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AI時代の雇用

人間にしかできないことは何か

2017年12月28日 15時09分 JST | 更新 2018年01月04日 14時06分 JST

AIが人間の雇用を代替するようになる時代、経営者や人事担当者はどのような戦略を描くべきなのか。危機感を煽るだけではなく、イノベーション、クリエイティビティ、リーダーシップなどの人間こそがなし得る領域にフォーカスをあて、日本の企業が取り組むべき方向性について私見を述べたい。

テクノロジーの進化は何をもたらすのか

英オックスフォード大学のオズボーン准教授は『雇用の未来』において、今後10~20年程度で米国の総雇用者の約47%の仕事が自動化されコンピュータにとって代わられると述べている。AIやIoTなどのテクノロジーの進化によって、人間に代わってテクノロジーが行う業務が広がることは間違いないだろう。しかし、テクノロジーの進化が企業経営や人々の働き方にどういった影響を与えるかといった冷静な議論は深まっていないと考えており、"人の仕事が失われる"といった危機感を煽ることが中心の言述も少なくないと感じている。

ここで国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)が2016年に公表した「次世代人工知能技術社会実装ビジョン」は技術的側面から客観的な議論がなされており、テクノロジーの進化による影響を見通す上での参考になる。

これによれば、2030年には、テクノロジーは特定分野においてはテキスト情報を解釈し、一定のタスクにおいては背景知識・作業を自ら学習し、熟練技能者の技術を習得・モデル化して再現できるレベルに達するとされている。他にも海外文献の情報収集や機械翻訳等が人間レベルになり、膨大な選択肢からベストなものを探すということも可能になるようである。要するに、情報の認識や分析、予測、判断などをアルゴリズム化できてしまう領域においては、ほとんどすべてをテクノロジーが対応できるようになるということだ。

企業競争力の源泉が変わる

このように進化を遂げたテクノロジーは、実際にどこまで人間の仕事を代替するようになるのだろうか。当然、テクノロジーに代替できる領域も敢えて人間に委ねる判断もあるだろうが、国内の生産年齢人口の減少や長時間労働、さらには過労死等の労務問題から、一定の精度・品質・効率で、24時間365日働き続けられるテクノロジーへの代替は、それなりに早いスピードで進むと筆者は見ている。

それはソフトウェアで対応できる部分が多いホワイトカラーの仕事でも例外ではないいだろう。

今はまだ、多くの企業が最先端のテクノロジーを他社に先んじて取り入れることで企業競争力を高めようとしているステージだがテクノロジー発展・浸透のスピードを見るに、近い将来、多くの企業に一通りテクノロジーの活用が行き渡るであろう。そして、大抵は標準化されたクラウドサービスを活用する形でテクノロジーが活用されることになると思われる。

その結果、企業競争力が「テクノロジー活用度」ではなく、「テクノロジーで代替できない人独自の領域の巧拙」によってのみ左右される時代が早晩訪れるというのが筆者の見解である。多くの企業がテクノロジーを最大限に活用するようになると、各社に存在する類似の業務は、クラウドサービス等によって標準化されたテクノロジーを使って各社同一レベルで対応・処理されることになる。かつてパソコンやインターネットの黎明期には、こういったテクノロジーを活用しているかが差異化の1つであったが、どの企業にも浸透すると企業間の差がつきにくくなる。今やエクセルを使ってミスなく計算し、グラフや関数などを使って複雑な分析をすることなど、どの企業でも当たり前にやっているだろう。

さらに、テクノロジーを先行導入した企業が競争優位を保ち続けられない理由として、新たなテクノロジーは自己学習ができるようになる点がある。仮に他社に先んじてテクノロジーを導入しても、後発導入企業のテクノロジーの自己学習機能によってすぐにその優位性がなくなってしまうのではないかと考えている。よく知られている話として、世界トップの囲碁棋士を破った「AlphaGo」は2017年に人間との対局に備えて「AlphaGo」同士の囲碁の対局を数百万回も行っていたと言われている。仮に一局1時間で勝負がつくとして、100万局の場合、100万時間かかる。これは単純に24時間×365日で割っても約114年にもなり、もはや1人の人間の経験習熟を超越した領域であると言える。テクノロジーのシミュレーションや学習のスピードは人間のそれよりもはるかに速く、当初あった先行者優位性や企業間のノウハウの差などは結局追いつかれてしまうのだ。つまり、テクノロジーの活用は、他社に劣後しないために必要ではあっても、優位性を持つことは意味しないのである。

人間にしかできないことは何か

このような前提で、先の「次世代人工知能技術社会実装ビジョン」を踏まえて、ホワイトカラーと呼ばれる人たちの業務の中でテクノロジーがカバーできるようになると思われる範囲を整理した(図表参照)。時期としては2030年頃を想定している。

おそらくこの時点では、テクノロジーは自らが主体的に取り組むべきタスクや、その目的を定義することはできない。例えば、職場の問題を、テクノロジーが自律的に定義することはできない。

