"幸齢ドライバー"支える技術-「安全運転支援システム」の普及を!:研究員の眼

多くの人が人生の最期を幸せに迎えるためにも、加齢による衰えを補償する"幸齢ドライバー"を支える安全運転支援システムの普及を期待したい。

最近、高齢ドライバーによる悲惨な交通事故が、新聞テレビ等で頻繁に報じられている。数年後にその仲間入りをする私には、とても他人事には思えない。無事に定年を迎えたら、退職後にやりたいこともたくさんあるが、万一、重大な交通事故を起こせばその「夢」は水泡と帰してしまう。

警察庁の「交通事故の発生状況」によると、2015年の交通事故発生件数は53万7千件、死傷者数は67万人ほどと、10年前の6割以下まで減少した。しかし、全年齢層の負傷者数が大幅に低下する一方、人口高齢化の影響で65歳以上高齢者の減少人数は少ない。

また2016年の死者数は3904人、1949年以来67年ぶりに4千人を下回ったが、年齢層別では65歳以上が2138人と過半数を上回っている。

警察庁の「運転免許統計」をみると、2015年の運転免許保有者は8215万人で、10年前に比べ4.3%増加した。65歳以上高齢ドライバーは、1710万人と全体の約2割を占めており、高齢化の進展によりその増加が見込まれる。

年齢層別の事故発生件数(免許保有者10万人当たり)は、65歳以上では全体平均より少ない。しかし、原付以上運転者の年齢層別交通事故は、65歳以上高齢者による発生件数が、2005年の9万8千件から15年には10万件へと増加、構成比は11.1%から19.7%に大きく上昇した。

今後は交通事故の被害者・加害者ともに、高齢者の比重がますます大きくなるだろう。

近年の交通事故の発生件数や死傷者数の減少の背景には、自動車の安全性能の向上や道路安全環境の改善がある。

衝突防止(軽減)機能や誤発進抑制機能、車線維持・逸脱防止機能、後側方安全確認機能など安全運転支援システムの開発はめざましい。すでに国土交通省は、乗用車の自動ブレーキ装着の義務化に向けた国際基準の作成に乗り出している。

今年3月には認知症対策を強化した改正道路交通法が施行される。また運転に不安を覚える高齢者の運転免許の自主返納を促す活動も行われている。

今後は、加齢による運動機能や認知機能の低下に対応した安全運転支援システムの開発・供給はさらに進むだろう。車庫入れ等を苦手とする高齢運転者も多いことから、自動駐車システムの導入など、さまざまな運転アシスト機能も求められる。

これまで私は、交通事故にあわないように気をつけてきたが、年を重ねるほどに交通事故の加害者になることを懸念している。できれば安全運転支援システムを装着した車に早く買い換えたいと思う。

自動運転車の完成・普及には時間を要するだろうが、多くの人が人生の最期を幸せに迎えるためにも、加齢による衰えを補償する"幸齢ドライバー"を支える安全運転支援システムの普及を期待したい。

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(2017年2月7日「研究員の眼」より転載)

株式会社ニッセイ基礎研究所

社会研究部 主任研究員

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