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TPP交渉大筋合意の意義~国内対応が課題に:エコノミストの眼

2015年12月05日 01時00分 JST | 更新 2016年12月03日 19時12分 JST

TPP交渉妥結

5年以上の歳月をかけて行われてきたTPP(環太平洋パートナーシップ協定)の交渉は、10月初めに米国アトランタで開催された閣僚会合で、ようやく大筋合意に至った。

2013年から交渉に参加して、TPPをアベノミクスの「成長戦略の切り札」と位置付けて交渉を推進してきた日本にとって、今回の合意は待ちに待った朗報だ。

交渉が続いている間に、これまで世界経済の成長のエンジンとなってきた中国経済は減速が目に付くようになった。世界経済全体にとっても、TPPは中国経済に代わる新しいエンジンとしての期待が大きい。

国際交渉は各国が互いに妥協しなければまとまらないのだから、TPP交渉の結果が日本にとって100点満点の結果と言えないのはしかたがない。交渉がまとまらなかった場合と比べればはるかに良かったことは間違いない。

今後は国際交渉から国内での対応に課題の中心が移っていく。

政府は11月25日にTPP総合対策本部を開催して「総合的なTPP関連政策大綱」を決定し、農林水産業の体質強化対策や、地方の中堅・中小企業の海外展開支援、食の安全に対する国民の不安を払しょくするために輸入食品の監視指導体制を強化するなどの、国内対策に動き出した。

国内需要の拡大が本当の効果

TPP交渉に限らず貿易を巡る議論では、「日本からの輸出が増えることが善で、輸入が増えることは悪である」という単純な図式で議論されることが多い。

しかし、TPPの交渉で各国は自国の輸出を増やそうと努力したが、その結果はそれぞれの国が輸出も輸入も増やすことになっている。

2013年にTPP交渉への参加を決めた際に政府が示した経済効果の試算では、GDPを約3.2兆円押し上げるとされていた。輸出は2.6兆円増えるが輸入も2.9兆円増えると見られており、差は若干のマイナスだがほぼゼロだと言ってよいだろう。

GDPが増えるのは日本の貿易収支が改善する(外需の増加)からではなくて、貿易が拡大することに伴って日本国内の需要が増えるからなのだ。

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実際の交渉の結果を踏まえてGDPの押し上げ効果を考えると、関税だけを見れば撤廃までに時間がかかるので当面の効果はこれを下回るように見える。

しかし、TPPはモノの関税の削減・撤廃だけでなく、サービス、投資の自由化を進め、さらには知的財産、電子商取引、国有企業、労働、環境の規律など、幅広い分野で新しいルールを構築する幅広いものだ。

試算では考慮されなかった多くの成果があることを考慮すれば、数量的に示すことは難しいが最終的な経済効果はずっと大きい可能性が高いだろう。

しかし、いずれにせよ輸出と輸入の差はわずかなもので、国内の需要が増えることでGDPが押し上げられるというメカニズムは変わらない。

国内対応が重要

貿易の拡大は、日本経済全体にとってはプラスでも、個別に見れば恩恵が大きい産業や企業もあれば、これまでよりも厳しい状況に置かれることになる産業もある。

貿易拡大の利益は大きいが、多くの人達が少しずつ恩恵を享受するのに対して、比較的狭い領域に負担が集中する。

合意を受けて現在よりも厳しい国際競争に直面することになる産業や、そうした産業に大きく依存している地域に対して、なんらかの手当ても必要になるだろう。

問題はこうした状況でどのような対応をとるかである。食品監視体制の強化など、貿易拡大への対応策を十分とらないと、様々な摩擦が起きてしまう。

過去の農業対策のように、一時的に地域経済を潤したかも知れないが、長期的に見れば本当に農業や地域の発展のためになったとは言い難いものもあった。

痛みを和らげる鎮痛剤のような対策もケースによっては必要になるだろうが、あくまで一時的なものにとどめて永続的な制度とはすべきではない。最も望ましい対策は、即効性は無くとも将来に向けて産業を発展させるような政策であることは言うまでもない。

貿易問題では、対外交渉でいかに国益を守るかということが成否のカギに見える。しかし、実は日本経済をどのように変えていくのかという国内問題の方がはるかに重要だ。対応を誤れば、せっかくの貿易拡大による恩恵を大きく相殺してしまうことになりかねない。

TPPの成果を本当に生かすことができるかどうかは、今後の国内の対応次第に掛かっている。

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(2015年11月30日「エコノミストの眼」より転載)

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経済研究部 専務理事

櫨(はじ) 浩一