天気予報の法律-災害・防災、ときどき保険(3):基礎研レター

現在の日本における天気予報に関連する法律などをみてみよう。

1――天気予報一般

災害・防災について伝え、あわよくばそれに乗じて保険の効能について解説することにより、保険事業の理解者を増やそうとの野望のもと、連載している本稿である。筆者自身の業務の季節的変動により、連載間隔が全く不定期であるが、細々と続けていく所存である。

季節といえば、はや台風の季節も過ぎ、今年も大きな被害がもたらされた地域もあった。そしてそれは、次は自分かもしれない。そのためには事前の備えが重要なのだが、そもそも、台風がくる、あるいは大雨になりそうだ、といったことは、なぜ事前にわかるのか。

事前にわかるのは、今やあたり前のようでもあるがそうではない。まさか、一人ひとりが、雲の様子を見て、あるいはゲタを飛ばして、「明日は雨」と判断するわけではあるまい。遠くの空の雲の渦巻きをみて「あ、台風だ!」と気付くわけでもないだろう。

事前にわかるのは、自分でみているからではなく、もちろん天気予報というものが、テレビ、ラジオ、新聞、インターネットなどで公表されるからである。それにより台風・大雨等も含め、明日、今後一週間、あるいはそれ以降の天気がわかり、しかるべき備えをしたり、予定を調整したりすることができる。

天気は人間の生活に多大な影響を与えるものであるから、古代より、誰に言われるまでもなく、地域ごとに、経験則として蓄積された知識があるという。

たとえば、「夕焼けの翌日は晴れ」「日に笠がかかると雨」「蛙がなくと雨」「猫が顔を洗うと雨」等々、一度は耳にしたことがあるだろう。

多くは科学的にも説明がつくものなので、天気予報が科学的な観測に基づき高度になった現在でも、実際にたとえば船舶で航行する場合など、大いに参考にすべきことでもあるらしい。これらはまた別の機会にまとめて眺めてみたい。

また、最先端の技術は軍事上の要請から始まることが多いが、天気予報もある意味立派な軍事機密とされる時期もあった。例えば、日本でも大東亜戦争中、昭和16年12月8日の対米英開戦以降、天気予報は禁止となっていたそうな。

また国によっては気象庁にあたるものが軍の一組織だったり、軍が独自に気象観測組織を持っていたりもする。

そういった天気予報の歴史は幅広く、興味深いが、今は先を急いで、現在の日本における天気予報に関連する法律などをみてみよう。

1|気象業務法の内容

天気予報に関する規制は、昭和27年にできた「気象業務法」という法律に定められている。

その第一条(目的)には、

「気象業務に関する基本的制度を定めることによって、気象業務の健全な発達を図り、もって災害の予防、交通の安全の確保、産業の興盛等公共の福祉の増進に寄与するとともに、気象業務に関する国際的協力を行うことを目的とする。」

とある。

用語の定義を少々みておく。「気象」という言葉を使うが、これは「大気(電離層を除く。)の諸現象」のことと定義され、ほかに

「地象」(地震及び火山現象並びに気象に密接に関連する地面及び地中の諸現象)、

「水象」(気象又は地震に密接に関連する陸水及び海洋の諸現象)

があって、これらは以後、法律のなかで区別される。(扱いの程度が大きく異なるわけでもなさそうなのだが?)

以下、気象庁が「観測」を行い、「予報、警報」をしなければならない、と続くのが、法律の骨組みであって、その手段として、観測機器に具備すべき性能とか、予報の内容の詳細な定めが続く。(予報の詳細にあたる部分は、警報などの種類とともに、稿をあらためて報告する。)

「観測」というのは、「自然科学的方法による現象の観察及び測定」のことを指す。

気象庁や許可を受けた民間業者などが観測を行う際、その方法や、使用する気象測器には一定以上の性能を有することが、この法律で定められている。

また「予報」とは、「観測の成果に基く現象の予想の発表」である。(*1)

しかし、さきにも述べたように、それぞれの地方に伝わる天気に関する伝承は、科学的に証明されていないとしても正確な場合もあるときく。そういうところでは、もしかすると、テレビの天気予報とともに、伝承も重視した方がいい場面もあるかもしれない。

2|気象庁以外が予報を行う場合の定め

天気予報というのは、誰でも勝手にやってよいものではない。天気予報は国民の生活や企業の活動に深く関連しており、技術的な裏づけのない予報が発表されると、それに基いて行動した者に混乱・被害を与えかねない、というのがその理由である。

