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児童養護施設からの進学時に「基金で給付型奨学金」を創設へ

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世田谷区の児童養護施設や里親のもとを巣立つ若者たちが、大学・専門学校に進学する場合に利用できる「月額3万円の給付型奨学金」をスタートさせる準備が整いました。「貸与型」と違い、「給付型」は返済の必要がありません。関係者から強い要望をいただき、2月2日午後の平成28年度(2016年度)一般会計予算案の記者発表で明らかにしました。

「せたがや若者フェアスタート事業」と名づけた支援策について、すでに「月額1万円」程度の低廉な家賃で区営住宅をシェアしてもらう「住宅支援」と、地域で仲間と集い交流することができる「居場所支援」を発表していましたが、これらに進学時の「給付型奨学金」が加わることになりました。ひとりあたり年間36万円になる奨学金の財源は、区の一般会計から5000万円を拠出して基金「(仮称)世田谷区児童養護施設退所者等奨学基金」)を創ることに加えて、区民・事業者からの寄付も募る予定です。以上を予算案に盛り込みました。

2015年春にこの『ハフィントンポスト』でブログ連載を始めてから、もっとも多くの反響をいただいた記事が、『児童養護施設を出る「18歳の春」を孤立させない住宅支援を開始』(2015年9月29日)でした。児童養護施設を退所した後に、支援が途切れてしまうことを何とかしたいという思いをずっと持ち続けてきましたが、予想以上の関心の高まりを感じています。

児童虐待等で親の養護を受けることができない子どもたちは、児童養護施設等で社会的養護を受けることが保障されていますが、高校卒業時の18歳になると施設を退所しなければなりません。大学・専門学校への進学を志す若者も多いのですが、アルバイトをしながら学費・生活費を稼いで就労と勉学を両立させるために、心身ともに張りつめた生活をしなければならず、区内の養護施設出身者の進路でも、大学・専門学校を選んだものの中退してしまう率は大変高くなっています。
児童養護施設を出る「18歳の春」を孤立させない住宅支援を開始

児童養護施設から進学するには、大きなハードルがあります。大学・短大・専門学校への進学率は、児童養護施設退所者で22.6%で、全高卒者76.8%と比べると極めて低いのが特徴です。(平成25年3月高校卒業後の進路・全国比較、出典:厚生労働省雇用均等・児童家庭局家庭福祉課調べ(平成25年5月1日現在))

親との離別・死別、また養育放棄や児童虐待等、子ども自身にとって選択の余地のない境遇から、児童養護施設や里親など社会的養護の枠組みで養育されてきた子どもたちが迎える「18の春」は、とても「フェアスタート」とは呼べない状況です。「18歳の出発」を社会全体で応援し、支えるために、区の拠出金に加えて、広く区民・事業者の皆さんに、基金へのご寄付を呼びかけていきたいと思います。

社会全体でフェアスタートの条件を整えるには、入学金・学費に関わる大学側の努力も必要です。沖縄大学は、2014年から大学独自で児童養護施設退所者や里子を対象にして、4年間の授業料288万円を全額免除する「沖縄大学児童福祉特別奨学制度」を設けています。現在、6名の若者が制度を活用しているそうです。

日本はかつて世界屈指の「経済大国」と呼ばれた時期がありました。ブランド物を争って身につけ、高級品が売れ、車や家をグレードアップすることで物質的な豊かさを享受しようとする時代でした。ところが、社会の片隅にある児童養護施設にいる子どもたちの進路に関心を寄せる人は少なく、社会的養護が「18歳の春」で終了してしまう制度も、これまで改善されませんでした。実のところ経済規模だけが肥大した日本社会の水準は、けっして高いものではなかったのではないかと思います。

1月31日、日曜日の午前10時の日本大学文理学部百周年記念館国際会議場(世田谷区)には熱気が立ち込めていました。日大文理学部と世田谷区の共催による「フェアスタートへの第一歩 世田谷区の取り組み〜施設・里親を巣立った子どもの自立シンポジウム」の会場には、約250人の学生たちや区民が集まりました。日大文理学部では、過去10年間にわたって、児童養護施設や母子生活支援施設、ひとり親家庭の子どもたちに対する学習支援を「桜んぼ塾」として継続しています。

こうした活動によって、大学生にふれて、また大学に対する親しみもわいて「進学」を志すようになる子どもたちもいますが、入学金・学費・生活費と立ちはだかるハードルの高さを前に簡単に進学を進めることができない状況があったそうです。今回の集まりは、そうした中で、日大文理学部社会福祉学科の井上仁教授が世田谷区の取り組みに注目して、世田谷区と共同企画したものでした。児童養護施設を出てアルバイトしながら大学に通う若者からの報告があり、大学や児童養護施設、里親、そして私も参加して議論を重ねました。新しい政策のスタートにあたって、多くの方々の関心を集めていることを実感しました。

