都道府県別結婚式費用とそのエリアの結婚事情の関係性:研究員の眼

近年、若い世代ほど結婚式費用を全くかけずに入籍する結婚が多く選択されるようになってきているが...

-少子化社会データ再考:エリアの派手婚・地味婚度合いは「結婚力」に関係するか

【はじめに】

1年以内に結婚するとしたらその最大の障壁は「結婚資金」であるという回答が2015年の国の調査で未婚男女ともトップとなった(図表1)。

結婚の意志のある未婚の男性の43.3%、女性の41.9%がもし1年以内に結婚するとしたら「結婚資金」が障害になるであろうと考えているようである。

「お金がたまったら結婚を考えよう、相手を探そう」

「お金が足りないから恋愛から結婚に踏み切れない」

そんなシナリオが未婚者の脳内に描かれている様子が窺える。

未婚の男女が近い将来結婚するなら、と想定した際に、その脳内に浮かび上がる「お金の壁」。

果たしてこの「お金の壁」は、すぐに結婚を決める際のそこまで壁となるモンスターなのであろうか。

本稿では国の大規模データ等を用いて、都道府県別の結婚式費用(エリアの派手婚・地味婚度合い)と結婚事情の相関関係を分析することにより、その「モンスターの影響力」を考察してみたい。

【分析上の留意点-「結婚費用」「ナシ婚」「親の負担」】

図表1の「結婚資金」は、あえて1年以内に結婚すると想定した場合に障害となるものがあるかどうかを質問した結果であるため、挙式や披露宴、せめて写真結婚式などのなんらかのウェディング費用を想起して回答している可能性が高いと思われる。

しかしながら、結婚費用に転居費用などを含めて回答しているケースもあると考えられるため、結婚費用がすなわち本稿で検討する結婚式費用でないことは確認しておきたい。

また、エリアごとの平均結婚式費用の算出においては経済産業省の特定サービス産業実態調査を用いている。このデータはウェディング関連事業者の売上高と売上件数を示しているため、結婚式を全く行わず役所に届出を提出するのみのいわゆる「ナシ婚」(挙式費用ゼロ)グループは集計値に含まれてこない。

当然、結婚式費用は全くかけないというカップルは存在する。その割合は、2016年3月の民間調査の結果では28.7%となっている(*1)。従って、本稿の分析は「そのエリアで結婚式を行う場合に平均してかかる費用」であることに留意したい。

次に結婚式費用は本人達の資金で支払う場合もあるが、両家の親が支払う場合も少なくはない。2015年に実施された別の民間調査(*2)では、実に約75%のカップルが親からの結婚資金援助があったと回答している。ちなみに、親からの援助の平均金額は191.4万円となっている。

つまり、本稿でいう結婚式費用は「両家の親の財力」が内包された数値、であることを注意喚起しておきたい。

以上をまとめると、本稿における「結婚式費用」は、そのエリアにおいて結婚式を行う場合にかかる平均的な結婚式費用であり、金額の多寡の性質として、両家の親の財力が示されている可能性が高い、ということになる。

【都道府県別 平均結婚式費用の現状】

経済産業省の「平成27年特定サービス産業実態調査」のデータを用いて各都道府県の結婚式費用(挙式金額、披露宴金額の合算)の平均金額を比べた結果が図表2である。

平均結婚式費用は、各都道府県の結婚式場業務の売上高を集計対象となった売上件数で割ることで算出している。1件当たり売上高のトップは沖縄県であり、突出した数値となっている。

しかしこの沖縄の突出した数値は、そのエリア在住者の結婚というよりもリゾート挙式をあえて希望し、他のエリアから来訪して高額の結婚式を行っているケースが多く含まれると思われる。

その理由は、国内におけるリゾート挙式の中で2015年にもっとも選択されたエリアは軽井沢(32%)、ついで沖縄(26%)であり、この2エリアが圧倒的な割合となっている(*3)。

軽井沢は比較的近接エリア(関東、北陸、東北など)からの選択となっているが、沖縄は北海道、東北といった遠方を含めて全エリアから1番、もしくは2番目に選択されているリゾート挙式地となっており、一生に一度の挙式であるからと高額挙式を志向して選ばれている様子が窺えるからである。

この特異なケースの沖縄を除くと、結婚式費用の多い「派手婚」エリアでは、およそ400万円から500万円が平均結婚式金額となっている。一方、少ない「地味婚」エリアでは300万円弱といったところである。

【結婚式費用と初婚年齢 -結婚式にかけるお金は結婚年齢に影響するか-】

平均金額を算出する売上高に満たないなどの宮城・秋田・奈良・和歌山(以下、ナシ婚4エリア)を除く43都道府県の平均結婚式費用と各都道府県の男性、女性の平均初婚年齢(2015年:厚生労働省 人口動態調査)の相関分析を行った。

