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「7分間の奇跡」演ずる「新幹線劇場」への感謝と期待を込めて:研究員の眼

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今春から新潟での教職を兼務することになり、東京-新潟間を上越新幹線で頻繁に往復することになった。

当初は、筆者自身、東京駅のホームの位置の確認や乗降などに注意を集中していたのでそれほど意識することはなかったが、新幹線の利用に慣れるに従って、揃いのユニフォームに身を包んで、礼儀正しく、きびきびと車内の清掃作業をこなす集団に注目するようになった。

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筆者の不勉強でお恥ずかしい話だが、あの人たちは何者なのかとの関心を持って調べてみると、米CNNなどを含む内外の多くの報道・著作で知られ、米ハーバード・ビジネス・スクール(HBS)のケース教材にもなり、インターネット上のツイッターでも大きな反響がある、テッセイ(株式会社JR東日本テクノハートTESSEI、旧称は鉄道整備株式会社)のメンバーであることを知った。

以来、矢部輝夫氏(テッセイ元専務取締役)による「奇跡の職場」(あさ出版)や早稲田大学の遠藤功教授の「新幹線お掃除の天使たち」(同)、日経ビジネス(平成11年3月7日号)、HBSのケース「Trouble at Tessei」などを読むと同時に、毎週、東京駅でテッセイのメンバーの活動を興味深く観察するようになった。

ここで、テッセイの概要に触れておきたい。

同社は、JR東日本グループの企業で、主に東北新幹線・上越新幹線の清掃業務や構内業務などを担当している(従業員数900名弱)。新幹線が駅に到着し、折り返し発車するまでの停車時間は平均12分であり、その短時間の中で乗客が乗降する5分間を除いて、1チームの基本構成員22名が、わずか7分間で各回の車両清掃を担当している。

同社による一日の車両清掃の総数(平均)は、列車約170本、座席数約17.3万席に及ぶ(同社ホームページ)。さらに新幹線が入線する際や清掃を終えた際の一礼等、礼儀正しく非常に効率的な動きは印象的であり、「7分間の奇跡」や「新幹線劇場」として賞賛されている。

テッセイに関する詳細や分析は、上記の著作や報道等に譲り、以下では、経営学の研究者であり新幹線の利用者であるという筆者個人の視点から感じていることを述べたい。

1.新幹線というエコシステムの価値創造を担う重要な構成メンバー

新幹線は、わが国が世界に誇る鉄道であり、その素晴らしさや高評価は、車両のみならず保守やオペレーションなどを含むシステム全体の強みであり、関係する各社(者)が、スピード・安全性・快適性を高水準で追求する「エコシステム」(関連する企業群が有機的に結びつき共存共栄する仕組み)にあると考える。

その中でテッセイは迅速で丁寧な清掃作業、礼儀正しい身のこなしなどを通じ、定時発着や乗客の快適・満足を担い、新幹線というシステムの価値創造に貢献する重要なメンバーである。

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2.ダイバーシティ化時代、環境重視の時代を先導する職場

わが国では、様々な場でダイバーシティの推進の必要が言われているが、テッセイは、女性、高齢者が生き生きと働き、さらに外国人も加わるなどまさに多様な個性が活躍する職場といえる。

また環境問題への対応を経営理念の重要点に掲げ取り組んでいる。これらの点は、国や産業の別を超えて重要なポイントであり、内外のマスコミやHBSが積極的に取り上げている大きな理由として理解できる。

さらに、「おもてなし」というサービス産業の代表事例として挙げられることが多い、シンガポール航空、リッツ・カールトン(ホテル)、ディズニーランドなどは著名企業であり特別な存在との感もあるが、テッセイは、いわば「普通の企業」の「普通の人々」が高い志や誇りをもって素晴らしいサービスを提供しているという点で、内外の多くの企業や組織にとってより身近な参考事例になると考えられる。

3.メンバーにプロとしての意識・意欲を引き出し高める仕掛け作り

一般には、清掃作業を中心とする企業で、特に現場のメンバーにやる気をもって仕事に取組んでもらうことは容易なことではないと思われ、事実、HBSのケースの冒頭に提示されるように、テッセイもかつては多くの問題・課題を抱えていた。

その状況の大変革にあたり、作業環境の整備、ユニフォームの改善、正社員への登用制度の充実などに加え、メンバーによる課題認識や論議を深め、提案・提言・チャレンジを促し、それらに出来る限り応えようと努めるなどの様々な取り組みが行われている。

それは、マズローの欲求階層説(下図)により、生活基盤の安定化から始まり集団(社会)への帰属やその中での尊敬・評価、自己実現という人のモチベーションの高まりを促す仕組みとなっている。

また、現場を支えるメンバーやそのチームの活性化と成果を実現する上での、テッセイの経営陣や職場のリーダーの取り組み、親会社であるJR東日本の理解と支援も重要なファクターであると思われる。

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4.乗客もサポーター・当事者として参画する新幹線劇場

サービスの大きな特性として、顧客との共同作業であるというポイントが挙げられる。この点に関して、例えば、コンサートや演劇で、聴衆・観衆の声援・応援や態度が、ステージにおけるパフォーマンスに影響を与えるとされるが、テッセイの新幹線劇場にも同様のことが言える。

つまり、乗客が、座席やトイレをきれいに使い、ごみ処理をきちんとすれば、テッセイのメンバーの作業はスムーズに行えるが、そうでなければ「7分間の奇跡」も難しいものになってしまうだろう。

乗客はテッセイのサポーターのみならず、サービスの現場における「真実の瞬間」の参画者・当事者でもあるのである。その意味で、テッセイのメンバーの礼儀正しく、きびきびした活動や、マスコミなどによる報道が、観衆たる乗客の理解や積極的なサポートを増すことになる。

事実、筆者自身もテッセイを知るにつれ、ごみの捨て方や座席の使い方などにより留意するよう行動が変化していると感じる。

この新幹線劇場をさらに素敵なステージにするために、テッセイのメンバーの活動への感謝・評価・提案などを乗客から集める仕組みをホームページやSNS等で設けられてはいかがであろうか。

最後のひと言は、最近、ファンとなり、テッセイのさらなる発展を願う、観衆(乗客)の一人の思いつきである。

(本稿中の写真はJR東日本テクノハートTESSEI社の提供による。)

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(2016年5月16日「研究員の眼」より転載)
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保険研究部 兼 経済研究部 主席研究員 アジア部長
平賀 富一