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「想定内」は本当か

2014年07月01日 00時09分 JST | 更新 2014年08月29日 18時12分 JST

4月に消費税率が引き上げられてから、新聞、雑誌等で「想定内」という言葉を目にする機会が格段に増えている。

たとえば、「今のところ企業からは、増税後の販売の落ちこみは想定内に収まっているとの声が多い。」(日本経済新聞2014/5/1)、「販売で見ても自動車は、4月の実績が前年同月比で5.5%減と8ヵ月ぶりに減少に転じた。それでも各メーカーは「想定内だ」と口をそろえる。」(朝日新聞2014/5/31)といった具合だ。

筆者はこの言葉を目にするたびに違和感を覚える。理由はいくつかあるが、一番ひっかかるのは想定内の前提となっているはずの想定がはっきりしないことだ。

もちろん、企業の担当者はあらかじめ消費増税後の販売計画を立てており、それに対する実績を見た上で「想定内」と答えているに違いない。しかし、外部からは個別企業の想定を知ることはできないので、本当に想定内なのか判断できない。

実績が想定内かどうかを判断することができる数少ない例は、エコノミストの月次指標の予測値とそれに対する実績値だろう。

ここで、4月、5月の小売販売額(商業販売統計)と実質消費支出(家計調査)について、コンセンサス(予測の中央値)と実績値を比較すると、4回中3回は実績値が予測値から下振れしたことが分かる(図表1)。

少なくともエコノミストにとっては増税後の個人消費の落ち込みは想定内とは言えないのではないか。

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また、「駆け込み需要の大きさに比べて反動減が小さい」という表現も時々見られるが、これは原理的におかしい。

駆け込み需要はあくまでも需要の前倒しなので、駆け込み需要と反動は同じ大きさとなるはずだからだ。反動減が想定よりも小さく見えるとすれば、それは駆け込み需要を大きく想定しすぎていたからにほかならない。

どのような想定を置いていたかは別として、多くの場合、消費増税後の個人消費が駆け込み需要の反動減以上に落ち込んでいないことをもって「想定内」と表現しているようだ。しかし、これは本当だろうか。

消費増税後の消費の落ち込みが限定的である根拠として、3月の増加率に比べ、4,5月の減少率が小さいことが挙げられることが多い。たとえば、百貨店売上高は3月に前年比25.4%と急増した後、4月が同▲12.0%、5月が同▲4.2%となっており、4,5月の減少率を足しても3月の増加率よりも小さい。

しかし、これはあくまでも金額ベースの話だ。4月から消費税率が3%引き上げられ、これに伴い物価上昇率は大きく高まっている。消費者が増税前と同じ量だけ購入すればそれだけで売上は増税前よりも3%増加するのだ(消費税の非課税品目は除く)。増税前後の個人消費の基調を同じ基準で判断するためには、金額を物価上昇率で割り引いた実質ベースの動きを見る必要がある。

金額ベースで公表されている売上高や販売額を消費者物価(持家の帰属家賃を除く総合)で割り引いた実質ベースの伸び率を試算すると、個人消費関連指標の多くが3月の増加率よりも4月と5月を合計した減少率が上回っていることが分かる(図表2)。

つまり、実質ベースでみれば消費増税後の個人消費は駆け込み需要の反動以上に落ち込んでいる可能性があるのだ。

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ただ、このことを過度に悲観する必要もないだろう。消費増税後の個人消費は駆け込み需要の反動に加えて、物価上昇に伴う実質購買力低下の影響も受けているので、反動以上に落ち込んだとしても不思議ではない。

現段階では、反動減と実質購買力低下の影響が重なっているため、基調が読みにくくなっていることは確かだが、「想定内」を繰り返すだけではいつまでたっても個人消費の実態は分からない。そろそろ「想定内」を離れて一歩踏み込んだ判断が求められる時期が来ているのではないだろうか。

株式会社ニッセイ基礎研究所

経済研究部 経済調査室長

斎藤 太郎

(2014年6月27日「研究員の眼」より転載)

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