確かに様々な行事の開催が、怪しい情報に左右されるだけでも問題だが、人命にかかわる防災の観点からはなおさら重要である。

そういった重要性から、もともと昭和27年に気象業務法ができた時点では、気象庁が一手に予報業務を担う前提で、法律が整備されていた。

その後平成5年に、民間事業者などが一定の条件のもとで、独自に予想を行ってもよいように法改正された。この気象業務法の中でも、気象庁以外の者が予報を行う場合のルールが、相当の部分を占めている。

「気象庁以外の者が、気象、地象、津波、高潮、波浪又は洪水の予報の業務を行おうとする場合には、気象庁長官の許可を受けなければならない。」(気象業務法第17条)

なおかつ、この許可を受けることのできる基準は、

・観測その他の予報資料の収集、資料の解析の施設、要員を有すること

・気象庁の警報事項を迅速に受けられる施設・要員を有すること

・主に気象についての予報業務を行う場合には、「気象予報士」を置く義務があり、予報業務のうち現象の予想については、気象予報士に行わせなければならないこと

などが定められており(同 第18条)、ここに「気象予報士」なる資格が出てくる。

気象予報士になるには、気象庁長官の行う気象予報士試験に合格して、登録を受ければよい。その試験制度全般についてもこの法律に記載されている。

テレビのニュースのお天気コーナーなどにこの気象予報士という肩書きをもつキャスターが出演していることも多いので、「天気予報には、そういう肩書きが必要なのかな?」と感じている人も多いだろう。

実際には、テレビのニュースなどで、「気象庁発表の予想」を報道し、解説するだけなら、許可はいらない。だから、お天気キャスターそのものには気象予報士の資格は必要ないのだが、その予報に信頼ある印象をもたせる効果はあるだろう。

もし独自に現象の予想をするならば、キャスターではなく、実際に予想する裏方の仕事に、資格が必要となる。

なお、天気予報には天気そのものの他に、例えば「花粉の飛散状況」などが報道されていることが多いが、これは「大気の状況」とはみなされないので、天気予報としては規制されないようだ。

同様に「洗濯指数」とか「ゴルフ指数」とか何か活動に適した○○指数というのも、観ている側にはおおいに参考になるが、大気の状態ではないので、ここでは特に規制されない。(気象庁ホームページのQ&Aによる)

しかし、どこから許可が必要かという線引きは、個々のケースによってあいまいなこともあるようだ。この予報業務の「業務」とは「反復・継続して行われる行為」とされているので、一回きりならいいのか、など。

個人のホームページで独自の予想を発言するのはどうかなど、詳しくは気象庁に確認する必要がありそうなので、実際に独自に予想したい方は注意されたい。なお、金銭などの報酬を伴うかどうかは、全く関係ないようである。

2――気象庁のみが「警報」をだすことができる

「予報」だけなら、ともかくも誰でもできる形にはなっているが、「警報」は一部の例外を除いて気象庁のみが発することができるものとなっている。

「気象庁以外の者は、気象、地震動、火山現象、津波、高潮、波浪及び洪水の警報をしてはならない。ただし政令で定める場合には、この限りでない」(第23条)

この政令で定める場合とは、「津波に関する気象庁の警報事項を適時に受けることができない状況にある地の市町村長が津波警報をする場合」が挙げられている。(気象業務法施行令第10条)

警報とは「重大な災害の起るおそれのある旨を警告して行う予報」である。どんな警報があるのか。そもそも予報からして、具体的な種類についてまだ何も触れていなかった。予報、注意報、警報、そして近年追加されよく耳にするようになった特別警報の種類について、稿をあらためて次回みることにする(*2)。

(*1) 「オレは晴れ男だ。オレがゴルフに行くといったらその日は絶対晴れる」と豪語する人が、筆者のまわりに何人かいるが、これは自然科学的方法とは呼ばないだろう。はずれることも多い。過去雨の日にゴルフを中止にしたことを、すっかり忘れている疑いがありそうだ。

(*2) 地震・噴火にも天気予報並みの予測があるといいのだが、まだ発展途上のようである。

なお、地震予知に関連して、この原稿を執筆の最中、9月26日に報道発表があり、これまで40年にわたり地震予知を前提とした東海地震への対応を計画していたが、現在の科学的知見では予測は困難、との前提に改め、対応方針の転換に着手するとのこと。いずれ稿を改めて報告したい。

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(2017年10月3日「基礎研レター」より転載)

株式会社ニッセイ基礎研究所

保険研究部 主任研究員

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