Huffpost Japan
ブログ

ハフポストの言論空間を作るブロガーより、新しい視点とリアルタイムの分析をお届けします

保坂展人 Headshot

「子どもの貧困基金に企業寄付ゼロ」という冷淡。これで「貧困の世代間連鎖」を断ち切れるか

投稿日: 更新:
PHOTO
Getty Images
印刷

何とも悲しくなるニュースに、考えこんでしまいました。「子どもの貧困対策」は、安倍首相の唱導する「一億総活躍国民会議」でも重要テーマとして議論されていると聞きます。少子化が急激に進行しているのに、子どもの貧困率は深刻なままで改善の兆しが見えていません。そこで、「子どもの未来応援基金」を呼びかけたというわけです。

安倍晋三首相らが発起人となり、子どもの貧困対策として10月に立ち上げた民間基金で、政府が期待する経済界からの大口寄付が1件もなく、寄付総額は11月末時点で計約300万円にとどまっていることが5日分かった。

2016年度に始めるNPO法人などへの助成事業には億単位の基金が必要とされるが、官民挙げて取り組むとした「国民運動」の看板事業の実施が危ぶまれている。「子供の未来応援基金」は、子どもの6人に1人が貧困状態にあるとされる中、個人や団体の寄付で基金をつくり、貧困対策に携わるNPOなどへの助成を主な事業としている。(「沖縄タイムス」12月5日・共同通信)

安倍首相肝いりの基金創設に対して、「経済界からの大口寄付は一件もなく」というくだりは、うすら寒くなります。おそらく、新聞記事を見て、何社かの企業寄付があわてて行なわれることは予想出来ますが、「子どもの貧困」の改善に資する規模に裾野を広げる道は険しいと言わなければなりません。

事業によって大きな収益を得た企業は、内部留保で溜めこむのではなく、労働者への分配率を上げ、収縮経済と低賃金で冷えきった社会を底上げすべきですが、総理官邸が経済団体に賃上げを要請するという異例の事態が続いています。

寄付が集まらないことに関連して、日本には寄付文化は根づいていないのだとの論調も聞かれますが、私は決してそうは感じていません。世田谷区長として、2011年の東日本大震災をうけて緊急の義援金を被災自治体に寄付した後で、復旧・復興が長期にわたることを予想して、2011年6月に「世田谷区東日本大震災復興支援金」をつくり募金を始めました。4年半で、世田谷区内の区民や各団体からの寄付は1億2千万円を超えました。年に何度か、市町村単位で寄付金を渡して報告を受けています。500円、千円単位から、高額の寄付まで幅広く頂いています。

今年、このコラムで最も大きな反響があったのは、世田谷区で取り組み始めた「児童養護施設の退所者に対しての住宅支援」の記事でした。

児童養護施設を出る「18歳の春」を孤立させない住宅支援を開始


世田谷区内で、児童養護施設を退所した若者たちに向けて、高齢者用区営住宅の空室(旧管理人室)を5ヶ所、月額1万円程度の低廉な家賃で提供する住宅支援を開始することを決めました。また、若者たちが過ごしてきた児童養護施設とも連携して、地域に居場所をつくり、きめ細かな自立支援を行なうように準備を始めています。(「太陽のまちから」9月29日)

この計画が具体的だったことで、反響が広がりました。一方で、あれこれ論議しても何も進んでいかないことに「壁」を感じている人も多いということもわかりました。家賃負担が軽減されることで、児童養護施設を退所した若者が再スタートを切るための障壁が低くなります。

世田谷区が一般財団法人世田谷トラストまちづくりを通して、20年間一括借り上げをしている「せたがやの家」という集合住宅(特定優良賃貸住宅)があります。「子育て世帯を応援します」と銘打って、収入条件や賃貸期間等の一定の制約はありますが「子育て世帯家賃4万円補助」を行なったところ、多くの問い合わせがありました。こうした「住宅支援」は、「子どもの貧困対策」の太い柱となるべき視点だと思います。

