消費税率引き上げ判断-先送りの場合、何が起こり、何が次のポイントとなるのか

2015年10月に予定している消費税率10%への再引き上げを延期するとともに衆議院を解散する案が急浮上している。
時事通信社

2015年10月に予定している消費税率10%への再引き上げを延期するとともに衆議院を解散する案が急浮上している。17日発表予定の7~9月期のGDP(速報値)の結果をみて安倍首相は消費増税実施の可否を判断する予定だ。

筆者は、あれだけの政治的混乱・パワーをかけた民主・自民・公明党の三党合意を実現すべきで、引き上げまでまだ1年近くあるのだから、万全の景気対策・成長戦略を行い消費税率の引き上げに挑むべきだと思う。

しかし、安倍首相は7〜9月の経済状況に拘っている。個人消費など回復の遅れは明らかで、判断材料として7〜9月期に拘れば拘るだけ、先送りをする可能性が高いと思われる。

ここからしばらく引き上げ派と慎重派で論争となるだろうが、判断する安倍首相としては「先送り」との判断濃厚となってきた。消費税が先送りされた場合、何が起こり、何が次のポイントとなるのか。

(1)何が起こるのか:何も起こらないという悲しい結果?

「先送りによるリスクは発現しない」がメインシナリオ。先送りのリスクとして指摘されてきた長期金利の急騰は、日銀の異次元緩和第二弾、ユーロのデフレリスクで、米国のテーパリング終了が重なっても発現する可能性が低い。株価に至っては安倍政権の政策運営への懸念から株価下落どころか、景気後退リスクが減じたとして上昇する可能性すらある。

また安倍政権の政策運営への懸念も指摘されていたが、最新の世論調査では国民の70%以上が消費税に反対しており見送りとなっても大きく下がらない可能性もある。

(2)何が次のポイントとなるのか

先送り法案の中身:最大の関心は消費税の引き上げがいつまで先送りになるのか、その場合、一体改革との関係では消費税を財源として社会保障充実策なども先送りとなるのかどうか。

時期:先送り法案がいつ成立するのか、その時期は消費税が先送りになった場合、解散となるのかが影響する。

財政再建との関係:2015年度プライマリーバランス半減目標を達成できるのか。

一体改革の社会保障充実策などはプログラム法案などでがんじがらめになっており、例え消費税が先送りとなって財源がなくても支出は行われる公算大だろう。また消費税率引き上げがストップではなく、先送りなんだからという主張も大勢を占めそうだ。

消費税率先送りを争点に解散となれば、その期間、政治はストップする。法案を準備し、国会へ法案提出・両院で成立するには数ヶ月かかる。本来なら成長戦略の促進に向けて各種議論が行われなければならないが、それらも止まってしまう。景気回復が芳しくなければ、第三の矢ではなく、またまた第一、第二の矢への期待ということになりかねない。

2015年度当初予算でプライマリーバランス(PB)半減目標を示せるかどうかは、2つの可能性がある。最終的には以下の〈1〉となり目標が達成できるとの予算案になると読む。

〈1〉消費税率引き上げがなくてもPB半減目標は達成できる

消費税10%への引き上げは来年10月からで、2015年度への寄与は半年分、消費税増加分は約2兆円となる。4兆円程度つめなければならないPBからすれば大きな金額だが、法人税減税の財源の大半は企業部門の中から捻出される。

また今年度の決算動向を見ていると最高益となる企業が多いことから、来年度も税収増加を予想し歳入増加の予算計画を作ることはできる。そうすることで消費税率の引き上げがなくてもPB半減の案を策定する。

〈2〉消費税率引き上げがないので、PB半減目標は達成できない

他方、ここで消費税率引き上げなしで財政再建が可能とのメッセージを予算策定で示せば、将来、消費税引き上げの道筋がつけにくくなるとの思惑も確実にでてくる。

PB半減目標に対して消費税率引き上げがなされなかった分くらいの不足が生じるという目標未達の案を策定する(このパターンの時は、格付け会社の判断が読みにくい。財政再建が後退し格下げ方向となるのか、今、景気の腰を折らず中長期的には財政再建の方向に向かうようになったとの評価となるのかだ)。

消費税率先送りは、景気腰折れのリスクを減じるために判断される。しかし、先送りで発生するリスクが今発現しなくても将来的にそのマグマは大きくなったのは事実だ。

政治の判断で先送りを決めるのなら、同時に引き上げができるような環境にするために、成長戦略や財政再建に向けた取り組みを加速させる必要が政治にはある。

関連レポート

株式会社ニッセイ基礎研究所

経済研究部 チーフエコノミスト

(2014年11月11日「研究員の眼」より転載)

注目記事