「排除の論理」はなぜ心を打たないのか 10月総選挙大波乱へ

総選挙の公示は刻々と迫る中で、ようやく「総選挙の構図」が見えてきました。

10月2日午後5時。枝野幸男前衆議院議員が記者会見し、「立憲民主党」を立ち上げることを表明しました。この間の動きを通して、「希望の党の理念や政策は私たちのめざす理念や政策の方向性とは異なる」として、民主党から民進党へと継続した理念と政策を継承して総選挙をたたかうことを明らかにしました。いったい、目がまわるようなこの1週間で、何が起きていたのかをふり返ってみたいと思います。

9月28日、臨時国会の冒頭で衆議院は解散し、10月10日公示の総選挙へと各党は走り出しました。この日、野党第一党である民進党の前原誠司代表が、民進党の候補者は擁立せずに、9月26日に出発したばかりの希望の党(小池百合子代表)に公認申請をする方針を示しました。

「選別ないと明言して」 希望「合流」、民進議員の胸中:朝日新聞デジタル2017年9月28日

民進党が28日に開いた両院議員総会・懇談会。前原誠司代表が提案した新党「希望の党」との事実上の合流という内容に、出席者からは不安や疑問の声も漏れたが、明確に反対を唱える声はなかった。

ところが、早々に希望の党は民進党を全員受け入れるつもりは「さらさらない」として、「憲法改正」「安保法」に賛成か否かを機軸にして、「選別をさせてもらう」との姿勢を明確にしました。久しぶりに「排除の論理」という言葉がメディアに浮上しました。

希望、排除の論理 小池氏「全員受け入れ、さらさらない」 民進、広がる反発 - 毎日新聞 2017年9月30日

希望の党の小池百合子代表(東京都知事)は民進党からの合流について基本政策が一致しない場合は「排除する」と明言した。新党に民進党色がつき、清新さが薄れるのを嫌ったためだが、選別しすぎれば候補者が不足するジレンマもある。民進党内には安全保障政策などを理由に選別を進める「排除の論理」への反発が広がっている。

「排除の論理」とは、1996年の衆議院解散・総選挙の前に、結党まもない民主党への参加をめぐって使われた言葉です。当時の新党さきがけや、社会民主党(同年1月に日本社会党から党名変更)の多くの議員が民主党に参加しましたが、村山富市元総理や、武村正義元官房長官等の移行を締め出した当時のことです。「排除の論理」はこの年の流行語大賞ともなりました。とくに、社民党は一度は常任幹事会で「全員で民主党に移行する」と決定しながら、民主党側からの「選別・排除」が明確になったことで、「総選挙は社民党で闘う」と180度方針転換しました。時代も、政治状況も違いますが、21年前の出来事の渦中にいた私などは、この1週間の政治ニュースに既視感を覚えます。排除する側には「権力行使」の充実感があるのかもしれませんが、排除される側はたまったものではありません。

2005年8月に小泉純一郎総理が打って出た「郵政解散」では、反対派に対しては「排除の論理」に止まらずに、「潰しの刺客」派遣が話題となりました。野党対与党の総選挙ではなく自民党内の「改革派」と「守旧派」の勝負だと大芝居が始まりました。まるでコロシアムの観客席が総立ちになるように劇場政治を盛り上げたのが、郵政改革に反対する議員に対して「刺客」を差し向けるという手法でした。小池都知事は、兵庫から東京へと選挙区を変えて、「刺客第1号」として脚光を浴びたことも記憶に残っています。

9月28日の解散の朝、私は次のようにツイートしました。

一連の経過の中で、メディアに「リベラル排除」が頻繁に登場しています。まるで、「リベラル」は存在意義はないとばかりの感覚の政治家がいることに驚きますが、本来は「寛容な保守」と「リベラル」は共に重なり合うはずです。亡くなった加藤紘一元自民党幹事長は、「日本の政界で最高最強のリベラル」と呼ばれました。山崎拓元自民党副総裁の弔辞が、そのようにうたいあげています。

加藤紘一氏葬儀:山崎拓氏「最強最高のリベラルが去った」 - 毎日新聞 2017年9月17日

自民党の加藤紘一元幹事長の自民党と加藤家の合同葬が15日、東京都港区の青山葬儀所で営まれた。小泉純一郎元首相とともに「YKK」と呼ばれる盟友関係にあった山崎拓元副総裁は「君は『憲法9条が日本の平和を守っているんだ』と断言した。振り返ると僕に対する遺言だった。日本政界の最強最高のリベラルがこの世を去った」と悼んだ。

