長寿時代へのパラダイムシフト

政府の成長戦略の一つとして「女性の活躍」が取り上げられることが多いが、「高齢者の活躍」も忘れてはならない。
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生涯現役社会を目指して

政府の成長戦略の一つとして「女性の活躍」が取り上げられることが多いが、「高齢者の活躍」も忘れてはならない。

人口減少が本格化し、労働力人口が減少する一方で、団塊世代をはじめとした元気な高齢者の増加が見込まれるだけに、その人たちの活躍できる社会環境整備が急務だ。特に雇用の延長と年金受給との関係については、長寿時代への新たなパラダイムシフトが必要だろう。

日本の高齢者の労働力率は、諸外国に比べると高く、60~64歳で60.5%、65~69歳で37.7%だ(*1)。また、高齢者の就業意向も強く、厚生労働省「第6回中高年者縦断調査」(平成22年)によると、団塊世代を含む60~64歳では、仕事をしている人の半数以上が「65歳以降も仕事をしたい」と回答している。また、内閣府「高齢者の地域社会への参加に関する意識調査」(平成20年)では、『いつまで働きたいか』という設問に対して、「働けるうちはいつまでも」が36.8%と最も多くなっているのだ。

誰もが長寿時代に従来の60歳定年のもと、老後を年金だけで悠々自適に暮らせるとは思っていない。では、日本の高齢者はどのような働き方を望んでいるのだろう。

内閣府「高齢者の経済生活に関する意識調査」(平成23年)では、『仕事を選ぶ際に最も重視すること』として、「経験が活かせること」が最も多く、次いで「体力的に軽い仕事であること」、「収入」となっている。

高齢期の就業は、収入を得つつ、仕事のやりがいや体力に見合っているかなど、若い頃とは異なる働き方が志向されているのである。

高齢者の就労促進は、高齢者自身の人生に好ましい影響を与えるだけでなく、社会全体にとっても社会保障給付費の削減やその原資の確保につながるといったマクロ経済的メリットがあり、高齢化が進展する今日、その意義はますます大きくなっている。

しかし、60歳を超えて在職する受給権者が厚生年金の被保険者である「在職老齢年金」制度では、年金と給与の合計額に応じて、年金の一部または全部が支給停止になり、それが高齢者就労の阻害要因のひとつになっているのではないだろうか。

年金制度における「第3号被保険者」の所得要件が女性就労抑制の一因とも言われているが、高齢者の場合も、年金の減額が高齢者就労を抑制しているという研究報告が多数ある(*2)。

前述の『仕事を選ぶ際に最も重視すること』でも、「年金が減額されないこと」という回答が1割ほどあった。高齢者は健康状態など不確定要素による将来の不安を年金で少しでも払拭したいと思っているのだ。

生涯現役社会を目指す上で、在職中の収入額に応じて減額される年金が、将来の受給額に上積みされるような仕組みがあれば、元気な高齢者にとって就労促進の強力なインセンティブになるのではないだろうか。

(*1) (独)労働政策研究・研修機構「2012年国際労働比較データブック」(平成24年3月)

(*2) 岩本康志「在職老齢年金制度と高齢者の就業行動」(季刊・社会保障研究 第35巻 第4号、2000年3月)他

【関連レポート】

株式会社ニッセイ基礎研究所

社会研究部 主任研究員

(2014年7月22日「研究員の眼」より転載)

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