特定の国家を持たないユダヤ人はヨーロッパ各地に点在し、異質な文化を有する排斥されるべき異分子と捉えられた。また、金融界をはじめとするヨーロッパ全体に根を張った裕福なユダヤ人は、ねたみや憎悪の対象にもなった。

やがてヨーロッパ諸国はアフリカやアジアへ進出、植民地拡大に乗り出し、優生人種思想や民族的ナショナリズムに傾倒した。侵略戦争は祖国を追われた多くの難民を生み、国民国家は行き詰まった。

ドイツは東への領土拡大とともに全体主義へ突き進み、国家の同質性を高めるための求心力を求めてスケープゴートを必要とした。反ユダヤ主義が「アウシュヴィッツ絶滅収容所」に至り、排斥の標的とされたユダヤ人は強制移住から殲滅への対象と化し、民族浄化が進んでゆくのである。

20世紀末に東西冷戦が終結したものの、ユーゴスラビアなどでは民族間の内戦が激しさを増した。今日、EUには大量の移民が流れ込み、国民国家の存立を脅かしている。その結果、イギリスはEU離脱を決め、ドイツやフランスなどでは移民排斥を唱える極右政党が勢力を伸ばし、ポピュリズムが拡大している。

スペインのカタルーニャ州では分離・独立を求める住民投票が行われ、イラクでも現在国家を持たない最大の民族・クルド人が独立宣言するなど中東やヨーロッパ全体が不安定化している。

上記番組を解説した仲正昌樹・金沢大学教授は、現代社会も全体主義支配の可能性はゼロではないと指摘する。経済的格差が拡大し社会政策が行き詰まった時、大衆は単純明快な政策に飛びつき、自分の頭で考えたり判断したりしなくなるからだという。

オバマ前アメリカ大統領は2009年の就任演説で"Patchwork Heritage"という多様性ある社会の強さを訴えた。今、あらたな「国民国家」の枠組みが必要とするものは、「寛容」と「共生」に基づく"多様性"というアイデンティティではないだろうか。

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(2017年10月31日「研究員の眼」より転載)