控訴審で「立ち往生」する検察~明日から元特捜部長控訴審公判

6月17日午後2時から、大坪弘道元大阪地検特捜部長の控訴審第1回公判が開かれる。昨年5月に控訴審の弁護人を引き受け、大坪氏とともに最高検と戦うことを宣言して以来1年余、控訴趣意書、控訴趣意補充書(検察官の答弁書に対する反論)、検察の釈明に対する意見書など「書面での戦い」を展開してきたが、明日、控訴審公判廷での戦いの火蓋が切られる。

(この記事は、6月16日の「郷原信郎が斬る」からの転載です)

明日(6月17日)午後2時から、大坪弘道元大阪地検特捜部長の控訴審第1回公判が開かれる。昨年5月に控訴審の弁護人を引き受け、大坪氏とともに最高検と戦うことを宣言して以来1年余、控訴趣意書、控訴趣意補充書(検察官の答弁書に対する反論)、検察の釈明に対する意見書など「書面での戦い」を展開してきたが、明日、控訴審公判廷での戦いの火蓋が切られる。

一審有罪判決に対する弁護人側控訴の事案にしては異例とも言える、公訴事実に関する裁判長からの検察官への求釈明に対して、検察官がほとんどまともな釈明ができなかった経緯もあり、控訴審の展開は予断を許さない。

大阪地検特捜部を含め、特捜検察を徹底批判してきた私は、村木氏冤罪を招いた郵便不正事件捜査の真相を徹底検証し、検察の抜本改革に結びつける必要性を訴えてきた。そういう意味では、「郵便不正事件捜査を指揮した大阪地検特捜部長としての大坪氏」を支持するものではない。

しかし、その大坪氏は、部下の特捜部主任検察官による証拠改ざんという問題に対する危機管理対応で、犯人隠避の罪名で斬り捨てられた。長年所属してきた「検察の論理」に従い、組織防衛のために行った対応を、検察は、その独占する公訴権の「刃」で斬り捨てたのだった。そのようなやり方は、検察の歴史に重大な禍根を残すだけではなく、検察不祥事の本質から目をそむけ、検察の抜本改革を妨げるものでしかない。

私は、そのように考え、大坪氏の弁護人に加わり控訴審の公判で検察と戦うことを決意し、それから一年余、私は、大坪氏の弁護人としての活動を行ってきた。

検察は、検察官の職務行為について犯人隠避罪の成立の範囲に関する法律解釈上の検討も、前田の故意改ざんについて、副部長の佐賀氏から部長の大坪氏にどのような報告が行われたのかについての証拠上の検討も行うことなく、拙速に、大坪氏と佐賀氏を逮捕した。

本来、捜査権限の行使や上司への報告という検察官の職務行為そのものを犯罪行為ととらえて起訴したのであるから、検察内部における職務の実情を明らかにし、大坪氏の対応が検察官の一般的職務行為からいかに逸脱しているのかが最大の問題になるはずだ。ところが、検察は、一審では、「被告人大坪氏は、副部長の佐賀氏から、前田が故意改ざんを告白していると報告を受け、前田の故意改ざんを確定的に認識したのに、証拠隠滅について捜査せず、過失ストーリーで上司に虚偽報告したのだから、検察官の職務から逸脱していることは明らかだ」という理屈で、その点を見事に誤魔化した。

そのような検察の主張では、大坪氏の犯人隠避罪の成立は到底認められないことを、私は、控訴趣意書と控訴趣意補充書で徹底して明らかにした。しかし、検察の答弁書等での対応は、ほとんど一審論告の繰り返しに過ぎなかった。その「ごまかし」を厳しく指摘した控訴趣意補充書に、検察は沈黙した。そして、裁判長からの公訴事実に関する求釈明にもほとんど意味のない釈明しかできなかった。まさに、検察は、控訴審を控えて立ち往生しているようだ。

そのような検察の姿勢は、昨年9月に出版した拙著【検察崩壊 失われた正義】(毎日新聞社)で指摘した、虚偽捜査報告書作成事件等の陸山会事件不祥事に関する最高検報告書の「詭弁」「ごまかし」と相通ずるものであった。

検察は、大阪地検のみならず東京地検特捜部でも「割り屋」として重用した前田検事が証拠改ざん問題を起こすや、「トカゲの尻尾切り」を図ったが、社会的非難の大きさに慌てふためき、大阪地検特捜部長以下の「足」を斬り捨てて逃げ切ろうとした。一方、陸山会事件の不祥事では、検審騙しを画策した疑いが強い特捜部長等の上司の責任は不問にして、田代検事という「尻尾」だけを依願退職という決着で切り離して、開き直った。そこに共通するのは、問題の本質に向き合うことなく、「その場しのぎ」で、ごまかそうとする姿勢である。

今回の事件で、私が弁護人を引き受けるに当たって、大坪氏は、郵便不正事件および証拠改ざん問題に関して真相を明らかにし、反省すべき点は反省すること、村木氏への謝罪等にも真摯に対応することを約束したが、残念ながら、その点については、進展があったとは言い難い。

しかし、検察は、「故意改ざんの過失へのすり替え論」だけにこだわり、私が控訴趣意書で詳細に述べた、証拠改ざん問題についての大坪氏の特捜部長としての対応が、検察官の一般的職務行為から逸脱しているかどうかという点に関しても、全く何の反論も立証もしようとしていない。現状においては、犯人隠避の容疑で逮捕・起訴されて「斬り捨て」られ、検事生命を奪われた被告人大坪氏にとって、その汚名を晴らすことがすべてで、郵便不正事件の捜査の反省・総括に正面から向き合うことができないのも致し方ないだろう。

明日の公判では、弁護人の私の方から20分間の控訴趣意書、補充書に関する口頭陳述と、約1時間の大坪氏への被告人質問を予定している。その中で、大坪氏を犯人隠避で逮捕・起訴した検察の捜査・公判がいかにデタラメかを、一般の人にもできるだけわかりやすく説明したいと考えている(私の陳述内容については、当ブログで公開の予定)。

(この記事は、6月16日の「郷原信郎が斬る」からの転載です)

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