名前負け?国際大学(IUJ)がキャンパス内の「性暴力」へ取り続ける「非国際的」な姿勢

IUJがとった対策は全く不適当です。

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2015年12月19日午前4時ごろ、国際大学(IUJ)構内において、女子学生が自分の寮室にいたところ侵入した男子学生から性暴力を受けた、とされる事案が生じました。

これまでにIUJがとった対策は全く不適当です。

それは、事案そのものにも、被害者の取り扱いにも、また在学生、同窓生(一部同窓生が署名し提出した要望書はこちら)や一般社会への説明(私が出した公開書簡はこちら)にも当てはまります。

被害者への責任転嫁、学生への圧力、隠蔽といった疑惑を払拭できないことは、世界を目指すIUJにとって大きな痛手です。

IUJのプレスリリース

IUJは7月19日に日本語のプレスリリースを、そしてその翌日には非公式な英語訳を、それぞれ大学ホームページへ掲載しました。

私が前者を不十分と考える理由はすでにこちらでお話ししました。

IUJが7月20日に発表したプレスリリース(日本語版はこちら、英語の非公式版はこちら)がどこまで踏み込むか 、大きな焦点となりました。

結論からいうと、期待は裏切られました。

「主観的要素」の扱い

7月19日付のプレスリリースは、大学の審議が「主観的要素を排し調査において事実と認定しうる要素のみに」基づいて行なわれた、としています。

しかし、非公式の英語版を見てみますと、全く正反対のことが書かれています。

問題の部分はここです。「After deliberating on this matter based only on the information that can be acknowledged as fact from the available and subjective elements ...」

これを日本語にすると、「入手しうる主観的要素から事実と認定できる情報に限って本件を審議した結果...」といった感じになります。

被害者の主観的見地を排除してしまっては、性暴力の事実解明は難しくなってしまいます。

この事案では、女子学生自身による説明が無視あるいは過小評価される一方で、男子学生の「誘惑された」という主観的な主張が重点的に考慮されたり、それを裏付け被害者を不利にする証拠集めをわざわざ学長が指示したとする情報があったり、ということが不可解でした。

ところが、少なくとも英語版のプレスリリースによれば、実はIUJは主観的要素を考慮したことになります。

これが本当なら、調査委は、女子学生側の考えを一体どのくらい考慮したのでしょう。

証拠取り扱いの基準をめぐる説明がこれほど矛盾するとは驚きです。

こんな様子だと、調査委が本当に所定のルールや手続きに従って業務を進めたのか、あるいはルールや手続きが初めからあったのか、さえ定かでなくなります。

報道からは、調査委のメンバーでない学長が関係者と面談し、委員会への介入を試みた、という疑惑も生まれます。

そんな調査委が出した事実関係の結論は信用できません。

学長が送ったとされる「パワハラ」メール

朝日新聞は次のように報道しました。

女子学生は「不公平な調査で女性蔑視だ」と反発。友人らと、追加の調査や男子学生の退学を求める署名を集め始め、調査委に再調査を求めたが、調査委は再調査をせず、男子学生は3カ月の停学処分となった。学長は今年1月10日、全学生にメールで処分内容を知らせた上で、「いかなるうわさの流布や名指しの批判、報復も許されない」「このような行いをした者は即座に大学から追放されうる」と記した。

学長のメールを受け、署名活動は中止された。署名に応じた男子学生の1人は朝日新聞の取材に「とても怖かった。事実関係をあいまいにし、被害者を責めるような調査は不満だが、卒業できないと自分の人生が狂ってしまう」と話した。

IUJが出した2回目のプレスリリースでは、違った説明がなされています。

事実関係に関する誤解を回避し、不要な誹謗中傷や噂の流布による学内の不安除去を図った...本件に関し、前述の暴力的行為による備品損壊事案の他、不正なメールアカウントの使用、関係者のプライバシーに関する情報の流布などが散見されたため、行き過ぎた行為に対しては、「学生の懲戒に関する規定」に基づき「退学」「停学」「譴責」の処分があり得ることを前提として、学則に基づき「速やかな退学処分もあり得る(could face immediate expulsion)」という表現で警告した。

1月初中旬、学生間に見られた不安は、本学としての措置事項の周知などを通じて収拾し、平穏に復帰した。

一つめの違いは、警告の対象となった行為です。

報道によれば、対象となったのは「いかなるうわさの流布や名指しの批判、報復」です。これに対し、プレスリリースは「不要な誹謗中傷や噂の流布」や「行きすぎた行為」だった、としています。

学生が「追加の調査」や「男子学生の退学」を求める署名活動を中止したのは、「学長のメールを受けた」ためでした。

これは、警告が「暴力的行為による備品損壊」「不正なメールアカウントの使用」「関係者のプライバシーに関する情報の流布」などの行為に対して出された、とする大学当局の説明と相いれません。

