「長野県の水力発電所」から「世田谷区の保育園」への電力購入

自然エネルギーを介した「自治体間連携」が始まりました。
長野県 / 世田谷区

世田谷区の区立保育園約40園に、長野県が新規開設した県営水力発電所の電気が供給されます。3月30日の私の定例記者会見で発表しました。人口密度の高い住宅地が広がる世田谷区では、自然エネルギーは屋根の上に太陽光発電を設置する以外に、なかなか選択肢がありませんでした。そこで、全国の交流都市で設置可能な太陽光をはじめ、水力、風力、地熱、バイオマス等の自然エネルギーを世田谷区内で購入する「地域間連携」を積極的に進める方針を立てたのが、今から6年前、東日本大震災と原発事故のあった2011年の秋でした。時間はかかりましたが、2016年の電力全面自由化を受けて、ようやく具体像を現実化する道が切り開かれました。

長野県が水力発電を世田谷区に販売開始 再生エネで地方と都市の連携づくり(2017年4月3日・THE PAGE)

長野県企業局は豊富な雪解け水から発電した電力を4月1日から東京・世田谷区の区立保育園向けに販売・送電開始しました。企業局によると地方自治体が東京の自治体(特別区)向けに水力電力を販売するのは全国で初めてで、再生エネルギー活用に取り組んでいる世田谷区とのコラボ事業。豊富な水力など再生可能エネルギーに注目した地方自治体同士の新たな経営戦略として注目を集めそうです。

長野県企業局は「単なる売電で終わらせず、これをきっかけに電力販売地域との交流に努め、発電所の見学ツアーなども予定したい」と、"電力を通じた響き合い"も計画。地方創生や地域間交流のきっかけにしたいとしています。

阿部守一長野県知事とは、以前に長野県東京事務所でお会いしてします。私からは、「自然エネルギーを地域間連携で世田谷区で使いたい」というお話をして、阿部知事からは「素晴らしい自然環境を世田谷区の子どもさんにも味わっていただきたい」という思いをお聞きしました。今回、長野県の新水力発電所から生まれる電気を世田谷区の区立保育園で利用するプロジェクトが動き出したことを、3月24日に阿部知事はこのように発表されています。

知事会見2017年3月14日長野県

今回、世田谷区の特に子どもたちが使う電力について私たち長野県の電力を選んでいただけたことは、これからの地方創生、都市と農山村の交流という意味でも大変意義があることだと思いますし、また、子どもたちが、自分たちが使っている電力というのは長野県の伊那市高遠、そして桜の名所でもある美しいところで発電されているんだということを受け止めて理解してもらうことは、子どもたちにとってもプラスになるんじゃないかと思っています。

世田谷区の保坂区長が率先して再生可能エネルギーを普及拡大しようと取り組みを進めているわけです。私もかつて保坂区長と直接お話させてもらいましたけれども、長野県と違って世田谷区の中で自然エネルギーで発電できる場所、スペースはそれほど多くはない中で、こういう交流ができることを大変うれしく思っています。

私も、3月30日の世田谷区長定例記者会見で、「世田谷区が『区民の再生可能エネルギー利用率25%』の達成をめざし、長野県の高遠発電所と、奥裾花第2発電所の電力を主に41園の区立保育園で使います」と発表しました。続けて「今回の取り組みでは、小売電気事業者が長野県の水力発電を中心に、他のバックアップ電源も併せて供給するので、100%長野県ではありませんが、主にふたつの長野県の水力発電所の電力が世田谷の区立保育園に給電されることになります」と説明しました。この仕組みについて、先に紹介した記事を続けて引用します。

企業局によると、4年前から整備してきた同県伊那市の「高遠さくら発電所」(最大出力180キロワット時=約350世帯分)と、長野市の「奥裾花(おくすそばな)第2発電所」(最大出力980キロワット時=約1400世帯分)の2基の水力発電所の電力を4月から丸紅が出資する新電力会社に販売。同社と連携する電力販売会社の「みんな電力」(世田谷区)が世田谷区と契約し、これらを通じて電力を同区に販売します。名古屋、大阪方面などの企業、個人顧客への販売契約にも取り組んでいます。(長野県が水力発電を世田谷区に販売開始 再生エネで地方と都市の連携づくり 2017年4月3日・THE PAGE)

