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「事業の検証と責任追及」についての小池知事と五十嵐市長の決定的な違い

2017年04月22日 00時34分 JST

4月19日、私が委員長を務めたつくば市の総合運動公園事業検証委員会の報告書が公表された(全文がつくば市のHPで公開されている)。

この事業は、前市長時代に市議会もほぼ全面支持で事業計画が立案されたが、約66億円でUR(都市再生機構)から用地を買収する議案承認の段階で議会の賛否が拮抗、僅差で可決されたものの、その後市民から反対運動が高まったことを受けて市議会で住民投票条例が可決され、投票の結果、事業が白紙撤回に追い込まれた。

住民投票の結果を受けて、市原前市長は、4選目の不出馬を表明、昨年11月13日に行われた市長選挙に立候補して当選したのが、市議会議員として反対運動の中心となっていた五十嵐立青氏だった。

白紙撤回された総合運動公園事業の検証を行うことは、五十嵐市長が、市長選挙の公約にも掲げていたものだった。市民の代表である前市長が計画を進めようとした事業計画が、同様に市民を代表する市議会からの反対と、住民投票で示された民意によって白紙撤回に追い込まれた経過を、市長選挙で示された民意に基づいて検証したというのが、今回の検証だ。

つくば市の総合運動公園事業をめぐる問題は、当該地方自治体にとって大規模な事業であり、その事業の是非について激しい意見対立があった点、対応方針が新旧首長で大きく異なっている点において、東京都の豊洲市場問題と共通している。

五十嵐現市長は、つくば市の総合運動公園事業の計画に対する反対の立場で、この事業を最終的に住民投票によって白紙撤回に追い込む側の中心であった。結果として、つくば市には、URから約66億円で買収した土地が、当面使う予定のない市有地として残っている。

一方、東京都の豊洲市場への移転問題については、話が持ち上がった当時から、土壌汚染の問題がある工場跡地に生鮮食品の市場を整備することについて反対論が根強くあったが、豊洲への移転を決定した石原慎太郎氏から猪瀬直樹氏、舛添要一氏まで歴代の知事は、一貫して豊洲への市場移転に積極的だった。

舛添氏の辞任を受けて行われた都知事選挙で当選し、昨年7月31日に小池百合子氏が都知事に就任した時点では、豊洲市場の施設はほとんど完成し、11月7日の移転を待つのみであったが、8月31日、小池都知事は、豊洲への移転延期を発表し、その後、一貫して移転に慎重な姿勢をとり続け、都知事の側近から築地市場の再整備の試案が公表されるなど、現在も、市場移転問題をめぐる混乱は続いている。

つまり、小池都知事は、前任までの都知事とは、豊洲市場問題に対する姿勢が大きく異なるのであり、同じ自治体において、現首長が前任までの首長とは異なった方針に転じたという点では、つくば市の五十嵐市長と前市長の関係と同じなのである。

新たに就任した首長が、当該自治体の行う大規模事業に対して何らかの見直しを行おうとする場合、それまでの首長が行ってきた事業の経緯やその問題点を把握し、自らの首長としての対応を決定していくことになる。

ここで重要なことは、首長の対応をいかにして、客観化し、適正な手続で進めていくかだ。

【「小池劇場」の"暴走"が招く「地方自治の危機」】でも述べたように、日本の地方自治制度において、直接選挙で選ばれる首長の権限は絶大だ。議会には予算の提出権がなく、首長側が独占しているという意味では、米国の大統領よりも権限が強い。その首長が選挙によって交代し、当該自治体の運営や事業の執行に関して、前任者とは異なった方針で臨もうとする場合、非常に困難な問題が生じる。

前任者までの首長も、同様に「強大な権限」に基づき既に決定し執行した事業なのであるから、同じ地方自治体という組織の後任の首長も、一度法的に生じてしまったものを覆すことはできない。後任者の首長は、同じ組織を継承した者として、前任者までに生じた法的効果を継承して、自治体の運営と事業の執行に臨まざるを得ないのである。

