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証拠は語る①「性暴力」被害者提供の資料があぶり出す国際大学(IUJ)の闇 ― 警察関与の忌避

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昨年暮れ、新潟県南魚沼市にある国際大学(IUJ)キャンパス内で起こったとされる性暴力。今年の7月に朝日新聞が報道して以来、IUJはプレスリリース二度出すことで事態の収束を図ろうとしました。

これに対し、私は二本ブログ公開書簡を通じ、IUJ当局がこれまで取り続けてきた不誠実・不明瞭な対応を批判し、情報公開を求めてきました。

最近、私は被害者が保有する資料の提供を受けました。そして、彼女の同意に基づき、それをテーマ別に整理・公開し、コメントを添えたウェブサイトを立ち上げました。

そこに現れるのは、すでにあった警察忌避や責任転嫁、といった疑惑を裏付ける証拠だけではありません。大学が設置した調査委員会の手続き不履行や、学長による調査業務介入など、新たな問題が浮かび上がってきます。

筆者注:公開資料やウェブサイトはもっぱら英語で書かれており、また情報がかなりの量に達するため、このブログではその内容を要約します。英文和訳はすべて筆者個人によるものです。

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公開された証拠は、IUJがとった対応に重大な欠陥があることを明らかにしています。それは、大きく分けて

三点です。

...

今回のブログでは、第一点に関する資料を検討します。

IUJ当局は、①警察への通報を避け、あるいは先延ばしにし、②被害者が自ら被害届を出したり、加害者を告訴したりしないよう圧力をかけ、③警察関与が被害者の利益に沿うかどうかについて、学内外で矛盾した説明を繰り返しました。

通報回避・先延ばし

公開された資料からは、加瀬学長をはじめとするIUJ関係者が、この案件が警察沙汰になるのを極力避け、また先延ばそうと腐心していた様子がうかがわれます。

被害者とのインタビューで「警察に被害届をだしたいか」聞くべきか、というK准教授の問い合わせに、加瀬学長は「現時点では、調査委員会が通報必要と判断するまで学内に留めておくべきです」と答えました。

さらに、加瀬学長は「警察への通報:状況が明らかになるまで、私達は警察へ通報するべきではありません。通報した途端、この件は私たちの手に負えなくなり、自由裁量権を行使できなくなるでしょう。」というメールを送りました。これに対し、ラジャセケラ副学長は「そのとおり、警察に報告するのは極端です」と応じています。

また、被害者・加害者間での脅し合いが伝えられると、加瀬学長は

アフガニスタン人学生と[匿名]の対立で、揉め事がまた一つ増えました。これでは、警察沙汰になって何をするにもまず地元警察に報告しなければならない、ということになりかねません。もしそんなことになったら、私たちは、この問題が手に負えなくなり明るみに出る覚悟をしなければなりません。とんだ混乱になりつつあります。

と危機感を募らせました

その翌日、加瀬学長は警察関与に関しメールをさらに二通送りました。一通目には、

皆さん、次の点に留意してください。
警察への通報とそれに続くこの問題のメディア報道は、間違いなくIUJの存続を脅かすような形で奨学金収入に影響を与えるでしょう。

と記され、二通目には、

この件に関して見解を統一させましょう。
この案件は爆弾のようなもので、爆発すればIUJの名声が傷付き、奨学金取り消しや出願者数の減少へと繋がるでしょう。調査委員会が事実を確認して勧告を行い次第、私達は関連当局(警察?大使館?奨学金交付元など)へ報告し、(寮が今後さらなるスキャンダルの温床と成り得ることを考えると)寮運営を改革する必要に迫られるでしょう。

と書かれています。

リー国際経営学研究科長は、一通目のメールに「私は、警察への通報は最後の手段であるべきだと考えます。こうしたニュースは多くのジャーナリストの間で需要が高いのです。」と返答し、加瀬学長に同調しました。

IUJが設置した調査委員会の審議前日、当時委員長代理を務めていたK准教授はアジェンダの草案をメールで回覧しました。その中に、

C. 警察へ大学からの通報
遅かれ早かれ行う。最大限遅くなっても4日のミーティングの後。

という項目があります。

しかし、調査委会合の後、K准教授は加害者に奨学金を支給していた日本国際協力センター(JICE)と国際協力開発機構(JICA)に経緯報告のメールを送り、そこで「国際大学から地元警察へ『報告』をしました。これは被害届ではありません。」と明言しています。

こうした経緯を踏まえると、IUJ当局が地元警察に行った「報告」とは、この案件に対して大学がとった対策(例えば調査委の活動、審議、勧告など)の説明であり、犯罪の疑いがある事件としての通報や、事実解明へ向けた警察の協力要請ではなかった、と考えるのが自然です。