このスキームを長野県企業局電気事業課がチャートに整理してくれました。

上記の図のように、長野県の高遠さくら発電所と奥裾花第2発電所の電力は、長野県が大都市部に供給することを条件にプロポーザルを実施し、丸紅新電力株式会社と連携するみんな電力に決定し、売却されています。そして2017年4月1日から世田谷区の区立保育園に電力供給が始まっています。これまで、世田谷区が支払ってきた一般家庭用の低圧電力料金は約6000万円でしたが、8%から10%程度(約500万円)安くなる見通しです。これまで中部電力に全て売電してきた長野県も、新電力の買取り価格が、キロワット時あたり0・5円従来よりも高くなり、約2億円の収入増となります。

そもそも、このブログのタイトル「太陽のまちから」は、自然エネルギーへの転換を意識したものでした。

エネルギー転換 自治体連携で一歩を (2013年8月6日・朝日新聞デジタル&w )

「首長懇談会」では、私がまず、神奈川県三浦市の区有地に太陽光発電所を建設していることを紹介しました。そのうえで、「交流自治体のエネルギー事業で生まれた電気を、PPS(新電力=特定規模電気事業者)を通じて、88万の人口を抱える世田谷区が購入することができれば」と語りかけました。小さくとも確実な一歩を刻んでいきたいとの思いを伝えたのです。

こうして、自治体間連携をテーマとした会議、自然エネルギーの地域間連携をめざした会議を何度も呼びかけ、回数を重ねてきました。2年前の2015年11月に『首長会談せたがや』を開催し、16自治体に集まっていただきました。基礎自治体の会議でしたが、長野県はオブザーバーとして参加、「長野県は水力発電所を10万キロワット持ってます。信州でつくったクリーンなエネルギーを大都市で使ってもらいたいと思っています。できれば、長野県の農産物等と一緒に買っていただけないかと庁内で検討を始めています」(長野県)とのお話もあり、参加した他の自治体からも、「エネルギーの地域間連携」について強い関心が示されました。

世田谷区との縁組協定を結んで36年となる群馬県川場村のバイオマス発電所の電気を、世田谷区民40世帯に供給するという事業も5月に始まります。

「東京都世田谷区、群馬産の電力を区民に供給 約40世帯を対象に5月から」(EICネット2016年12月15日)

再生可能エネルギーの普及に取り組む世田谷区は、群馬県川場村と連携してバイオマス発電による電力を区民向けに販売する事業を開始する。区は2016年12月から今年1月にかけて電力の購入者を募集。約40世帯に供給する。

川場村は総面積の約9割を森林が占めている。同区と川場村は昨年2月、村の自然エネルギーを活用した発電事業を通じてさらなる交流の活性化を図るため、連携・協力協定を締結した。

今年4月の運転開始に向け、川場村にある道の駅「田園プラザわかば」西側に建設中の木質バイオマス発電所(出力45kW)から電力供給を受ける。同発電所は、川場村と世田谷川場ふるさと公社などが出資する「ウッドビレジ川場」(川場村)が運営。燃料となる木質チップは発電所近くの製材所から供給する。

道の駅では、バイオマス発電で発生する熱で栽培した果物などを販売する。

同区は、新電力「みんな電力」(同区)を電力の小売事業者に選定。同社は、木質バイオマス発電所の電力を購入し、区民に販売する。

地域間連携の道筋が開いた事例が、続いて具体化していきます。思ったよりも長い時間がかかり、制度の壁や複雑な手続きに双方に自治体担当者も苦労を重ねました。その仕事の集積が、今日の出発点に立つことを可能としました。しかし、都市部の自治体が選択的に自然エネルギーを使用することをめざして、長野県や川場村と構築した方法でつながることができれば、都市部の自治体が率先して持続可能なエネルギーを「選んで使う」のがあたりまえとなります。

世田谷区の41の保育園には、「この電力は長野県の水力発電所でつくられた電気を使っています。世田谷区では、地球温暖化対策として環境にやさしい自然エネルギー(再生可能エネルギー)の積極的な活用に取り組んでいます」と書かれたポスターが掲示されています。阿部知事にも世田谷区の保育園の子どもたちの様子を案内したいと思います。また、5月末に予定されている高遠さくら発電所の竣工式典には、私も出席したいと考えています。

自然エネルギーを介した「自治体間連携」が始まりました。

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