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郷原信郎 Headshot

「一発実刑」で清原を蘇らせることはできないか

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2月2日の覚せい剤所持での逮捕以来、テレビのニュース番組やワイドショーは、清原和博元プロ野球選手(西武・巨人・オリックス)の話題で埋め尽くされている(まだ、「容疑者」の段階だが、「清原容疑者」という呼称には、かえって犯罪者的イメージがあるので、以下では、現役時代からの「清原」という呼称を使う。)。

テレビでは、警察の事前リークがあったから撮影できたとしか思えない逮捕後の同行シーンの映像が繰り返し映し出されている。有名人が警察に逮捕されて転落する様を「見世物」にして視聴率を稼ごうとするやり方に、ある種のさもしさを感じるのは私だけではないであろう。

今回の「清原報道」の多くは、大物元プロ野球選手が覚せい剤で逮捕された初のケースのように大々的に扱われているが、実は、過去に、プロ野球において、清原以上の実績を残した大選手が、覚せい剤で逮捕された実例がある。

1993年に覚せい剤の所持で逮捕され、懲役2年4月の実刑判決を受けた江夏豊氏(現野球解説者、本来「江夏氏」と呼ぶべきだが、同様に、現役選手時代の「江夏」という呼称を使う。)だ。

最多勝2回 最優秀防御率1回、最多奪三振6回、最優秀救援投手5回、MVP2回という輝かしい戦績に加え、1979年の日本シリーズ最終第7戦、1点リードの9回裏に一死満塁のピンチで、三塁ランナーがスタートしたのを見て、指先だけのコントロールでスクイズを外して併殺に打ち取り、広島を日本一に導いたシーンは、多くの野球ファンの脳裏に残っている。間違いなく球史に残る名投手だ。通算本塁打525本(歴代5位)を放ったものの、無冠に終わった清原とは比較すべくもない。

その江夏が逮捕されたのが現役引退後8年目、容疑は「覚せい剤所持」、いずれも今回の清原と全く同じだ。江夏は覚せい剤の所持量が多かったことなどから、いきなり実刑判決を受けて服役した。しかし、服役後、覚せい剤と絶縁し、見事に社会復帰を果たした江夏は、野球解説者や指導者として今も活躍している。

覚せい剤事犯の再犯率は極めて高い。江夏のケースは数少ない成功例と言ってよいであろう。なぜ、覚せい剤から立ち直ることができたのか。本人の強い意志があり、支援する人達の努力があったことはもちろんであろうが、初犯で実刑という思い切った量刑が行われ、江夏もそれを受け入れて服役したことで、一定期間、物理的に覚せい剤から隔絶されたこと、刑務所の規律の下での規則正しい生活で健康状態が劇的に改善したことが、江夏を見事に蘇らせることにつながったと考えられる。

覚せい剤事犯の場合、初犯に対しては、ほとんど執行猶予の判決が出される。そして、多くの者が、執行猶予中に再び覚せい剤に手を染めて有罪判決を受け、執行猶予が取り消され、新たな事件の懲役に、前の事件の懲役が加算され、かなり長期の受刑となる。いきなりの長期の服役で更生の意欲が失われてしまうことも珍しくない。

「初犯⇒執行猶予」「再犯⇒実刑・初犯の執行猶予取消」というお決まりのパターンが、かえって、覚せい剤事犯者の社会復帰を妨げているとも言える。

清原の場合も、数年前から覚せい剤の影響と考えられる奇行が目立っていたと言われており、覚せい剤への精神的依存性は相当高いと思われるが、初犯なので執行猶予となる可能性が高い。執行猶予であれば、服役はせず、社会内で生活できることになるが、もちろん、社会の表舞台で働けるわけはない。

もともとの知名度の高さに加え、今回、これだけテレビで顔を露出させられた清原が、普通の社会人として暮らすことは困難であろうし、結局、どこかに閉じこもって失意のうちに時を過ごすことになる可能性が高い。そのうちに再び覚せい剤に手を染める、というパターンで再犯に及んでしまうことが強く懸念される。

江夏の成功例を見る限り、清原の場合も、初犯であっても、1年程度の実刑とし、一定期間矯正処遇を受けさせることが、逆に、社会復帰の可能性を高めることになるのではないか。

執行猶予を付するか実刑にするかは裁判官の裁量だ。覚せい剤事犯は、それ自体は一般的には被害者がいない犯罪であり、裁判官として初犯に実刑を言い渡すことに抵抗があるのは理解できる。しかし、本来、執行猶予は、社会内での処遇が本人の更生に資すると確信がもてる場合に言い渡されるべきだ。社会に戻ることで逆に再犯の可能性が高まると考えられるような場合にも、形式的・機械的に執行猶予の恩典を与えるのが果たして本人のためになるのだろうか。

清原を裁く裁判官に、球史に残る名投手江夏豊に一発実刑を言い渡した裁判官と同様の英断を望むことはできないだろうか。

(2016年02月12日 「郷原信郎が斬る」より転載)

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