二つめは、課されるとされた懲戒の内容です。

新聞記事は、「即座に大学から追放されうる」という警告であった、と書いています。プレスリリースは、これと同様の表現が使われたこと自体は否定していません。

むしろ、IUJの言い分は「速やかな退学処分」という表現が退学のみならず、「停学」「譴責」といった退学未満の処分も含んでいた、というものです。

しかし、署名活動中止は不満だが「卒業できないと人生が狂ってしまう」と朝日新聞に話した学生が、「速やかな退学処分」は「速やかな退学あるいはそれ未満の処分」だったと考えた、とは思えません。

警告は、ただでさえ誤解を招きやすい代物です。

「速やかな退学処分」が、実は即時退学よりも軽微な処分の可能性も示唆していて、また、それを受け取った学生が、動揺と不安に駆られながらも、なぜか冷静に規則を参照してそれをきちんと理解した、と考えるのには無理があります。

IUJの説明は独りよがりで、受け取った側の事情や心理を無視している、といえます。

警察との「連携」

朝日新聞の記事も、IUJの一回目のプレスリリースも、警察には全く触れませんでした。

二回目のプレスリリースには、「警察...と連携」という表現が3回、また「刑事事件」という表現が1回、使われています。

ところが、一箇所を除いて、連携の内容については全然説明がありません。例外はこれです。

1月初旬以降、[男子学生と女子学生]の友人の間で感情的な対立が顕在化し、1月6日、[女子学生]に同情的な男子学生...が暴力的な行為により本学の備品を破壊するなどの事案が生起した。これに関しては、本学としては、警察当局に対し被害届を提出するなど所要の報告を行うととともに...再発防止及び関係者に対する懲戒に関する措置を講じた。

警察に報告・提出物があったことがはっきり分かるのは、ここだけです。

性暴力については、「連携」が具体的に何を指すのか全く読み取れません。

リークされた情報を読み解くと、次のような疑問が出てきます。

  • 世評の悪化や奨学金収入の減少を恐れ、性暴力の事案へ警察が関与するのを極力避けようとした
  • IUJが1月4日に警察へ連絡したのは、性暴力の事案を通報するためではなく、警察から大学による調査以上のことをするのが難しい、という「言質」を取るためだった
  • 被害者が警察へ被害届を出さないよう、被害者本人だけでなく、彼女の父親への説得を試みた
  • 後に、被害者が大学の姿勢に不信感を抱いて警察へ被害届を出す考えを示すと、それは権利だとは認めながらも、捜査に伴う恐怖、不安、ストレス、重荷、恥辱などの苦痛を和らげ、被害届を出す上で心理的負担を少しでも軽くするようなサポートは申し出なかった

まるで他人事のようなIUJの態度は、プレスリリースの一節によく表れています。

本学として、本件は刑事事件に発展する可能性が否定されないものと認識しているところであるが、本件に関して被害者側から被害届が提出されたという事実は承知していない。

「国際」大学がとるべき道

二回目のプレスリリースにはもう一つ特徴があります。

それは、関連規則や所要の手続きがよく引き合いに出されることです。

しかし、そうした規則や手続きの内容は全く分からないままです。説明されているさまざまな行いが、義務なのか任意なのか、あるいは許可されているのか禁止されているのか、知るすべがありません。

これでは、IUJ側がいくら確立したルールに則って行動していると言っても、私たちにはそれが本当なのかチェックすらできません。

ある意味では、この不透明さこそが、今回の事案を通じてIUJが示した最大の難点です。

皮肉なことに、大学が釈明すればするほど、問題は深まるばかりです。

IUJプレスリリースは、どちらも嫌々出された印象を受けます。まるで、出す度にそれがこの問題に関する最後の声明となり、一刻も早く忘れ去られることを願っているようです。

IUJが世界有数の大学院と肩を並べたいのであれば、ゼロトレランスを徹底し、学生の尊厳を重んじ、大学を公正に運営する、といった一流どころの常識を実践すべきです。

ディスクロージャー

2005年から2015年にかけて、私はIUJ客員教授として国際公法、国際人道・刑事法と国際武力行使法を講義しました。昨年末、IUJから2016年の春学期は私を客員教授として委託する予定がない旨通知がありました。(たとえ委託の打診があっても、今年は家族の事情により承諾することはできませんでしたが。)

私は件の性暴力があったとされる事案の当事者とも、また少なくとも私の知る限り対応に関わったIUJ当局関係者とも全く面識がありません。今となっては、元客員教員だった第三者として、ただ心配しながら成り行きを見守る身です。

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