だが、誰かが社員のモチベーションに問題意識を持ち、モチベーションの向上により業績を上げられるのではないかという仮説を持ち、そのための施策を検討したいと課題を定義すれば、テクノロジーはメンバーの表情や言動、会話や発言の内容などを読み取ったり、仕事上のパフォーマンスの度合いを分析したりするなどして、一定の精度でその課題に対する結論を出せると考えられる。個々人の経歴や日々の生活状況・体調、さらにはセンサーで測定した業務への集中度合いの測定値などインプット情報を増やすことで、その精度を更に向上させることも可能だろう。だがそれらは、誰かが目的や取り組むべき課題を定義することが出発点なのである。

これはつまり何を考えるべきか・何に取り組むべきかという課題設定こそが人間に求められる業務であり、その課題設定に必要な人間の問題意識や初期仮説の能力が必要であるということだ。

同じことは今まででも既に起こっている。例えば既述したエクセルの場合でも「どういうデータを」「何のために」「どう分析する」かという、人間の役割・スキルが必要であり、その巧拙がエクセルを使った業務の品質や成果を左右するというのは言うまでもない。

しかしながら今後は、「どういうデータを」「どう分析する」という部分までも、テクノロジーが過去の経験・事例などのデータから学んで、対応できるようになってくる。そうなると「何のために」という課題を定義することが人間の役割になってくる。言ってみれば、ゼロから問題意識と仮説を持ち、課題を定義するという意味での創造性(クリエイティビティ)を発揮する存在として、人間が不可欠となるのである。さらに、過去に例がないチャレンジを現実化させるためのルールや手順を描きだすことも求められるだろう。

もう一つ、テクノロジーが単独で対応できないこととして「公開されていない情報を入手すること」が挙げられる。ここでいう情報とは、特定の個人あるいは組織が自分・組織内部のみで持つアイディアやノウハウ・技術、あるいは人的ネットワークやプランなどである。これらの入手は人脈や人間関係に依存せざるをえない。

例えば、どこかのベンチャー企業が開発した新しい技術と、自社の持つリソースやナレッジを組み合わせて、新たな商品やサービスを創出することは、情報の結節点に人間が立つことで可能になる。人間同士の信頼関係を構築・拡大する中で、隠れたアイディアやノウハウなどを持っている人がいるのかを知り、その人にアプローチして関係をつくっていく中で、必要なものを共有してもらえるだけの信頼を獲得する、場合によっては何かに向かって協働しながら生み出していくという状況をつくるという動き方だ。それは突き詰めれば他者を巻き込み、動かしていくリーダーシップということにもなる。

このような他者を巻き込んだリーダーシップは今後より広い世界で行われることが求められる。場所と時間を超えて、例えば地球の裏側にいる人とどのようにつながり、信頼関係を構築して、協働しながら物事を動かしていけるのか、というスキルが今以上に人間には求められていくのである。

テクノロジーの進化・普及が進んでいく中にあっても、この2つの要素はテクノロジーではなく、人間だけが担う役割となる。そして、この人間にしかできない役割の質と量が今後の企業の勝ち残りを左右していくことになるのである。

イノベーションを生む人材の確保こそが企業が取り組むべき課題

テクノロジーが進化し、プロセスや効率で差異化ができなくなった世の中においては、これまで以上に、いかに他社と異なる新たなものやことを生み出していけるのかということが、企業の勝ち残りを左右するだろう。こうした、いわゆるイノベーションこそが人間のみが担える領域になる。ゼロからの問題意識と仮説構築力でイノベーションのニーズや機会を特定する、あるいはオープンイノベーションが主流となる流れにおいてさまざまな人や組織が持つアイディアやノウハウ・技術をつないで組み合わせていくことが企業競争力の中心になる。こうした変化を受けて今後、企業組織は、こうしたイノベーションの創出をリードする「少数の経営者やリーダー人材」と、「(人の業務を代替した)テクノロジーそのもののオペレーションやメンテナンスを行うその他の人材」という構成に移っていくのではないだろうか。おそらく企業の人数規模も今より小さくなっていくだろう。その時には、大量のそこそこ優秀な人材の集団ではなく、絞り込まれた少数の超優秀な人材のチームが勝つのである。

こうしたことも含めて、これからの企業には自社の業務や組織が今後どのように変化するかを、見据えた対応が求められている。具体的には、自社内に今ある、あるいは今後発生する業務のそれぞれについて、テクノロジーに任せることと、人間がやるべきことの見極めが必要になるだろう。要員計画とテクノロジーの導入計画は一体となって組み立てられることになり、テクノロジーがわからない人事部門や企画部門は必要な役割を全うできなくなる。自社の業務を全て棚卸しして、一つひとつの業務の担い手としてテクノロジーと人のどちらが企業にとって望ましいのかを判断し、人の量と質の変革とテクノロジーへの移管を一体的に行っていくような具体的なプロセスの設計とプロジェクトマネジメントが不可欠になるのである。いずれ情報システム部門と人事部門は一体となっていくのではないだろうか。