その後、O事務局長は、大学の顧問弁護士から「マスコミに知られるようなことがあってはいけないので十分注意をするよう」アドバイスを受けたことを加瀬学長その他の教職員へ伝えました。また事務局長は、南魚沼警察署担当官へ「被害者が告発した場合の流れ」を聞いた話も紹介し、「IUJとしては、できるだけマスコミに報道されるような事態は避けたいと思います。」と結論付けました。

ご覧のように、IUJ当局が最も恐れていたのは、警察関与に続く自由裁量権の喪失やマスコミの報道、またそれによる世評の悪化、そして出願者数・奨学金収入の減少だったのです。

被害者への圧力

加瀬学長が警察へ届け出ないよう圧力をかけたのは、被害者側と加害者側で諍いが起こったのが始まりでした。学長は両者にメールを送り、このままでは「大悲劇を避ける(さもなければ私たちが責任を取らされるでしょう)ためにIUJが警察へ通報せざるをえなくなり、そうなるとこの件が明るみになって私たちの手に負えなくなります。だから自重してください。」と戒めたのです。

被害者は、「私は、もうこれが公になるのは問題だと感じません。もし大学がきちんと解決できないのであれば、私が警察へ届けます。そうすれば警察もこれに限らず他の件も捜査できるでしょう。」と返答しました。

これに対し、加瀬学長は「警察への通報はこの件をさらに複雑にするでしょう。悪評が立てば、私たち、あなた、IUJその他みんなが損害を被るかもしれません。あなたは警察から厳しく尋問されるでしょう。」と通報しないよう改めて働きかけました。

IUJ当局が警察と連絡を持った後、O事務局長は南魚沼警察署担当官から受けた電話の件を報告しました。この報告からは、

被害学生のケアのひとつとして、警察には被害を訴えることのほかに、「相談」の機能があるので、そのことを伝えてほしいとの要望がありました。「生活安全課」というところで相談していただければ、何かできることがあるかもしれない

ということ、またこの情報に接したO事務局長が、考えた末、IUJ学生センター職員のS氏に連絡して、「被害者女性にそのことを伝えていただくようお願い」したことが分かります。

警察は、わざわざ「被害を訴えること」を選択肢の一つとして示し、それと併せて「相談」の機能があることを伝えてほしい、とO事務局長へ要望しました。さらに、O事務局長はその要望を被害者へ伝えるようS氏へお願いしました。

しかし、S氏がそれを正しく被害者へ伝えた形跡はありません。

S氏は、同じ日に被害者へメールを送り、またそのメールをあえてO事務局長にコピーしました。その中で、S氏は

  • IUJがこの案件を警察へ通報し、大学当局がどう対応したか報告した
  • 本人が望めば、警察が安全対策や自衛策について被害者の相談に乗る準備がある

ということを伝えました。上記の通り、IUJ当局が「この案件を警察へ通報した」("IUJ reported this incident to the police")という表現には疑問が残りますが、むしろここで重要なのは、警察から申し出があったとされたのは「相談」の機能のみで、S氏は「被害を訴えること」に全く言及しなかった、という点です。

その後、被害者は「助言を得るために警察と話をする」("talk to the police for advice")という申し出を断りました。これを以って、大学の勧めにもかかわらず、被害者自らが警察へ被害届を出したり加害者を告訴したりしないことを選んだ、とはいえません。

さらに、被害者の父親が訪日することがわかると、加瀬学長はO事務局長に「警察としてはIUJの判断基準となった事実以上のことは調べるのは難しいだろうというなんらかの言質(?)を貰う」よう指示しました。

これに関する事務局長の報告では、警察は「大学の処分の判断としては、妥当なところだと考えますが、それを文書なりで警察が証明するのは、できません」という見解でした。

「言質」を巡るIUJ当局の動きは示唆に富んでいます。なぜ、加瀬学長は被害者の父親による訪問に先立って警察から「言質」を得ようとしたのでしょうか。それは、被害者側が被害届の提出や告訴に踏み切って捜査に発展した場合、大学側の説明にそぐわない事実が明らかになったり、またそれにより大学の対応が問題視されたり、という事態を恐れて先回りした、と考えるのが合理的です。

実際、加瀬学長に宛てた書簡で、被害者の父親は「IUJと私達の間で意見の相違がある場合、法的手段へ訴えること、また在東京インドネシア大使館を通じて警察へ通報することも検討する」旨を伝えています。