麹町中学の先輩である加藤紘一さんは、私が衆議院に初当選した当時、自民党幹事長の立場でありながら、よく話を聞かせてくれました。当時は、自民・社民・さきがけ連立政権時代です。

「自民党の議席から見ると、社民党の議席は確かに小さいけれど、国民の世論が分かれるような政治課題については、多数決ではないじっくりした議論を経てあなた方が納得するところまでこぎつければ、間違いがないと思っている」と、私の顔を見ながら何度か語ってくれたことを思い出します。

自社さ連立政権時代に、「NPO法案」 が成立して市民活動を積極的に評価し、市民参加を促す時代が始まりました。「情報公開法」は、役所内の密室で行われてきた事務書類や手続きを透明化することで、批判の目にさらされることで公平・公正な行政となっているかチェックできる仕組みです。

「最高最強のリベラル」と呼ばれた加藤紘一さんが、保守本流として自民党の舵取りをしていた頃から20年の月日が経過して、「政治の光景」は一変しました。とりわけ、安倍政権となって、市民活動や市民参加を促すような政策にはブロックがかかり、「特定秘密保護法」で再び行政機関が随意に秘密指定をして、情報公開の対象から外すことができるようになりました。総理夫人や総理周辺のお友達は、通常の市民にはありえない便宜供与を受けたのではないかという疑惑が「森友・加計問題」です。

安倍首相による臨時国会冒頭での解散は、そもそも大義が見当たらずに、国会での議論を封じるものでした。そもそも、この冒頭解散も含めて「森友・加計問題」や「共謀罪」を力づくで通した政権運営の手荒な姿勢が大きく問われるのが、今回の総選挙だったはずです。

長すぎる国会夏休みと「宿題未提出」解散(ハフポスト2017年9月25日)

野党に時間を与えず、解散・総選挙に突入するという判断です。機を制して得るものを最大化するためにも、国会での議論は最小化し失点を増やさないという功利的な計算が働いたことでしょう。

野党の隙を突いた「奇襲解散」という功利的な計算は、文字通り「計算違い」となりました。9月26日の安倍首相の解散表明記者会見の直前に、小池東京都知事が「希望の党」代表就任の記者会見をぶつけます。そして、前原民進党代表が打った前代未聞の奇策である希望の党への「民進党丸ごと合流」によって、政界はカオス状態に入り、さらに「排除の論理」で野党結集の求心力より遠心力が働き、民進党の事実上の分裂劇へと転じていきます。

政治は言葉がすべてです。公平で平等な社会をめざす社会的包摂とは、差別や格差を生む社会的排除とは正反対の姿勢です。総選挙直前の「排除の論理」とは、権力を行使して他者の尊厳を奪う行為であり、寛容ではなく偏狭な態度です。さらに、これからの政治は「苦しい思いをしている人々」「社会的排除の風圧に弱っている人々」に対しての共感力を持った社会的包摂の政策が問われるのです。

10月1日、武蔵野市長選挙では、民進党元都議会議員の松下玲子さんが、自民党推薦の候補をダブルスコアに近い数字で破り、圧勝しました。

武蔵野市長選 初の女性市長誕生 松下さん、市政継承訴え初当選 (東京新聞2017年10月1日)

一日投開票の武蔵野市長選は、無所属新人の松下玲子さん(47)=民進、共産、自由、社民、ネット支持=が、無所属新人の元市議高野恒一郎さん(45)=自民推薦=との一騎打ちを制し、初当選した。同市の女性市長誕生は初めて。投票率は44・26%で、過去最低だった前回41・29%を上回った。

武蔵野市長選挙では、都議会議員選挙を制した都民ファーストは候補者を立てることができませんでした。公明党は自主投票にまわりました。国政選挙と、自治体の首長選挙は同列に論じられないという点を差し引いても、「野党共闘」をベースに無所属でたたかった松下さんの堂々たる圧勝にも、今後の総選挙を予測するヒントがあると思います。

ジェットコースターのような日々が1週間、続いてきました。総選挙の公示は刻々と迫る中で、ようやく「総選挙の構図」が見えてきました。

基本軸は、今回の解散・議論封印も含めた「安倍一強政治」と呼ばれる強権的な政権運営に対しての審判です。もうひとつの軸は、「改憲に賛成」「安保法賛成」という共通項を持った自民党と第2保守政党に対して、強く対抗する寛容な保守リベラルから野党共闘までという選択肢です。

発車のベルが鳴り響く中で、「立憲民主党」の滑り込み結成を決めた枝野幸男さんの決断に心から拍手を送り、これからの実りある政策論議に、積極的に加わりたいと思います。

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