結果、男性平均初婚年齢との相関係数は-0.06、女性は0.02で相関関係は見られなかった。特殊エリアである沖縄を除いた場合の結果も男性0.13、女性0.16であり、沖縄を含めても含めなくても、結婚式費用と初婚年齢の間には相関関係はない、といってよいだろう。

【結婚式費用と生涯未婚率 -結婚式にかけるお金は未婚化に影響するか-】

次に、同じくナシ婚4エリアを除く43都道府県の平均結婚式費用と男女の生涯未婚率(2010年:社会保障人口問題研究所 人口統計資料集)との相関分析を行った。

相関係数は男性の生涯未婚率が0.41、女性が0.19で男性は正の相関あり(図表3)、女性は相関なし、という結果であった。しかしながら、他のエリアに比べ特性の異なる挙式事情が想定される沖縄を除いた相関分析を行うと、相関係数は男性で0.11、女性で-0.01であり、男女ともほぼ相関関係が見られなかった(図表3)。

ちなみに、沖縄を含めたケースで考えるならば、結婚式費用をかけるエリアの方が男性の生涯未婚率が高くなる傾向がみられる(もしくは男性の生涯未婚率が高いエリアは結婚式費用が高い傾向がみられる)ということになる。

【お金が結婚の壁の思い込み打破の重要性】

未婚の原因は「お金が足りないから」という幻想-少子化社会データ検証:「未婚化・少子化の背景」は「お金」が一番なのか-では、日本における社会の「お金が足りないから結婚できない」という思い込みこそが結婚の最大の壁となっていることを示した。

今回の都道府県別結婚式費用と結婚事情の関係性の分析でも、やはり「お金が足りないから近いうちに結婚が難しい」という結婚意志のある未婚男女の考えに対して、お金のかかる派手婚エリアでも、あまりかからない地味婚エリアでも初婚年齢、生涯未婚率ともに変わらないという結果が得られた。

結婚式費用の問題とカップルの成婚の問題の関係というものは、特に「お金が少ないから」という理由からの説明は統計的には非常に説明が難しい。

つまり、お金は近い将来結婚する場合に未婚者に立ちはだかるモンスターというよりも、モンスターのように「見える」だけではないだろうか。

近年、若い世代ほど結婚式費用を全くかけずに入籍する結婚が多く選択されるようになってきている。民間調査(*4)によれば、20代では結婚式・披露宴をともに行うカップルは半数を割り、一方で入籍のみのカップル「ナシ婚」カップルが4割にも達している。

既婚カップルへの調査結果を見ると、若い世代では「結婚式にこだわらず、その費用をカットして結婚する」という選択をするカップルが増加している様子がはっきりと現れている。

海外の研究成果も加味すると 、ますます「そもそも結婚という最も複雑で深い人間関係構築の推進力として、第一にお金を列挙しようとするものの考え方」こそが、未婚男女を結婚の夢の実現から遠ざけている最強のモンスターなのではないだろうか、と思わざるを得ないのである。

関連レポー

(*1) アニヴェルセル株式会社 調査概要:http://www.anniversaire.co.jp

調査方法:インターネット調査、 調査対象:全国23歳~39歳男女1,200名

調査期間:2016年3月18日~3月23日

調査結果概要:挙式+披露宴 55.5%、何もしていない:28.7% 挙式のみ:8.9%、ウェディング衣装着用写真のみ撮影:6.2%(ただし、年代によって大きくその割合が異なることに注意)

(*2) ゼクシィ結婚トレンド調査2015

調査方法:郵送法 、調査期間:2015年4月23日~6月4日、集計数:5701名

調査エリア:北海道、青森・秋田・岩手、宮城・山形、福島、茨城・栃木・群馬、首都圏、新潟、長野・山梨、 富山・石川・福井、静岡、東海、関西、岡山・広島・山口・鳥取・島根、四国、九州の2014年4月~2015年3月に結婚(挙式、披露宴・披露パーティ)をした、もしくは結婚予定があった『ゼクシィ』読者のうち、エリアごとにランダムサンプリングし、調査票を郵送。調査票への記入は妻に依頼。

集計対象:2014年4月~2015年3月の間に挙式もしくは披露宴・披露パーティのいずれかを実施した人全国集計については、各エリアの婚姻件数(平成25年厚生労働省人口動態調査)に合わせてウエイトバック集計を行った推計値

(*3) ゼクシィ結婚トレンド調査2015より

(*4) ⅰと同じ(アニヴェルセル株式会社調査)

(*5) アメリカのエモリー大学の調査 (A Diamond is Forever' and Other Fairy Tales: The Relationship between Wedding Expenses and Marriage Duration Andrew M. Francis & Hugo M. Mialon ,Emory University - Department of Economics, September 15, 2014)

では、いわゆる「派手婚」カップルの方が「地味婚」カップルより離婚しやすい、という「結婚はお金派」にはかなり残念な結果が示されている。

(2016年11月14日「研究員の眼」より転載)

株式会社ニッセイ基礎研究所

生活研究部 研究員

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