矛盾した説明

IUJ当局内では、警察沙汰にしないのは被害者自身のため、という見方が広く共有されていました。

加瀬学長は、一部教職員宛にメールを送り、「事件の朝、被害者が友達に対して発言したという件(つまり、むしろ楽しんだ云々。)」を証人から聞き出すこと、また被害者の父親に対し「加害者、被害者の行動についての情報、事情聴取は存在するが、公にすると加害者だけでなく、被害者にも悪い事情があるので、使わなかった」と理解を求めること、を指示しました。

また、O事務局長はIUJ顧問弁護士の話として、「警察に告訴するのは本人の意志でやればよろしい」「その際は被害者も調書をとられ、詳細な事実関係の調査があることを被害者に伝えておくように」というアドバイスがあったことを報告しました。

さらに、K准教授は、高橋国際関係学研究科長に次のように述べました

現状ですが、追加の証言を集めたところ、被害者の部屋に加害者は無断ではいったのではなく、しかも被害者は加害者をベッドで横に寝せたのです。大学がこの証言を追加考慮すれば、被害者の立場は弱くなるでしょう。

警察に関して、私たちは被害者に警察に被害届を出したければ出せば良い、といっています。ただ被害者はその結果どれだけの尋問と心理的辱めを事実上受けることになり、それが結果的に自分に不利になるか理解していないのです。不利というのは、現状からして警察でさえ強姦容疑認定さえ難しいでありう状況の中、被害者の考える正義は得られないであろうということです。

ところが、当局が対外的に行ってきた釈明はこれと正反対です。

例えば、JICEJICAに対し、K准教授は「被害者のインドネシア人学生が被害届を後日もし出すことになっても、大学としてはその決定を勿論尊重する」と説明しました。

懲戒措置発表の後、ラジャセケラ副学長がIUJ全学生に宛てたメッセージには、「警察には大学からすでに1月4日から3度にわたり報告、相談をしており、必要があれば、いつでも相談に応じる、あるいは被害届の受理も可能であるとの助言を受けており、被害者にはこのことについては既に連絡をしております」とする記述があります。

この最後の点については、上記の通り、被害届に関する連絡が実際にはなかったことが判っています。

ラジャセケラ副学長はIUJ関連のフェイスブックにも寄稿し、「IUJは警察のような捜査をする訓練も受けていなければ設備もなく、もっぱら面接を通じて調査委員会が収集する情報しか扱うことはできません。このような案件では、被害者にその意思があれば警察と接触をとるのが大変好ましい時もあることには賛成です。」との意見を表明しました。また、副学長によれば、被害者は二回にわたり「警察よりアドバイスを受けるよう」助言を受けた、とされています。

また、S氏もフェイスブックで、被害者は少なくとも三度警察へ接触するよう促された、と主張しています

これは要するに、大学の調査能力が限られており、当局は被害者へ警察に赴くよう繰り返し進言したが、結局彼女自身の判断でそうしなかった、という主張です。

しかし、この理屈は破綻しています。

まず、IUJが自力で十分な調査を行えないと本当に考えたならば、なぜ初めから警察に捜査を求めず、学内で穏便な解決を図ろうとしたのか説明できません。

しかも、警察へ被害届を出さないよう被害者へ圧力をかけたのはIUJ当局に他なりません。

さらには 、不誠実な対応に明け暮れるIUJが既に被害者の信頼を失い、大学当局がしたとされる「勧奨」が遅きに失したことも、当時のメールから明らかになっています。被害者は、M講師に送ったメッセージの中で、大学や調査委が見せる偏見と不公平な取り扱いへ懸念を示し、IUJへの不信感に駆られている状況を語っています。

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次のブログでは、IUJ当局がいかに被害者へ責任を押し付け、また被害者や彼女の支持者を沈黙へ追い込んだかを考察します。

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IUJ当局が取った対応に関する不祥事は、もはや憶測・疑惑の段階を過ぎています。私たちは、大学側に情報公開を求めるまでもなく、上記のような事が実際にあったという証拠を目の当たりにしているのです。

IUJに残された道は、責任の所在を明らかにし自浄能力があることを示すのみです。

ディスクロージャー

2005年から2015年にかけて、私はIUJ客員教授として国際公法、国際人道・刑事法と国際武力行使法を講義しました。昨年末、IUJから2016年の 春学期は私を客員教授として委託する予定がない旨通知がありました。(たとえ委託の打診があっても、今年は家族の事情により承諾することはできませんでしたが。)

以前のディスクロージャーには、これに加えて案件の当事者等と面識がないことを記してきました。ただ、被害者と直接コンタクトがあり資料提供と公開同意を受けた以上、この部分はもう該当しません。