「子どもの貧困対策」が急がれるのは、親の収入の高低がすなわち子どもの人生を決めるという「世代間連鎖」が固定化しつつあるからです。「市場競争と自己責任」という強者に有利な身勝手な論理で、この20年、格差は拡大しました。どのような貧しい環境に生まれた子どもたちにも、「機会の平等」が保証されていなければ社会的公平は揺らぎます。

最近では、子どもの貧困を放置することは社会全体の経済的損失につながるとの調査結果も発表され、この問題を経済対策としても捉えるべきとの観点からも注目を集めています。日本財団が発表した推計によれば、子どもの貧困対策をしなければ、2013年時点で15歳の子どもの生涯所得の合計は2.9兆円少なくなり、税金などの将来の政府収入も1.1兆円減るといいます。(「子どもの貧困で経済損失2.9兆円 日本財団が推計」朝日新聞、12月3日

現在の日本社会で、政策的に効果のある「子どもの貧困対策」を推進していくためには、社会組織の血や筋肉を活性化させ、背骨を大きく正すような改革が必要です。安倍首相の呼びかける「基金」にも意義があることを認めつつも、それだけではあまりにも不十分だ、と言わざるをえません。

子どもの相対的貧困率は上昇傾向。大人1人で子どもを養育している家庭が特に経済的に困窮している。就学援助を受けている小学生・中学生の割合も上昇続く。

子どもの相対的貧困率は1990年代半ば頃からおおむね上昇傾向にあり,平成21(2009)年には15.7%となっている。子どもがいる現役世帯の相対的貧困率は14.6%であり,そのうち,大人が1人の世帯の相対的貧困率が50.8%と,大人が2人以上いる世帯に比べて非常に高い水準となっている。(「平成26年度版 子ども・若者白書」内閣府)

「子どもの貧困率」は、「ひとり親家庭」でとりわけ厳しい状況です。公共投資が、「鉄とコンクリート」に象徴される大型土木工事のみであっていいはずはありません。「ひとり親家庭」の貧困の世代間連鎖を断ち切るために、「ひとり親家庭」に対しての公的住宅支援を抜本的に打ち出したらどうでしょうか。東京都内の民間賃貸住宅で暮らす親子であれば、低廉な家賃で子育てに適した住宅支援が行なわれることで可処分所得はあがります。これだけでは、解決出来ない「非正規雇用」「長時間・低賃金」等の壁もありますが、はじめの一歩にはなります。

「子どもの貧困」に注目が集まるなかで、またも不名誉な記録が更新されました。「国内総生産(GDP)に占める教育への公的支出の割合」が、OECD加盟34か国中で最下位となったというニュースです。6年連続での最下位ですので、事態は深刻と言わざるを得ません。

教育機関への支出、日本が最下位 GDP比で34カ国中

経済協力開発機構(OECD)は24日、教育に関する調査結果を発表した。2012年の国内総生産(GDP)に占める教育機関への公的支出の割合は、日本は3・5%で、スロバキアと並んで加盟国34カ国中、最下位だった。
 OECDによると、公的支出のGDP比は加盟国平均が4・7%。最も高かったのはノルウェー(6・5%)で、ベルギー、アイスランド(いずれも5・9%)、フィンランド(5・7%)が続いた。英国は5・2%、米国と韓国はともに4・7%だった。
http://www.asahi.com/articles/ASHCS4PSXHCSUTIL03G.html

とりわけ、大学など高等教育における親の負担率が高いことも指摘されています。子育てをためらう大きな懸念が教育費負担の大きさにあり、「貧困の世代間連鎖」にも大きな影を投げかけています。「一億総活躍」をめざすというなら、教育への投資に熱心でなく、格差是正に具体策のない現状を早急に改善して、「OECD加盟国最下位」から抜け出す数値目標を掲げるべきです。

2015年に生まれる子どもは、全国で100万人を切る可能性があります。方向転換に必要な時間は、もうほとんど過去に使い果たしています。政府が本気になって政策転換をはかってこそ、民間寄付も実をあげるのではないでしょうか。