そう考えた時に、果たして日本の企業は打つべき手を着実に打てているのだろうか。テクノロジーを導入・活用することで効率や所定の業務の効果を上げることには積極的に取り組む一方で(既述した通り、これは高い競争力を約束するものではない)、その企業競争力の源泉となるイノベーションを生める人材の確保には必ずしも効果的に取り組めていないのではないだろうか。さらに雇用の流動性や多様性が進むことで、一つの会社に必ずしも属さないフリーランス的な働き方が、優秀な人材であるほど一般的になっていくとすれば、企業にとってそうした人材の量と質を十分に確保し続けることはますます重要かつ困難な課題となっていくことは間違いないだろう。

ここでいう人材の確保とは、獲得と育成・リテンションだ。獲得とは直接雇用につながる採用だけでなく、前述のようなフリーランスとして自社のプロジェクトに参画するメンバーのための環境づくりも含まれる。その時々の必要性に応じて企業が組成するプロジェクトに、世界中から優秀で最適な人材が集まり、プロジェクトの期間中に最大限活躍するという状況をどう実現するかということだ。社外の優秀なフリーランスは引く手数多であるため、それらの人材が自社のプロジェクトに参画することの魅力をどのように構築・訴求していくかは重要になる。当然同時に、今雇用している人材をどのようにして来たるべきテクノロジー時代に競争優位性を生み出せるレベルに育て上げ、リテンションしていくかという問題にも取り組んでいくことが求められる。

人を組み合わせてチームをつくり、習慣づけて強化する

とはいえ、漠然とイノベーション、クリエイティビティ、リーダーシップなどという言葉を使っていても、的確な打ち手を講じることは難しい。具体的な人材の要件や基準を明確化し定義することが、人材の獲得における最初のステップと言えるだろう。

筆者のチームではこうしたイノベーションの創出に資する人材の要件・基準の定義を試みた。その結果、ニーズを見つけ、シーズを組み合わせ、それらを具体的な商品・サービス等に現実化するといった一連の機能・プロセスのすべてを1人の人間に期待するのは相当難易度が高いという結論を得た。イノベーションを生む人材というとどうしても、1人の天才的なイノベーター(例えば、スティーブ・ジョブズのような)を想起しがちだが、それらの天才を意図的に再現性ある形で生み出すことはほぼ不可能だろうということだ。

従って企業においては、イノベーションを生み出すために求められる人的機能・プロセスをそれぞれ切り分けて人材要件をつくり、企業が求めるイノベーションを実現・推進するためのチームをつくることが必要となるであろう。つまり、個々の人材の特徴・強みを意図的に組み合わせて最適なチームをつくることで1人の天才イノベーターの仕事を、10人のチームで束になって行うといったイメージである。こうした形をとることによってイノベーションを創出できる人材を、意図的に育成できるようにもなると考える。

このような、チームをベースにしたイノベーションを計画的に生み出すためには、こうした人材のモチベーションの源泉や必要とする業務環境、組織のあり方やマネジメントスタイルが何であるかを理解する必要がある。このような各人材のコラボレーションを促進する人材も獲得・育成・リテンションのターゲットになるのはもちろんだ。こうした、それぞれの強み・資質・特性が異なる人材を最適に組み合わせ、それによってチームとしての力を最大化し、1つの成果につなげていく考え方と方法論は、社外含めて世界中にいる様々な人を巻き込むオープンイノベーションの時代に求められるマネジメントであろう。

すでに時間的な猶予はない

これで向こう10~20年において、企業が取り組むべき重要な課題とその方向感が明らかになった。とはいえ、やっかいなことに人を育成するのはとても時間がかかる。社外の人材とネットワーキングするといった育成以外の手段に頼ったとしても、そうした状況を生み出し・リードする人材が社内に必要なことに変わりはない。

多くの企業がここ10年程度で直面した典型的な課題は、グローバル人材をどのように確保するか、ということだろう。国内市場の成熟化や将来の縮小可能性などを見据えて海外事業を強化しグローバルで稼いでいくというプランをつくった企業は数多いが、そこで深刻な悩みとなっているのが、やはり必要な人材が不足しているということだ。多くの企業にとってグローバルな事業転換のきっかけとなったリーマンショックから約10年が経過する2017年現在でも、多くの企業がその悩みを解消できていない。前述のような次の時代に求められる人材についても、このままでは人材不足が起こることは容易に想像できる。人の確保ができないことが、ビジネスのボトルネックになるのである。

人にしか出来ない領域が企業競争力を左右するとなれば、企業は早期にこの課題に着手する必要がある。テクノロジーが発展・普及しきった後の時代を現段階から見据え、人材に関する打ち手を今すぐにでも講じることが各企業には求められているといえる。しかも競争相手は、同じ学校教育システムや雇用慣行を前提とする日本企業だけではない。時間的な猶予はすでにないのである。

MUFG