昨今の議論を受けてようやく、厚生労働省は「20歳まで」の措置延長を検討しだしています。(「20歳未満まで養護施設に 児童福祉法改正へ」(福祉新聞2015年12月9日)2年間の延長はありがたいことだと思いますが、しかし2年後に置かれる状況の本質は変わりません。

他の分野で、もうひとつ重要な動きがあります。先に成立した国の平成27年度補正予算に「児童養護施設退所者支援」の項目があり、「一億総活躍」を掲げる厚生労働省予算の中に次の記載があります。

児童養護施設退所者等に対する自立支援資金の貸付 67億円
児童養護施設等を退所し、就職や進学する者等の安定した生活基盤を築き、円滑な自立を実現するため、家賃相当額の貸付及び生活費の貸付を行う。また、児童養護施設等の入所中の子ども等を対象に、就職に必要な各種資格を取得するための経費について貸付を行う(これらの貸付については、一定の条件を満たした場合に返還免除)
平成27年度厚生労働省補正予算(案)の概要
厚生労働省も「児童養護施設退所者支援」の課題を明確に意識したのは、大きな進歩だと思います。しかし問題は、この支援が「貸付金」であることです。大学に進学して「家賃相当分」に「月5万円」は、たしかにその時に大きな力になります。問題は「返還免除となる一定の条件」が「5年間の就労継続」となっていることです。仮にブラック企業で疲弊したり、体調を崩したりして2年・3年で退職した時には、半端ではない返済額となります。奨学金も借りていたら途方もない借金を負うことになります。補正予算をめぐる国会でのやりとりでも、この点が問題となっていました。
1月19日の参議院予算委員会では、公明党の山本香苗議員が「退所者が離職した途端に返還を迫るのではなく、求職活動をしている場合も就業継続とみなすべきだ」と指摘したのに対して、塩崎恭久厚生労働相は、支援資金の返還免除は「離職しても、すぐに再就職するなど就業継続と同等と考えられる場合は柔軟に運用する」と答えています。(「公明新聞」2015年1月20日)

国会での質問を多くしてきた体験から言うと、「柔軟な運用」という答弁は役所によって、その具体が事後的にいかようにも変化します。しかし、この点についてふれた報道はほとんどなく、67億円もの財源を積みながら、政策的にはいい入口に立ちながらも、政府は「給付型」を決断しないままです。政府が「児童養護施設退所者支援」をうたいながら、就職後の離職と同時に「借金苦」で追撃するようでは本末転倒でしょう。基地問題で揺れる沖縄から、この問題に応えるかのように、こんなニュースが配信されています。

沖縄大学同窓会(金城正弘会長)は昨年6月、創立50周年記念事業の一環として児童養護施設出身者や里親家庭で育てられた里子を対象に、入学金相当額(12万5千円)を贈る奨学金制度を創設した。 児童福祉法上、子どもたちが施設や里親家庭にいられるのは原則18歳まで。経済的な理由で、高校卒業後の進学を諦める子どもたちが多いといわれる中、同窓会は進学の夢を後押ししようと制度を新たに設けた。(「琉球新報」2016年1月23日)

沖縄大学は、「子どもの貧困対策」に以前から熱心な取り組みを続けていたことを知っています。児童福祉に詳しい加藤彰彦さんが学長をされていたこともあり、2010年には私もシンポジウムにも呼ばれたことがあります。規模も小さい大学で、ここまで見事な学費免除を実現していることに加えて、入学金も同窓会が贈与するという志の高さに敬服します。進学支援の奨学金の基金の輪を広げると共に、日本全国の大学にもフェアスタートのための障壁を下げてもらえたらと願います。

2011年3月11日の東日本大震災の瞬間、私は社会的養護の当事者参加推進団体「NPO法人 日向ぼっこ」にいました。児童養護施設出身者が集い、互いに支援する場で、ジャーナリストとして若者たちのインタビューを続けている最中でした。「日向ぼっこ」のホームページを見たら、クラウドファンディングを呼びかけていました。

児童養護施設や里親のもとで育った子どもたちへ新生活に必要なものをプレゼントします!
今回のプロジェクトでは、施設や里親家庭など(社会的養護)から離れるのを目前に控えた子どもたち、新生活をはじめる方たちを対象に、自立に必要な物品(冷蔵庫、洗濯機、電子レンジ等、本人が望むもの)お祝いとして贈りたいと思います。しかし、このお祝いの会を開催し、彼ら彼女らの新生活を応援するプレゼントを購入・発送するための資金が不足してしまっています。施設から離れ、新たな生活をする瞬間を一緒に応援し支えたいと思っています。どうか、皆様のお力をお貸しいただきたいです。
社会的養護のもとから社会にはばたく子どもたちを応援したい!

まだまだ小さな一歩ですが、世田谷区からの支援フレームを準備しました。私たちの社会が、少数の小さき声を聞くことができるように、しなやかで品格ある相互扶助が実現できるように、これからも努力したいと思います。