つくば市の総合運動公園事業については、五十嵐市長の就任時点で、住民投票によって白紙撤回が決まっていたが、前市長の時代に市が約66億円の予算を投じて行ったURからの用地の購入は、市長が変わったからと言って、無かったことにはできない。東京都の豊洲市場の問題についても、小池知事が移転を延期した時点で既に6000億円もの費用が投じられて市場の施設のほとんどが完成しているという事実がある。

五十嵐市長の総合運動公園事業への対応も、小池知事の豊洲市場問題への対応も、それだけの費用を投じて既に土地を購入したり施設の建設が完了したりしていることを前提にせざるを得ない。

このような場合、前任者までの首長とは意見を異にする首長としては、対応方針の転換によって自治体に多額の損失が生じる可能性があるため、前任者までの首長の対応の誤りや問題点を強調し、その責任を強調することになりがちだ。

その点、つくば市の総合運動公園事業に対して、五十嵐市長が就任後に行ったことと、小池知事が就任後に豊洲市場問題に対して行ってきたこととの間には大きな違いがある。

五十嵐市長は、市民に公約した事業の検証を、条例に基づく「第三者委員会」としての検証委員会を設置して、独立かつ中立の機関による客観的な調査に委ねた。重要なことは、条例の制定という形で、もう一つの市民の代表である市議会の了解を得た上で検証委員会を設置したこと、しかも、事業の経緯についての事実調査、原因究明等について、独立性、中立性を確保し、自らの意向とは完全に切り離した形で検証が行われたことだ。

一方、小池知事は、豊洲への移転延期の決定を、全く都議会に諮ることなく独断で行った上、「市場建物の地下に『盛り土』が行われていなかった問題」についても、条例上の根拠も何もない「専門家会議によるオーソライズ」を金科玉条のように扱い、移転の延期を正当化する事後的な根拠にした(【豊洲市場問題、混乱収拾の唯一の方法は、小池知事の"謝罪と説明"】)。

そして、豊洲市場への移転延期で膨大な損失が生じていることに関して、移転を決定した石原氏の責任追及を行うべく、石原元都知事の損害賠償責任を否定していた従来の都の対応を見直す方針を明らかにし、訴訟代理人も交代させている。それも、小池氏自身の独断で決めたものであり、第三者による客観的な検証は全く行われていない(【「小池劇場」の"暴走"が招く「地方自治の危機」】)。

つくば市総合運動公園事業検証委員会発足時点の記者会見で、五十嵐市長は、「検証委員会設置は、責任追及を目的とするものではない。」と明言していたが、委員会としては、市原前市長が何らかの個人的動機によって事業を行おうとした疑いや、本件土地を売却したUR側と市との間に何らかの不透明な関係、癒着関係等の疑いが指摘されていたことも踏まえ、その点も念頭においた調査を行った。

その結果、「本件検証における調査結果からは、個人的な動機が介在した事実や不正の事実等は認められなかった」との結論に至り、「本件をめぐる問題は、二元代表制の地方自治制度の下で、首長や執行部が大規模事業の実施を決定し、事業を遂行していくことに関して、民意の把握、市議会や市民への説明等に関して不十分な点があった場合に、行おうとする事業の規模・性格や首長と議会との関係等の要因如何では、計画どおり事業を遂行することが不可能な事態に追い込まれることもあり得ることを示すもの」と分析したうえで今後のつくば市の事業への対応についての提言を示した。

つくば市においては、市を二分した対立には一応の決着がつき、今回の検証結果が、今後、市が行う大規模事業において教訓として活用され、市長と市議会との健全な関係と、民意を尊重した市政が展開していくことが期待される。

それと全く対照的なのが小池知事のやり方である。豊洲市場問題の混乱を招き、市場関係者や都民に膨大な損失を生じさせ、独断で過去の知事の責任追及の方針を示すことで市場問題への自らの対応への批判をかわそうとする小池氏は、「東京大改革」どころか、「都政の破壊活動」を行っているに等しい。東京都民の一人として、極めて憂慮すべき事態と言わざるを得ない。

(2017年4月21日「郷原信郎が斬る」より転載)