「受動喫煙防止法」の行方-「無煙社会」を"オリンピック・レガシー"に!:研究員の眼

2020年の東京オリンピック・パラリンピックを契機に、国民の健康増進を図る「無煙社会」という"オリンピック・レガシー"がつくられることを期待したい。

今、国会で受動喫煙防止対策を強化する健康増進法改正案が議論されている。従来から他人のたばこの煙にさらされる受動喫煙を防止する措置は努力義務として定められていた。

しかし、厚生労働省の「平成27年 国民健康・栄養調査結果の概要」によると、過去1か月に自分以外の人が吸っていたたばこの煙を吸う機会(受動喫煙)を有する者(現在喫煙者除く)の割合は、「飲食店」で41.4%、「遊技場」で33.4%、「職場」で30.9%となっており、より厳しい罰則付きの法規制が求められているからだ。

昨年10月、厚生労働省が「受動喫煙防止対策の強化について(たたき台)」を公表した。それによると、官公庁や社会福祉施設等は「建物内禁煙」、学校や医療機関等は「敷地内禁煙」、飲食店等のサービス業等は「原則建物内禁煙」のうえで「喫煙室」の設置を可能としている。

国会では慎重派と推進派の対立が続いているようだ。特に、自民党の多くの国会議員が参加する「たばこ議連」は、嗜好に基づく「喫煙」に対して一律に規制をかける厚労省案に強く反対している。

一方、国際的には受動喫煙に対して罰則を伴う厳格な対策が主流だ。また、世界保健機関(WHO)と国際オリンピック委員会(IOC)は、『タバコのないオリンピック』を共同で推進している。

近年の競技大会開催地では、公共施設や飲食店など不特定多数の人が利用する建物における喫煙を禁止し、ロンドンでは建物内禁煙、リオデジャネイロでは敷地内禁煙を実施している。2020年のオリンピック・パラリンピックを控えた東京でも、同じような対策が求められるだろう。

前述の調査では、受動喫煙防止対策の推進を望む場所として、「飲食店」と「路上」が最も多い。日本ではすでに路上喫煙には罰則規定があり、歩行中の喫煙は少なくなっているが、飲食店の「分煙」などはほとんど効果がないように思われる。

また、近所のスポーツ公園で少年野球の練習を見ていると、コーチや保護者が練習の合間にグランドの片隅で喫煙していることがある。子どもの受動喫煙防止に対しては厳格なルールを定めるとともに、禁煙を徹底するよう大人の意識を変えることも必要だろう。

2020年東京五輪のゴルフ会場の霞ヶ関カンツリー倶楽部が、女性の正会員を認めていなかったため、IOCから規約改定を迫られたことは記憶に新しい。受動喫煙についても、世界の潮流に則った有効な対策を取らなければ同様の事態が起こるだろう。

喫煙が健康に有害であることは疑う余地はなく、日本の喫煙者数も喫煙量も減少傾向にある(*1)。2020年の東京オリンピック・パラリンピックを契機に、国民の健康増進を図る「無煙社会」という"オリンピック・レガシー"がつくられることを期待したい。

(*1) 「平成27年 国民健康・栄養調査結果の概要」によると、「習慣的に喫煙している者の割合」は、平成27年は18.2%(男性30.1%、女性7.9%)、平成17年は24.2%(男性39.3%、女性11.3%)。「喫煙者のうち1日に21本以上吸う者の割合」は、平成27年は10.0%(男性12.4%、女性2.0%)、平成17年は23.5%(男性28.0%、女性10.2%)。

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(2017年4月4日「研究員の眼」より転載)

株式会社ニッセイ基礎研究所

社会研究部 主任研究員

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